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勇者地獄  作者: 田中よしたろう
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田中

 可憐が田中と名乗る刑事の運転する覆面パトカーでそこに着いたとき、現場は〝KEEP OUT〟と書かれた黄色いテープで封鎖されていた。


「ちょっとごめんなさいよぉ」


 田中は、勝手知ったるかんじで、封鎖された路地に入っていく。路面や、道路に面した空地には中央に高温に晒されたようなこげ跡のあるクレーターが出来ていた。


 半日ほど前、章吾と貴資の戦闘した路地だ。金色の怪人が暴れていると言う一一〇番通報が有り、警官が駆けつけたが既に容疑者達は立ち去った後だったらしい。

 現場に残された破壊後から先日のテロとの関連が疑われ、現場検証が行われている。


 それを耳聡く同僚たちの会話から聞きつけた田中は、可憐をつれて現場までやってきたのだった。


 〝あたし、すごく場違い〟


 田中に無理やり連れ出された可憐は居心地が悪そうに彼の後に続いていた。交通課の彼女には、現場検証などに参加した経験はないのだ。


 「おお、そうか、そうか」


 田中は現場で作業をしている捜査員たちから次々に状況を聞き出している。


 〝あれでけっこう人望は有るみたい〟


 部署ごとの縄張りもあるだろうに、鑑識課の人間や、刑事も田中とにこやかに話ながら状況を伝えている。

 粗方情報を聞き終えたのか、田中が可憐の元に戻ってくる。 


「なんで……」


「あん?」


「なんで、田中さんは独りで動いているんです?監視カメラの映像を押収したときには捜査チームにいたんですよね?」


「そうだな。端的に言えばあんたのせいだな」


「へっ?!わたし?」


「あんたの証言で、金色の怪人がこの件に関わってやがるのが分かったからな。」


「十年前の渋谷の事件、覚えているか?」


「あの、自衛隊の一部がクーデターを起こしたって言う?」


「ああ、当時あの事件に関わる証言の中に金色に光る怪人の目撃談があってな。今回同様、一笑に付されて相手にされなかったが」


「それって!?」


「俺は奴が容疑者か、事件の真相に深く関わっていると思っている」


「確か首謀者は未だ不明なんですよね。自衛隊の上層部が軒並み逮捕されたみたいですけど」


「ああ。それでなんで俺がチームを外されたかだよな」

「はい」


「俺は渋谷の事件で妻と娘を亡くしている」


「あ……」


 可憐は息を呑んだ。


「申し訳ありません。踏み込んだことを聞いて」


 通例として、親族が事件の被害者にいる場合、捜査から外される。


「まあ、俺が一人で金色金色って騒いでいるだけなんだがよぉ。黙ってりゃ外されてなかったさ」


 田中は首を振ってそう嘯いた。


「それより、重要な情報を仕入れてきたぜ。爆発のあった前後、この近くの路地に第八運輸って運送会社のトラックが止まっていたらしい」


「第八運輸って横浜の事件の時も近くでトラックが目撃された会社ですよね」


「ああ、前回の件、今回の件とも何か関連が有るのは馬鹿でも分かることだ」


「だけど、捜査本部の連中はこんな事まで認識できなくなっちまってるらしい。お嬢ちゃんには影響が出てないみたいだけどな。金色と接触したせいか?」


「え?それってどういう」


「そんなこたぁどうでもいい。それよりこの辺を統括する支店に問い合わせたが、その時間にこの辺りに配達に出てる車はねえって言いやがる。直接乗り込んで問いただしてやろうぜ」


「ちょっ、待ってくださいよぉ」


 またもや可憐の手をぐいぐい引っ張っていく田中。これは一種のパワハラなんじゃないかと可憐はトホホという気持ちで思った。


 そこに一人の若い捜査員が周辺への聞き込みを終えて現場へとやってきた。

 遠目に去っていく田中と可憐を見ながら不思議そうな顔をして先輩の捜査員に訪ねる。


「あれ、誰ですか?女の子の方は交通課の子ですよねえ」


「はあ!?なに言ってんだ?うちの課の田中刑事に決まってんだろ!!捜査会議でおまえも一緒だったろ!!」


「あれ?そんな人いましたっけぇ?」


「バカッいつまでもぼけてないで現場検証手伝え」


「ウッス」


 そう、現場に〝後から来た〟捜査員だけが田中の名前を知らなかった。




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