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勇者地獄  作者: 田中よしたろう
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聖剣

 次の日は体調不良ということにして仕事を休んだ。

 肉体の損傷は、アダマンティンの自己修復機能で、回復が進んでいる。


 しかしまだあちこちが痛むので、大事をとって休むことにしたのだ。

 章吾は布団に包まれながらぼけーーーっと天井を見上げていた。


 天井を見上げる章吾の視界が褐色のものでいっぱいになる。

 ズム。

 フォルネーゼに顔を踏まれた。


「うぬは何を呆けておる」


 足裏の皮膚常在菌により少しつんとした匂いがする。生物と精神体の中間の存在みたいなくせに、妙なところで生っぽい奴だ。


「どうにも弟に勝てそうに無くてね。途方にくれている」


「聖剣を使えばよかろう」


「お前の封印を解けと言うのか?」


「いまさら、多少力を取り戻したところで世界征服をしようとは思わんわ。それに封印を解くのは半分だけであろ」


「本当に、魔王に戻ったりしないだろうな?」


「お前自身に封じられている力もあるからの。大丈夫じゃて」


「本当?」


「信じろ」


「う~~~ん。仕方ない。緊急避難的に封印を解くしかない。か」




「じゃ、やるぞ」


「うむ」


 フォルネーゼと正面に向かい合うと章吾は黄金の勇者の姿になった。

 そして、ドン・ドロワスより教えられていた解呪のキーワードを唱える。


「アーーーッハッハッハッ!!」(勇者阿久和 章吾と)


「フヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」(ドン・ドロワスの名において)


「フヒッヒッヒッヒッヒッ!!」(命ずる)


「ヒャッハアアアアアアアア」(魔術の神ツトゥアグアとの契約により)


「クケーーーーッケッケ!!」(銘無しの聖剣に宿りし力よ)


「ケェーーーーーーーーッ!!」(解けよ!!)


 胸部の勇者砲の砲口が展開する。強大な魔力が渦を巻くと、砲口の中から聖剣がせり出してくる。

 その柄を掴み、引き抜くとフォルネーゼが光に包まれた。


 バンッ!!という音と共に光がはじけると、それまで十二歳ぐらいの幼女の姿だったフォルネーゼが十七歳くらいの少女の姿に変化していた。


「久しぶりにこの姿になったの」


 自分の体を満足そうに眺めると、ポンッ煙と音がして元の十二歳ぐらいの姿に戻った。幼女の姿の方が気に入っていたのか?


「ま、これで見た目の年齢は自由自在じゃ」


 章吾は、久しぶりに手にした愛用の聖剣を眺める。

 それは剣としては特異な姿だった。


 全長は一メートルほどであろうか、柄の部分には潰れた楕円形の金属の止め具が付いていた。そしてその上のグリップの部分には黒いなめし皮が巻かれ、滑りにくくされている。敵の剣を受けるための鍔は付いていない。剣で有りながら刃は付いていない。根元から急激に太くなると先端部分は打撃に適したようにある程度一定の太さの円柱になっている。円柱部分には何かのマークが描かれていた。


 そう、それはどう見ても野球の金属バットにしか見えなかった。


 この剣の事はさすがに〝世界の悪〟も掴んでいないだろう。何せ章吾にも実はこれが何なのか良く分かっていないのだから。


 章吾と仲間たちが勝手に聖剣と呼んでいるに過ぎない。まあ、その呼び名に相応しい力は持っているが。


 実はこの剣は章吾以外の人間が持ってもただのガラクタ並の価値しかない。それどころか魔力や生命力を根こそぎ吸い取られて干からびてしまう呪いのアイテムに近い。無尽蔵の魔力と生命力がある章吾だからこそ平然と使用できる。その上、吸い取った魔力量に応じて攻撃力が倍加していくため、アダマンティンの膨大な魔力と合わさると最強の武器となる。


 聖剣〝無銘〟


 勇者の剣としてシュブニグラスの収束世界で有名になったこの武器は、実は最初に訪れた街の道具屋の隅に、埃を被って転がっていたのだった。


 それを偶然発見した章吾が、何でこんな所に金属バットが、と興味本位で振ってみた所、とてつもない威力を発揮したために買っていくことに……。


 由来等の記録も見つからず不明。なぜ、金属バットそっくりの外見なのかも不明(中身は魔術アイテムらしく別物)。本来、勇者の物語とは全く関係の無い、また別の異世界の存在なのではないか?章吾はそう感じていた。


「それよりも、お主が白金の力を使えば楽勝なのではないのか?」


「白金?何のことだ?」


「……覚えていないならいい。忘れてくれ?」


「?」


 突然、訳の分からないことを言い出したフォルネーゼに章吾は訝しげな視線を向けた。

 しかし、それ以上問いかけても答えてくれそうに無い雰囲気だったので、気を取り直して今やるべきことに考えを向けた。


「よし、これで対抗手段は確保した。後は、貴資がどこにいるかだが……」




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