異世界女神に無理やり転生ガチャされた件についてそこだけちょっと語りたい
なんだか久しぶりで、やっぱり小説って書くの大変ですが結構楽しんで書けました。
俺の名前は田山 郎太。
なんか平凡な様でそうでもない様な、いまいち判断の付きかねる名前だとは良く言われる。
で、そんな俺だが、年齢は27才。
若者なのかおっさんなのか、これまたなんと言っていいのか微妙な年齢である。で、しかも職業はサラリーマン。
ああそうさ、特に大して特徴のないありふれ〜た会社に勤務しているよ。まあ紹介し甲斐のないプロフィールだけど仕方ないだろ事実なんだから…。
ただしかし、問題はここからだ。
ここからちょっと普通じゃない話になって来るんだよねこれが。
そう、これは俺が仕事から帰って飯食って風呂入って、なんだか食後のデザートが欲しくなってコンビニに出掛けた時の事だ。
とりあえず定番のコンビニ製品を脳死状態で手に取り、そしてレジで精算している時、突然轟音と共にコンビニの出入口が爆発したのだった。
と言うか、正確には車が…。
いや、トヨタには悪いがもっと正確に言うと、プリウスが猛スピードでコンビニに突っ込んで来たのだった。
ああ、もちろんトヨタはなんも悪くない。悪いのは100%運転してたクソジジイである。どうせブレーキとアクセルを踏み間違えたのだろう。ただ俺は、その暴走の直撃を受けて即死したらしい。
おそらく頭を強く打ったりしたのだと思う。幸いな事に内臓破裂とか骨折とか、そう言う死に際の苦痛を感じる暇は全くなかった様だ。
と言う事で、残念ながら俺の記憶はここまでだった。
そして気がつけば、俺は深海の底の様な所で、一人ポツンと立ち尽くしていた。
「ようこそ運命次元の彼方へ。
私の名はアミラテリス。世界を支える超越者の一人、いわゆる女神の一柱と思ってくれていい」
そんな棒立ちの俺に、突然厳かな女の声が降り注いだ。
あー、いや。実はよくよく考えてみると、どうやら俺はこの海底の様な所にかなり長い間立っていたみたいだ。
そしてそのアミラテリスと言う女神さんも、いつ頃からかゆっくり姿を現し始め、ついにその全貌を顕にした所でお声が掛かったと言う訳だ。
「どうもこんにちは、自分は田山郎太と言います…」
一応俺は丁寧な言葉遣いを心掛けた。と言うのも、この女神さまの神気と言うかヤバそうオーラが半端なかったからだ。
まあぶっちゃけ聖邪の区別はさっぱり付かなかったが、何故かその威圧感だけは否応なく感じさせられたのだ。もう媚びへつらう他ないのである。
ただしこの時の俺の心はかなりブルーで、どうしてもテンションを上げる事が出来なかった。
後から考えてみたら、どうやらまだこの時点で俺は、自分が死んだと言う事に気付いていなかった様だ。
「ちなみに田山郎太さん。あなたはもう死んでますw」
「ほわっ?!」
な、なんかこの女神、容赦なかった。
つーか普通もうちょい気を遣わんか?、この女神絶対にドSでKYだろ。
てな訳で俺、普通にヘコみました…。orz
え?、だって俺、コンビニに突っ込んだ暴走車に轢かれて死んだんだぜ?、クソジジイのせいでよ!。
いくらなんでもそんな最期ねえだろ、しかも27才でまだまだ未来ある若者だってのに、未練が無い訳ねえだろ!。
「あーも、そんなのいいから。
んでね、あなたにはこれから他の世界に転生して貰うんだけどさ、その際に何らかのオプションが付く訳なのよ。だからそこん所しっかり話聞いてくれる?」
やだ、この女神さま、一人でどんどこ先に進まはる…。
「ちょ、ちょっと待って下さい。その異世界転生って拒否とか方針転換とかって可能ですか?!」
俺はこの一方的な流れを断ち切るべく、思い切って声を上げてみた。
うん、でも正直かなり怖い。なんかヤバそうなオーラがさらにパワーアップしてる!。
「ふむ、確かにそう言う選択肢は無くもないわ。
で?、それで貴方は私のお願いには応じられないと、そう言うのかな?」
するとこの海底の様な場所で、女神さまを中心に『ゴゴゴゴゴ…』と言う分かりやすい怒気が沸き起こる。マジかよコイツ、ヤベーな!。
「い、いえ、そうではありません!。あくまでも可能性について言及しただけで、女神さまのご要望には出来る限りお応えしたい、そう考えております!。
なのでもし勘違いをさせてしまったのなら申し訳ございません、まさにそれは我が不徳の致す所であります、ご容赦下さい!」
俺は光速の勢いで日和った。
