三章③
俺は長い入院生活の後、リハビリの日々を重ねながら、久しぶりにホールに戻って来た。
しかし居心地の良かったこの場所は、いつの間にか劣悪な環境になってしまっていた。
倒れてから清い生活を続けていたのが、祟ったか、身体がそれを受けつけなくなってしまっていたのだ。
まず、耳をつんざく爆音、煙草の悪臭に数分もせず、頭がクラクラになりだした。
だけど、なんとかなるさと気合を込め、レバーを叩くも今度は肩や腕が痛みだして、二時間もしない内にギブアップをして、家に帰ってしまった。
マンションに入ると、玄関先で沙奈がぼんやりとした顔をして突っ立っていた。
「どうした」
「・・・・・・」
俺を見た瞬間、彼女の目から大粒の涙がこぼれだした。
まがりなりにも長年付き合ってきたので、彼女が何を言いたいのかが分かってしまった。
「・・・そうか」
「ごめんなさい」
まぁ、どう考えてもここらが潮時だろう。
身体をやってから、常にそう思っていた。
が、現実を目の当たりにすると、やはり辛い。
「ちょっと済まない」
俺はそう言うと、彼女の脇をすり抜け部屋へ入り、手短に荷物をまとめた。
自分の荷物などたかが知れている。
すぐに身支度が整った。
「ありがとう。世話になった」
そう言いつつ、彼女が呼び止めてくれるのをかすかに期待しつつ玄関を出た。
も、背中越しに、
「ごめんなさい」
頭にその台詞がこびりついた。
そうか・・・そうだな、命があるだけ、めっけもんだ。
俺は自分にそう言い聞かせた。
ありがとう。
心の中で彼女に礼を言う。
あてのない世界が広がっている。
絶望か・・・いや。
俺はなけなしの勇気を奮い立たせ歩きだした。




