一章⑥
続く五番は大久保、こちらも油断の出来ないスラッガーだ。
サインはまたもインコースのライジングボールしかも、ビンボールの要求だった。
明らかに動揺する菜緒だったが、思い切って達河のミットに目がけて投げ込む。
今度はミットより一球分外れ、顔面スレスレのボールとなってしまう
思わず、のけ反り倒れる大久保。
彼は起き上がると、彼女を睨みつけ恫喝する。
ホークスベンチより、選手が飛び出してきた。
それを見たシャークベンチからも選手が飛び出し、一触即発となった。
達河はその場を持ち前の陽気さでおさめる。
菜緒はマウンドに立ちながら、情けないピッチングをする自分自身が、ただただ腹ただしかった。
マウンドを一度、降りるとうずくまる。
それを見た監督は、コーチを送り込もうとする。
が、監督はそれを制した。
彼女はすぐに立ち上がり、ふがいない自分に喝を入れるべく、三度、自分の頬を叩き気合を入れ直す。
そして大きく深呼吸をするとヤホードームの天井を見上げた。
(私は勝つ!)
マウンドに再び立つと、もう迷いはなかった。
ランナーを気にせず、大きく振りかぶりノーワインドアップからアウトコースにチェンジアップを投げる。
大久保はその球を引っかけて、ぼてぼてのピッチャーゴロ。
素早く二塁に投げ、セカンドは一塁へ転送、ダブルプレーとなった。
小さくガッツポーズをして、ベンチに引き揚げる菜緒。
続く五回、六回と続投し0に抑えると、チームは逆転し6対4で勝利をおさめた。