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8 仲間を増やして次の街へ

 その翌日、俺たちはそのオルダリオの村を出た。そのまま、街道に沿って、一番近くにあるという大きな街を目指して歩いた。


「で、あんたはいつ自分の世界に帰るわけ?」


 ティリセは朝からずっと不機嫌だった。まあ、それもそのはずだろう。ユリィが持っていたお金は今、俺の懐にある。村を出る直前、よく考えたら大金を自分が持っていては無用心だからと、ユリィが俺に預けたのだ。おかげで近くの泥棒猫はさぞや「金持ち逃げ」のミッションがやりづらくなったことだろう。不機嫌にもなるというものだ。フフ。


「言っただろ、召喚の球が壊れてんだから、とりあえずそれを直せるやつが見つかるまでだ」

「ふうん。それまであんたはあたしたちにまとわりついてくるわけね。世界を救う気ゼロのくせに、あたしたちの世界救済の旅を邪魔するつもりなんだ。マジうざいんですけどー」

「……よく言うぜ」


 お前のほうこそ、世界を救う気なんかないだろうがよ。ほんと、口も性格も最悪だぜ、このロリババアエルフは。


「でも、二人だけより三人のほうが、きっと旅は楽しいですよ。男の人が一緒だと、何かと安心ですし」


 ユリィが険悪な俺たちの空気を少しでも和ませるように話に入ってきた。が、「こいつと一緒とか、女として安心どころか、不安しかないわよ」と、ティリセはさらに俺に噛み付いてきた。


「ユリィ、あんたはアルについてよく知らないだろうけど、この際、はっきり教えてあげる。こいつは二十五にもなって恋愛経験ゼロの童貞のまま死んだやつなのよ。しかも、その死因ったらないわよ。姫に告白して、振られて、絶望してバルコニーから身を投げて自殺したっていうんだから」

「って、おい、何適当なこと言ってんだ、クソアマ!」


 前半はスルー余裕のただの悪口だったが、後半はさすがに聞き捨てならない。事実とまるで違うからな。


「俺は自殺なんかしてない! 告白した後、姫に刺されて殺されたんだ!」

「えー、でも、あんたが死んだ翌朝、あたしたち全員、宰相のおっさんに呼び出されて、そう説明されたわよ。突然ですが、みなさんに悲しいお知らせがあります。アルドレイ君が、今朝方、冷たくなっているところを衛兵に発見されました。どうやら投身自殺したようです、って」

「何その説明! うそだから! 俺、別に失恋したぐらいで自殺しないから!」

「ほんと? でも、あたしも含めて、みんなその説明で超納得してたわよ。あいつ、二十五にもなってまだ童貞だし、初攻略が姫とか夢見すぎだし、失恋してバルコニーから身を投げるぐらい、やってもおかしくないかなあって――」

「オカシイヨ! アリエナイヨ! お前ら、俺のことなんだと思ってんだよ! ふざけんなよ! 少しは不審に思えよ!」


 ちょっと悲しくなって涙が出てきちゃう俺だった。仲間ってなんなん? みんな俺のこと夢見すぎ童貞野郎って思ってたん……。


「で、世界を救った勇者の死因がそんなんじゃ、恥ずかしすぎて公表できないから、表向きは病気で急死ってことにするって宰相に言われて、あたしたちはその気遣いをありがたく受け取ったの。その後は、あんたの分の褒美をみんなで山分けして、解散って感じだったわねえ」

「そ、そう……。俺の分の褒美をみんなで山分け……」


 なんかひたすらイベント進行がドライなんですけど! みんな薄情なんですけど! もっと、俺の死を悲しむような、ウェットな描写が欲しいよう。


「と、とにかく、俺自殺じゃないから。姫に刺されて死んだんだから。そこは、か、勘違いしないでよね!」


 涙目でツンデレキャラのように叫ぶしかない俺だった。


「はいはい。今さらどっちでもいいわよ」


 ティリセはそんな俺を鼻で笑う。くそう。あんまり信じてなさそうな雰囲気だ。


 と、そこで、そろそろ街に着くのだろう、俺たちの目に案内の看板が飛び込んできた。


『↑ ここから先、ウーレの街』


 まあ、これだけなら普通の看板だが、今はさらに薄い板が追加されていて、こう書いてあった。


『現在、かの勇者アルドレイの秘剣を一般公開中! 近日、大ザンビエル・オークションに出品予定の逸品! 見られるのは今だけ!』


「なんだと!」


 俺の剣が勝手にオークションに出品されるだと! これは見過ごせねえ。


「大ザンビエル・オークションって、昔から、かなりのお宝が取引されるオークションよね。大物貴族が多数参加する」


 ティリセの目が、また泥棒猫のようにきらりと光った。


「すごいですね。智樹様の愛用された剣が、そんなオークションに出品されるほどのお宝になっているなんて」

「すごかねえよ! 人の持ち物をなんだと思ってんだ!」


 俺の剣……無数の戦闘で、俺の手足同然に働いてくれた、俺の剣……。じんわりなつかしさがこみ上げてくる。


「つか、なんで俺の剣がどこの誰かもわからんやつのものになってるんだよ?」

「そりゃ、あんたが死ぬのが悪いわよ。生きてりゃずっとあんたのもんだったでしょうが」

「答えになってねえよ、ティリセ……。俺の遺品ぐらい、お前らちゃんと管理しとけよ」

「あたしたちだって、一応はそうしようと思ったわよ。でも、勇者様の遺品は国のほうで大事に管理しますって宰相のおっさんに言われてさあ。じゃあ、めんどくさいから、それでいいかなって思っ――」

「思うなよ! 仲間の遺品ぐらい守ってよ!」

「いや、あんたの剣とかもらっても困るし。鎧とか服とかなんか臭かったし」


 さっきから、ひどい言いようだよね、このロリババアエルフ。殴っていいのかな?


「で、あの国に管理を丸投げした結果、他国に攻め込まれ、侵略されて、国は消失。お宝は全部国外に流出ってわけか……」

「そういうことでしょうね。こうしてオークションにかけられるってことは」

「あ、あの、勇者様本人だと証明できれば、返してもらえるのではないでしょうか?」


 と、ユリィが提案した。


「うーん? そんなこと可能なのか?」


 一度死んだ人間が所有権を主張って、なあ?


「ま、とりあえず、見に行ってみましょうよ。まだ本物かどうかもわからないしね」

「そうですね」


 少女二人はうなずきあった。俺も少し遅れてうなずき、彼女たちとともにウーレの街とやらに向かった。

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