第三章 転落①
水田菜緒は四年目のシーズンを迎えていた。
激闘の日本シリーズの翌年の事、登板過多による肘肩痛が起き、シーズン当初から全力投球が出来ないまま、だましだましでマウンドにあがっていた。
しかし、そんな状態ではプロの世界で通用する訳ではなく、成績は惨憺たるものだった。
四月の終わりには去年ようやく手にしたクローザーの座を剥奪され中継ぎへ。
一向に上向かない成績と調子に5月の中旬からは敗戦処理、本当に客寄せ的な意味だけの登板となってしまっていた。
ついに7月には調整を理由に二軍行きを言い渡された。
それを監督から宣告された時、菜緒は大粒の涙をこぼし、悔しさを隠そうともしなかった。
「しっかり調整して、戻って来い」
監督の言葉にただ頷いた。
しかし二軍の試合でも、なかなか結果がだせぬまま、迎えた下旬の試合。
地方球場のデーゲーム、炎天下の日だった。
7回裏からマウンドに立った彼女は、投球練習をはじめた。
いつもより肩の痛みがなく、投げる球も走っていると実感できたので、今日は思いっきり投げてみようと心に決めていた。
マウンドに立つ。
第一球。
力を込め投じる。
瞬間、鼓膜に響く鈍い音。
ブチッという嫌な音が菜緒の耳に届いた。
筋肉の腱が切れた。
右肘に激痛が走る。
「いやあああああ!」
菜緒の絶叫がマウンドにこだました。
そのまま、バランスを崩し倒れ込む。
あまりの激痛に、世界が暗転し彼女は気を失った。
それから、彼女にとって辛い日々が続いた。
女性初のプロ野球選手、栄光から一転!マスコミからは悲劇のヒロインとして、連日取りあげられた。




