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作者: 悠々

私は帰宅後、雨で濡れた服も拭かずに筆を持った。

忘れる前に、先程の出来事を書き留めておきたかったのだ。


数分前まで私の前には、一人の女子高生がいた。


手に握られていたのは1冊の参考書。

おそらく高校三年生だろう。


(制服が違かった為、詳しくは分からないが)


何故そこまで詳しく見ているのか。

恐らく皆そう思っただろう。


単にその参考書が大学入試対策のものだったから、という理由だけではない。


その参考書には、"世界史B"と記されていた。


普段道行く人が持っている持ち物など、目に入れど頭には残らない。だが、今回に限っては状況も相まって違う。


世界史Bという科目を選択する人は、一般的に少ないのだ。


自分の通っている、または通っていた高校を思い出して欲しい。


恐らく、一学年に二割居ないぐらいだろう。


ここで勘のいい人は私の選択する科目がわかったと思う。

そう、私は高校の選択授業で世界史Bを選択している。


私は世界史が好きだった。


皆が夢見るヨーロッパだけでなく、インドや中国、アメリカなど様々な国の歴史や文化が好きだった。


私はあまり新しいものや変わっているものに手を付けない性格なのだが、世界史だけは違う。


知らない世界に放り出された感覚は、私の好奇心を揺さぶるものだった。


勿論日本史が嫌いという訳では無い。

ただ、私の好奇心を抑え込むには日本史という枠組みでは狭すぎたのだ。


…話を戻そう。


先程私は、状況も相まってと言ったがこれが今回の話のキーポイントである。


冒頭の一文で察して頂いた通り、窓の外では今大雨が降り注いでいる。


私は通学用のカバンに常時傘を入れていた為、あまり濡れずにすんだ。


そうは言ってもこの季節の雨は冷たい。

濡れた足先から寒気が手先までジーンと広がる。


昔から日本人はよく「足から冷える」という。

いや、世界共通の言葉なのかもしれない。


こういう時、世界史の知識が生きれば良いのだが高校の世界史ではそこまで深くは習わない。


もしかしたら英米文化選択の人達は知っているのかもしれない。


いきなりの雨だったようで、駅前には傘を差さずに走る人達で溢れかえっていた。


だが、私の前を歩いていた女子高生(以降彼女と呼ぶ)は傘をさしていないのにもかかわらず、何事もないかのように歩いていた。


弱りきった受験生の体は、この時期の雨に弱い。

現に私も体調を崩したばっかりだった為、彼女を心配する気持ちがより一層の強かった。


彼女の足先は、駅の駐輪場へと向いていた。

それは私の足も同じだった。


駐輪場まで、傘に入れてあげよう。


私はそう思い彼女に話しかけようとした。


だが、どんなに待っても私の口から声は出てこなかった。

それどころか彼女との距離が段々と遠くなっていくように感じた。


彼女の歩くスピードが上がったのではない。

私の足が重くなったのだ。


ちょうど去年の今頃、同じような状況に出くわしたことがある。


その時は相手が同じ高校だと分かっていたので(制服を見て)すっと声が出た。


それだけだ。

今回と前回で違う点はそれだけなのだ。


なのに声をかけられなかった。


その日の気分もあるだろう、そう考えたが特に普段と変わったところはない。


ただ、声をかける勇気がなかったのだと、そう認めざるを得なかった。


気がつけば私は、駐輪場へと辿り着いていた。

駐輪場には屋根がある。


傘を閉じ顔をあげると、彼女はもう自転車に股がった後だった。


過ぎ去る彼女の背中を見送りながら、後悔や心配の念が頭の中で交錯する。


あぁ、もし私が常時傘を持ち歩かない性格だったのなら。


もし傘が壊れていて持ち合わせていなかったのなら。


私の右手に握られていたのは傘ではなく、彼女と同じ世界史Bの参考書だったかもしれない。

思いつきでメモに書き散らしたものなんですが、せっかくなのでここに残そうと思いました。


ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

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