30 ボス部屋での戦闘・1
お久しぶりです。今後はラストも近いので、月1更新となります。最終話の後は番外編の更新をしていきますので、まずは本編のラストまで、どうぞお付き合いください。
扉を開く前にしっかりと打ち合わせを終えた、長い付き合いの急造パーティは、戦闘の位置について仕掛けを解いた。
ダンジョンボスの部屋の仕掛けを解いて中に入れば、ボスを倒してダンジョンコアを破壊するか、帰還石でなければ脱出できない。
「行くぞ」
「あぁ」
グルガンの言葉にガイウスが頷く。
ガイウスは今回、徹底的に後方支援に回ることとなった。ただ、この場合の後方支援はボス部屋にいるだろうと推測される雑魚魔獣の担当と、ボス魔獣の両方の支援だ。気を抜くわけにはいかない。位置取りも大事になる。
閉鎖的な場所でのドラコニクスでの戦闘は多少不利だ。その分、ドラコニクスには雑魚を蹴散らす露払いの役割を担ってもらう。それぞれのドラコニクスに、怪我をしないようにしながらかく乱すること、を各々言い聞かせてあるので、頼もしい戦力になっているのは間違いない。
バリアンももちろんついてきたが、これまで通り手を出す気はないようだった。どこまでも、バリアンは指導係であって、第三者であるという姿勢を崩そうとはしない。
ボス部屋の中は真っ暗だったが、全員が中に入ると、壁面に青い炎がぼっと灯り、それは円形の部屋の壁を順に巡り、入口の真正面、随分と遠い場所にある玉座のような場所まで続いた。
巨大な石の玉座には、予想通り死霊の王と呼ばれる魔獣、リッチが座っており、骨の身体に魔力が可視化できる程の濃度で出来た黒衣を纏い、金と宝石の嵌った王冠や指輪、首飾りを下げている。
どれも古い魔導具で、リッチの魔力を高めるための装飾だ。ただ着飾っている訳じゃないのは、【鑑定】を使ったガイウスの目には明らかでもあり、スキルを使うまでもなくグルガン達もその魔力に気圧されていた。
だが、戦闘力はS級でバリアンの指導を受けた『三日月の爪』は慌てることもなく、それぞれの持ち場についた。
ベンとリリーシアはドラコニクスと共に雑魚魔獣に当たる。ボスに対してヘイトを集めるよりも、より多数の魔獣に対してヘイトを集め、そこをドラコニクスと共にベンが削り、リリーシアが支援と回復に徹するという布陣だ。
対してボスであるリッチには、グルガンとハンナ、そしてミリアという火力特化の布陣で挑む。
ミリアは前衛から中衛、前衛はグルガン、後衛はハンナという体勢で、必ずベンたちの方に意識を向けさせない為に耐えず攻撃を加える形だ。
リッチの黒衣は魔力の塊の防御結界だ。ガイウスも魔導弓を片手に構えつつ、【アイテムインベントリ】を片手に開いて聖属性のスクロールを纏わせている。この場合、火力としては弱いガイウスの攻撃は聖属性を浸透させないことには何の役にも立たないと判断したためだ。
リッチは未だに動く様子がない。頬杖をついて玉座に座ったまま、片手の人差し指を上向きに立てたと思うと、ベンたち入口周辺にいた者の周りからハーフアンデッドの魔獣の群れが床から生えてくる。
余裕の様子のリッチに、ガイウスはグルガンをちらりと見た。
が、心配する必要はないようだ。こういう場面では、グルガンは時に頭に血を登らせて熱くなり、勝手に敵に突っ込んでいく場合があった。その悪癖が消えている。というより、ベンたちを信頼していると言うべきだろうか。
リッチの様子を探りながら、背後の雑魚魔獣に対しては関心を向けないでいる。下手なパーティならば、後ろに現れた敵の数に慌てて陣形を崩し作戦がなし崩しになる所だが、しっかりと信頼しあっているのが目に見えた。
ベンの『挑発』で、部屋の半ばから出入口にいた雑魚魔獣が一斉にベンの方を向く。リッチの様なボス級になると、『挑発』はあまり意味を為さない。その理由は分からないが、ガイウスが思うには格の差というものではないかと思う。
リッチ1体に対して、人間であるガイウスたちは3人の攻撃役で当たる。1対1では挑まない。人間の強みは連携にあるが、魔獣の強さは個体そのものの力だ。
なので、リッチのような多数で向かわなければならない敵は、人一人のスキルに状態を左右されたりはしないのだろう、とガイウスは思っている。
だからこそ都合がいい。雑魚は全てベンたちの方に向かった。バリアンは自分に向ってきた分は自分で何とかするだろうし、ボス部屋であろうと通常の魔獣であればベンたちの敵ではない。
数が多いが、そこはドラコニクスもいる。竜種としては下位でも、そもそも竜種というのが魔獣の中では上位種だ。下手にやられることはないだろう、と視野を広くもったガイウスは判断した。
リッチは人間の陣形が崩れなかったことで、初めて動きを見せた。
いよいよ、ボス戦が始まる。
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