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9 ウーレの街

 やがてすぐに、ウーレの街に着いた。そこは確かに、オルダリオの村とは比べ物にならない、大きな、賑わいのある街だった。まず、道路がきちんと整備されていて、かつ、舗装されている。建物も二階建て以上が圧倒的に多い。さらに、窓にガラスが張られている家も多い。(この世界ではガラスはわりと高級品だ)また、街のいたるところで、エルフやドワーフや翼人など、亜人種の姿を見ることが出来た。これは、人がたくさん集まる大きな街ならではの光景だ。


 そして、俺たちの目的のブツは、街の中心から少し離れた、小高い丘の上にある「領主の館」で公開されているようだった。領主様の持ち物らしい。なんというか、実にお約束だ。まあ、それは別にいいんだが……。


「何この行列、バカにしてんの?」


 ティリセが心底うんざりしたように、目の前の光景にため息を漏らす。そう、領主の館からは、ずらーっと長い行列が出来ていたのだ。みんな、俺の剣を見るために並んでいるらしい。列の最後尾にはプラカードを持った衛兵まで立っている。見ると、現在の待ち時間は三時間ほどだと書いてある……って、親切だな、オイ! どこのイベントの物販の列だよ。


「すごいですね。智樹様の剣、大人気です」


 ユリィは無邪気にはしゃいでいる。三時間待たされるのはどうでもいいのだろうか。スローライフに生きすぎだろ。


「悪いけど、あたしは待たされるのは嫌いなの。剣の確認はあんた達に任せるわ」


 と、ティリセは一人、行列から離れていく。


「ここに来る途中にあった、『女神の後れ毛亭』ってとこで一杯やってるから、終わったら来てね」

「お、おう……」


 ティリセはすたすたと去っていった。俺も正直、三時間待ちとかうんざりだったが、隣のユリィはなんか妙にウキウキだし、もう並んじゃったし、ここまで来たらもう見るしかないような空気だし、で、しぶしぶその場にとどまった。列の進みは実に緩慢だった。一人あたりの持ち時間とかどういう配分になってるんだろう。イライラしながら待ち続けた。ユリィはその間、楽しげに後ろのおばさん連中と雑談していた。


 やがて、約三時間後、俺たちはついに領主の館の入り口の前に着いた。


「やった、ゴールだ!」


 思わずガッツポーズしちゃう俺だった。本当に長かったよ、ここまで。(距離は短いんだがな!)さっそく、ユリィとともに中に入る――と、そこで衛兵二人が俺たちの前に立ちふさがった。


「入る前に、我々に払うものがあるのではないか? んん?」

「二人で、あわせて四百ゴンスだ」


 なんと、見物料を徴収してるらしい。四百ゴンスといえば、日本円で二百円くらいのはした金だが、ただ剣を見るだけなのに実にセコイ。兵士だからって庶民に上から目線なのもなんかむかつく。


「……ほらよ」


 まあ、後ろにたくさん並んでいるのに、ここでゴネてもな。三時間も待ったのが無駄になってもシャクだし。素直に金を払って、中に入った。


 剣は館の玄関ホールの一番奥に飾られていた。台座は実に豪華で、周りには囲いがあり、さらに、警備の衛兵が二人ほど立っていた。また、近くの壁には実にそれっぽい、来歴などが書き連ねられた説明のプレートが張ってあった。また、その隣には「マジックアイテムによる撮影、動画配信などはかたく禁じます」とも。


「うわあ、すごい立派な剣ですねえ、智樹様」


 ユリィは剣を見るや否や、目をきらきら輝かせた。本物だと信じて疑わない様子だ。


「まあ、立派は立派だな……」


 俺はため息をつかずにはいられなかった。今、俺たちの目の前にあるのは、かなりの大きさの両手剣で、柄や鞘にはこれでもかと豪華な装飾が施されていた。こんなひたすらきらびやかで、使いにくそうな剣を振り回すバカが、いったいどこにいるんだろう……。


「ユリィ、こいつはニセモノだぜ」

「え、智樹様がお使いになっていたものではないのですか?」

「ああ。俺の剣はもっとこう、普通だったかな。少なくとも見た目はな」

「でも、あそこに本物だと書いてありますよ?」


 ユリィは説明のプレートを指差したが、俺は「あんなの、全部でたらめだ」と一蹴するほかなかった。


「だいたい、剣のつくりからして、おかしい。これはどう見ても魔剣じゃなくて、普通の剣だ。これじゃ、最上位レジェンドモンスターは斬れないぜ」

「確かに、魔剣のように、魔化鍛錬されたものには見えませんね……」


 ユリィもさすがにニセモノだと気づいたようだった――が、そこで、


「ほほ、ご両人、少しは目利きのようだが、真贋を見極めるにはちと早計というものですぞ」


 館の奥から小太りでちょび髭で高そうな服を来た、偉そうなおっさんが現れた。


「この剣は、十五年前に、かの悪しき竜を倒すのに使われたのです。戦いはかつてないほど苛烈で、三日三晩にも及んだそうです」

「え、そうだっけ」


 確か、クリティカルでワンターンキルしたような気がする……。


「そして、そのときの激しい戦いにより、魔剣の魔力はほぼ失われたのです。それが、お二人が今、ご覧になっている聖剣の真実というわけなのです」

「まあ、そうだったんですか」


 ユリィはなんかまた騙されている。ほんと、ちょろいな、コイツ。


「でも、これっていくらなんでも刀身が綺麗すぎじゃないですか。そんな激しい戦いに使われたようには、とても」


 と、俺なりにケチをつけてみるが、「それはもちろん、職人の手により、完全な状態に復元されたがゆえなのですよ」と、おっさんは退かなかった。さらに、とどめのように、懐から羊皮紙を出して、広げて掲げた。


「ここに、かのアルドレイ財団の理事長にして、アルドレイ研究第一人者、ルルカン大学、オールソン教授の鑑定書があります。まぎれもなく、これは本物です」

「え、何その人?」


 俺の名前のついた財団とか、俺の研究の第一人者とか、なんか怖いし、意味わかんねえ。


「まあ、お二人はまだ若い。世界の真理を知るには少しばかり早かったのかもしれませんね、ホホ」


 おっさんは、何かもっともらしく言って話をシメると、館の奥に去っていった。そして、そこで、衛兵二人が「時間だ、出ろ」と俺たちの袖を引っ張ってきた。ああ、そういや、見物客はまだたくさんいるんだっけ。とりあえず、俺たちは衛兵に案内されるがまま、入り口とは反対側の扉から外に出た。

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