一章④
本拠地から再び敵地への移動。
翌日は移動日で試合は無し。
到着後、連投中の菜緒は、練習免除でホテルでの休養を言い渡された。
菜緒はホテルのベッドに倒れかかると爆睡した。
途中、一度、目を覚ます。
ブラインドの隙間から、眩しい夕焼けが射し込んでいた。
彼女は目を細めると、再び寝た。
・・・・・・・・・・。
ホテルの電話が鳴った。
四度、五度とコール音、無視を決め込んでいたが、鳴りやまないので、しょうがないので出る。
「はい」
菜緒の声は、もの凄く不機嫌だ。
「お客様に水田様から電話が入っております」
「お母さん!」
「はぁ」
「つないで」
「かしこまりました」
菜緒の実家は福岡県の柳川市にある。
「菜緒、がんばっているねぇ」
母の嬉しそうな第一声、
「うん」
「ところでさぁ、今から夕食、食べない?」
「えっ、母さん、柳川でしょ」
「なんば言おっと、菜緒の晴れ姿を見に今日からシーホーク(ホテル)に泊っとるんよ」
「そうなの」
「お父さんも兄ちゃんも、こっち来ているから、おいでよ」
「うん、分かった」
菜緒は温かい気持ちになり、しばらく切れた電話の受話器を胸に当てて握りしめていた。
ハードバンクホークスの本拠地、ヤホードーム横にシーホークはある。
ある意味、敵地に乗り込むような感があるので、自意識過剰かとも思ったが、彼女はサングラスをして、変装をして足早に待ち合わせのレストランに入った。
「よう」
手を上げる父と兄。
立ち上がる母。
懐かしい顔がそこにはあった。
「CSシリーズ、凄かったなあ」
と、父。
「菜緒、カッコ良かったわよ」
と、母。
「でも、お前が、あそこで投げているだなんて、今も信じられん」
兄が思わず呟く。
「・・・私も」
菜緒は真顔で頷き返した。
夢は叶う。
そう信じて投げ続けて来た。
そして、夢は叶い。
もっと、でっかい夢が今、そこにある。
「必ず・・・勝つよ」
続けて、
「絶対に!」
家族に誓った言葉は、自分に向けての思いでもあった。