だがそこに後悔は無い。むしろ瞬時に手のひら返しが出来た自分の機転に、過去最大級の賛辞を贈りたいほどである。
それほどまでにこの女神の殺意、それはマジでチビるくらい恐ろしかったんだから。
「ええ、そうでしょうとも。あまり余計な事に口出しするのは感心しませんよ、気を付けなさい。
え〜、それで何処まで話をしましたか?。あーそうね、オプションの話ね」
くっそこの女神、人の思惑なんざこれっぽっちも気にせず勝手に話を進めやがってぇ!。
でもそのお陰で、ついさっきまで俺を圧迫していたドス黒い殺意はきれいさっぱり消え失せた。
この時ばかりは、その移り気の早さにホッとさせられる俺であったと言う。
「それでですね…。もう、ちゃんと話を聞いてますか?。
え〜、つまり貴方には、集められた要らない魂をつぎ込んで、ランダムに特殊能力を授かって貰います。
え?、要らない魂とは有象無象のつまらない魂の事ですよ。まあ一概に全てが人の魂と言う訳ではありませんが、一般的な人間の魂がほとんどですね。
ふふっ、安心なさい?。貴方の魂は私の加護を受けやすい傾向にあります。いわゆる恩寵者ですね。そう言う魂はちゃんと使い途を考えて使うから恐れる事は何もありませんよ♡」
いや、全然安心出来ねーよ、つーか心底恐ろしいんですけど?!。
思った通り、やはり俺の心が抱える不安は神に届かず、ヤバすぎる女神は淡々と話を続けるのであった。
「あー、でもなんだか説明が面倒いわね、もっと分かりやすく簡単に言うわよ。
つまりね、集めた無駄魂6万個をbetして、貴方の加護をガチャるって寸法なのよ分かる?」
わ、分かりやすすぎます…。
「そして何故ガチャるかって言うと、本来なら6万個使ったらちょうど6万個分の効果しか得られないのだけど、ここでランダム要素を加える事によってもしかしたら10倍、上手く行けば100倍の効果が得られる可能性が発生するって訳なのよ!。ああっ、ガチャって楽しいわ〜、これ最初に考えた奴天才ね!」
おーいクソ女神、お前ガチャにハマりまくってんじゃねーか、しかも他人の魂でなにしてんの?。
て言うかこいつ本当に女神か?、いや絶対に邪神だよな。だって今の所こいつ邪神要素しかないんだもん。女神要素ゼロなんだもん。
「よーし!、じゃあ早速ガチャるわよ〜。
さあ、いでよルーレット、来たりて我が射幸心を煽りなさい!。(←オイ)
って、ハイ来たぁ〜!。
それではルーレットォ〜、スタート!」
ジャンジャララララ〜っと、無数の卵がキラキラと輝きながら俺の頭上を回転した。
暗く静かだった海底風景は一変し、悪趣味なパチ屋的光景が周辺を騒がせる。
「〜〜〜〜、ハイ、ストップゥ〜!」
女神がそう告げると、騒々しいエフェクトは全て停止し、ルーレットだけが力の抜けた自転状態でその速度を落としていく。
「くぅ〜〜〜ふっふっふっふ!。
待ってなさいよ魔王ニオラルダス!。
女神であるこの私を蔑ろにしやがって、今度こそ星5の最強キャラを送り込んでくれるわ!」
なんか、むちゃくちゃ私情が入りまくってるけど大丈夫?。
さあ来い、さあ来いと、小躍りしそうなくらいテンションアゲアゲな女神(自称)さまを眺めつつ、俺はルーレットが完全に停止するのを待った。
チッ、チッ、チッ、チーーーーン!。
すると数ある卵の中、たった一つが俺の眼前に降って来た。
ただ俺にはこの卵と他の卵とのレアリティの違いが全く分からなかった。だって卵はみんなキラキラしていて、どれも微妙に違うだけにしか見えなかったからだ。
しかし自称女神さまにはその違いが分かった様である。何しろ彼女はもうすでにがっくりと肩を落としていたからだ。重症のガチャラーあるあるかな?。
とか思ってたら女神さま倒れた、そんでそのまま不貞寝するし…。
「パンパカパ〜ン!。
おめでとうございます、星4の『愚者』当たりました〜。
さあ、卵を割って中の具をお食べ下さ〜い」
と、ここで突然現れた天使とやらが、自称女神に代わって場を仕切り始めた。
正直また変なのが増えたなと思いながらも、言われるがままに俺はその指示に従う。
と言うのも、その天使は道化じみた振る舞いの間に、ちょくちょく俺に威圧感マシマシな「いいから大人しく言う事聞いとけ」的威嚇行為をして来たからだ。
まあ女神さまと比べるとそれほどではないが、それでも単なる一般人である俺にとっては充分に脅威だ、従う他はない。
