【017】ダンジョンマート金沢店オープンその8
「さっ、ウィーン君閉店の30分前になったよ。閉店のカーテンコールをソウルデバイスに流してね」
サクラちゃんが時計の針をきっかり見て、僕にお願いしてくる。僕は管理者用のソウルデバイスのキーを使い、冒険者の持つソウルデバイスにカーテンコールの連絡をした。この時、冒険者がここに何も設定していない場合は、よくスーパーなどで流れる音声が流れる。
『皆様、本日は真にご来店ありがとうございます。まもなく、当店は閉店します。21時50分になりましたら、強制的にダンジョン入口の受付ホールまで転移します。忘れ物、ドロップの取得、モンスターの討伐、転移ポイントの登録などやり忘れたものがありましたらお急ぎ下さい。当店はまもなく閉店します……』
この音声が2回ほどソウルデバイスより流れるのである。音量はというと、スーパーで流れるものと同量くらいだよ。そのため、もしモンスターと戦闘中なら、気が散ることになる。もし、モンスターから逃げていたり、隠れていたりしたなら、その音で相手に居場所を知らせることになる。
でも、もし時間に気付かずボスの討伐ちょっと前、残り一撃で倒せる。これを倒したら、ドロップ拾うつもりだったのに、時間があると思ったから、転送ポイントまで歩いていたらどうだろうか?
時間が足りずに強制転移され、冒険者の苦労は水の泡となる。そう、カーテンコールは鳴らしても鳴らさなくても、問題はあったのだった。標準では、カーテンコールは鳴るように設定されている。
問題があれば、スマホのように設定を変えてしまえばよいのだ。バイブで振動して伝えるか、モニターを発光させるか、それともメッセージのみを表示させるか、本人次第で設定できるようになっている。
しかし、新しいデバイスというのはとにかく使いにくいのである。ヨシさんが、ダンジョン入口で注意事項として、説明はしている。だが、それをその場でどれがいいかと決めて設定できる人はおそらくいないだろう。むしろ、標準のまま変えていない可能性が高い。
閉店までいる方はもれなく、カーテンコールによるトラブルが発生するのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とある砂漠でサソリ狩りをしていた男子大学生。
「ひゃあああ~~、なんでこんなにサソリがいるんだよ~~~」
彼はサソリ狩りをしており、慎重に一匹一匹釣りをしながら、倒していたのだ。しかし、カーテンコールがソウルデバイスから突然鳴りだした。
『まもなく閉店の時間になります……』
大きな音に反応した砂漠の中に隠れていたサソリが、蛇までもが一斉に姿を現し、音声の鳴る方、男子学生の方へ向けて、襲い掛かってきたのだ。
また別の所では、とある女子高生がのんびりと水辺で涼んでいた。水着があることも知らない女学生は、学生服のまま、裸足で湖につけて遊んでいた。カーテンコールがなったので、靴下をはき、靴も履き忘れものがないかチェックして、強制転移が来るのを待つのであった。
とある所、スフィンクスの前では、様子を眺めていた会社員のお兄さん。バレナイように砂漠の砂に隠れて、スフィンクスの様子を探っていたのだ。それにも関わらず、突然のカーテンコールだ。
スフィンクスが敵の位置を察知し、咆哮をあげた……
「うぉおお~~~~~~~ん」
こちらに身体の向きを変え、襲って来ようとするスフィンクスに、会社員の男性は死の影を感じた。幸い、スフィンクスの出現エリアギリギリで潜伏していたため、逃げたら、追って来られることはなかった。
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そうカーテンコールとは、余裕のあるものには、自動的に転移してもらえる手段に過ぎず。余裕のないぎりぎりのものにとっては、己の存在を周囲に知らしめる、痴漢撃退ブザーと同じであったのだ。
そして、10分前になり強制転移が開始された。一人、また一人とダンジョンの入口から到着した。女子高生は、戦闘をほとんどしていなかったのか、傷一つない綺麗な身体であった。
男子学生は、サソリに尾で刺され、蛇に噛まれ毒の回っている危険な状態であった。着ていた学制服はボロボロであった。