で、言われた通りに卵の殻を割り、ドロ〜ンと垂れ下がる中身をパクッと飲み込んだ俺。
ちなみに後味はサッパリしてるが、別にこれと言って美味くも不味くもない。ま、これはそもそも食べ物ですらないのだろう。
「アミラテリス様、準備は整いましたよ、後はよろしくお願いします!」
天使は半ばやけっぱちな感じでそう言った。
あー、この天使もけっこう苦労してるのかな?。
すると、女神アミラテリスは地べたに寝転んだままそれに応えた。
「はぁ…、いくら星4とは言え『愚者』は無理でしょ…。
だいたい愚者って上手く使いこなした奴を見た事ないもん、だからどう育てたらいいのかもさっぱり分かんないし。
それに運良く長生きしてもすぐ裏切ったり、気持ち悪い信者とか作ったりして、とにかく予測不能な行動しかしないから私嫌いなのよねこれ…」
なんか申し訳ない気もしなくはないが、それにしても流石はクソ女神さまだ、無理やり愚者に決められてしまった人間に対して、1ミリたりとも気を遣わないその姿はもはや清々しいくらいに頭おかしい。
「しかし、我々天使には転生は出来ません。これはアミラテリス様のお役目です、どうかさっさとこの一連の作業を終了させて頂きませんと…」
おうちに帰れません…、みたいに悲しげな表情を浮かべる天使。
「はぁ〜、しょうがないなぁ。でも確かにこのまま放ったらかしじゃ、おうちに帰れないか…」(←お前らそんなにおうちに帰りてぇのかよ)
そう言って、女神はグリンと俺に顔を振り向けた、寝転んだままで…。
ビクッとする俺。
器用と言うかなんと言うか、不気味な奴め。
ただそれとは別に、俺はここに至って身の危険を感じていた。
と言うのも、使えないユニットは配置するまでもなく廃棄処分?、そんな嫌な流れを想像してしまっていたからである。
無言で目と目が合う俺と女神。
ガチャでハズレを引いてやる気を失ったせいか、完全に死魚の眼をした女神がうっすらと口を開く。
「それじゃあこれから転生、して貰おうかな?。
あ、でも別にあんたは好きに生きていいわ。そもそも愚者ってバトル向きじゃないし、無理してモンスターとかも狩ろうとしない方がいいわね、絶対死ぬからw。
ま、こちらとしてはレアなサンプルとして扱うので、ちょっとでも長生きする事を心掛けてみれば?
ただし、私を裏切ったら全力でぶっ潰すからね!」
つーか、どちらかと言うと俺の方がとっくの昔に裏切られた感があるのは気のせいでしょうか?。
でもまあこの状況は思ったより悪くはない。最悪処分される事を考えれば、一応このまま転生はしてくれるみたいだし。
まあぶっちゃけ俺、今だに自分が死んで転生される事に納得してはいないんだけどね。もう今さらだからどうしようもないけど…。
「てな訳で転生先は適当に。前世の記憶も完全な持ち越しは不可で、後は(記憶がどれだけ残るかは)適当に。そして職能は星4で難易度ベリーハードの『愚者』ね。
さあ、それでは開け運命流転の次元門よ、我が加護を受けし恩寵者にその導きを示してやるがいい!。
ほ〜ら、門が開いたわよ?。
まあ出来る限り必死に足掻いてみなさい、愚者の最適解を引き出せたあかつきには、もしかしたらまた加護を重ねてあげられるかも知れないしね。
じゃあ、いってらさ〜い!」
「えっ、もう?!」
あっさり門とやらが開かれると、俺を中心にして渦巻きが発生した。
これが門なのか?。
ハッとして女神の方を振り向くと、いつの間にか彼女は複数の天使に肩を借り、フワフワと天へ昇って行く所だった。なんだその絵面は?。
やる気なさそうに小さく片手をバイバイする女神。なんだか一人置き去りにされる様で嫌だなこれ…。
とか思ってたら、渦巻きは一気に大洪水みたいな勢いで俺を渦の中心に固定した。
み、身動きが取れん…。
そしてふと足元を見ると、下には何も無くて完全な暗闇、虚空が広がっていた。なにこれ?、むっちゃ怖ぇ〜!。
するとズルズルその虚空に引き寄せられ、俺の足がゆっくり虚空に沈んで行く。
俺は恐怖心から、なりふり構わず暴れた。
「わっ、うわぁ〜、たっ助けてくれぇ〜!」
つーか、こんなの一気にやれよ一気に。じわじわと真綿で締め殺す様なやり方はヤバすぎるって!。
クソッ、わざとか?。これわざとやってんのか?。
結局まあまあな時間を掛けて、まるで蛇に生きたまま喰われるかの様に俺は虚空に飲み込まれた。正直トラウマになった。
こうして俺の異世界転生は、トラウマからスタートしたのだった…。