会社員の男性は、ダンジョン内では、ソウルデバイスに登録されている初期装備の布の服と木の棒を装備していた。砂まみれであった。
「皆さんダンジョン探索お疲れ様でした。これにて閉店となりますので、お手元のソウルデバイスを取外し、私の方まで返却して下さい。」
僕が出てきた人たちにそう呼びかけた。会社員の男性は、ソウルデバイスを取り外すと、布の服と木の棒が消え、こちらに来る時に着ていた。スーツ姿に戻っていた。砂埃の汚れも綺麗さっぱりなくなっている。
女子高生は、ソウルデバイスを取り外したが何も変化はなかった。どうやら初期装備を何もしていなかったようだ。
男子学生は、毒の状態で横たわっていて、危ない状況だ。
「あなた、ちょっと大丈夫ですか?」
「蛇とサソリに毒でやられて、痺れて体が動かないです。助けて下さい。」
「そうですか。死に戻りであれば、問題なく入る前の状態で出ることが出来たんですけどね。毒と怪我をしている状態でデバイスを外すのはちょっと危険ですね。初期装備と一緒に入っている、毒消しとポーションは使いましたか?」
「使ってないです。早くなんとかして。」
「では、少し失礼しますね。ソウルデバイスを起動して、道具、毒消しとポーションを取り出して、使用と」
僕は彼のソウルデバイスを装着したまま操作し、状態を回復してあげた。その後、彼のソウルデバイスを取り外した。
「あっ、動ける。助かりました。ありがとうございます。すみません、よく分からないのですが、ダンジョンから出たら、元の状態に戻るのではないですか?」
「いえ、そのようなことはありません。持っていた持ち物を使用した場合はなくなります。そして、着ていた衣服が損傷した場合、ダンジョンからでた後も損傷したままとなります。身体の状態に関しても同様です。状態異常に罹っている状態で、外に出るとそのまま状態異常が残ります。もし身体に刺し傷、切り傷、腕の切断があった場合、その状態もダンジョンを出た後も継続されます。
ですので、ダンジョンから出る際は、身体を万全な状態に戻して戻ることをお勧めしております。」
「って、説明ありましたよね。でも、まさかこんな風になるとは思いませんでした。もしかして、このセーラー服が破損して、肌が見えている状態になっていたら、そのままここに出たということですか?」
と女子高生が感想を漏らす。
「その通りです。ダンジョン中での現実の物質の破損はそのままです。そして、ダンジョンに忘れた際もそのままとなります。」
「えええ~~~~っつ、そうなんですか?入る前に説明は軽く聞きましたけど、思ってたのと大分違う。戦闘してなくてよかった。」
「そうならないために、ソウルデバイスに木の棒や布の服などの初期装備が支給されているんですよね。ポーションや毒消しも同じ様に入っている。云わば初心者お試しセットが入っていると」
と会社員が確認するように補足してくれた。
「はい、そちらの方のおっしゃる通りです。現実のものを壊したくない場合は、あちらのロッカーに預けてから入ってくださいね。そして、衣服に関しては、装備した際に現実のものと交換で装備されますので、その際は衣服の損傷はなくなります。そちらのスーツの方が装備されてましたよね。」
「はいっ、そういう風になるとネットに記載されてたのを見ていましたので、予め装備してました」
「ということになりますので、ご理解下さい。」
「ソウルデバイスの使用方法に関しては、あちらの受付で販売されている。『ダンジョンマート攻略:初級』の本に記載されてます」
「では、本日はどうもご来店ありがとうございました。」
「「「「ありがとうございました」」」」」
ようやくダンジョンマート金沢店のオープン初日の幕が閉じたのであった。
こんにちは、ダンジョンマート金沢店オープン初日がようやく区切り付けました。
本当は2~3話で終わらせる予定だったんですが、次から次へと書く内容が増えてきてここまで長い話になってしまいました。
ある程度区切りがついたら、冒険者の目線での再度ストーリーを投稿する予定です。
予定はは予定でいつになることやら。
お読み頂きありがとうございます。
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