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191 始原の観測者《アビスゲイザー・ケイオス》

「俺、先生のことを尊敬してるんで、今日はポエムを作ってきたんですよ。ぜひ聞いてください!」

「はあ、それぐらいなら」


 リュクサンドールはまんまと俺の誘いに乗ったようだ。バカめ、俺の真の狙いがどこにあるかも知らずに……。


「じゃあ、せっかくなので、俺がポエムを言ったあと、続けて一緒に言ってくれますか」

「え、僕がトモキ君のポエムを復唱? いや、恥ずかしいでしょう、そんな――」

「お願いします! このポエムは先生と一緒に口にしてこそ、完成するものなんです!」

「は、はあ……」


 俺のゴリ押しに、しぶしぶという感じでうなずく男だった。やはりこの男、ちょろい。俺がちょっと強気で行けば、この通りってもんさあ。


「ではさっそく、ポエム言いますね。『あまたの聖なる祈りよ』」

「あまたの聖なる祈りよ?」

「『今ここに、討滅の光となりて』」

「今ここに……と、討滅……光となり、て……」


 予想通り、とたんに真っ青な顔になる不死族の男だった。


「ほら、続けますよ! 『悪しき者を浄化せよ、聖光ホーリーライト』!」

「あ、しき、ものを……じょ、浄化……ぐはあっ!」


 と、直後、目の前の男の体は崩壊した! ドロドロに溶けちゃったのだ!


 そして、それはまさに俺の狙い通りの結果だった。そう、俺が今この男に復唱させたのは、自作のポエムなんかではなく、神聖魔法の呪文だった。ハシュシ風邪が治ってしばらく部屋にこもりっきりのときに、教科書を読んで覚えていたものだ。それがこんなときに役に立つとは。ほんと、勉強しておいてよかったあ!


「はは、お前が神聖魔法を唱えると体が溶ける体質だってのは、前にお前自身に教えてもらったことだからなあ。さっそく実践してみたぜ!」


 と、ドヤ顔で溶けた肉塊に向かって叫んでみたが、


「なんてことをするんですか、トモキ君! ひどいです!」


 それはすぐに元の形に戻って、俺に抗議してきた。


 チッ、相変わらず復活早すぎだろ、コイツ。今ので弱点の神聖属性のダメージ入ったはずなのに、まだ致命傷にならねえのかよ。


「君が僕を尊敬するポエムを作ったと言うから、復唱したのに!」

「は? んなもん、俺が作るわけないだろ。騙されるほうが悪いんだよ」

「ゆ……許せない! 君のその裏切り、万死に値します!」


 リュクサンドールは俺に激怒したようだった。


 直後、


「滅びは滅びを呼び、ともに果てる悪夢にいざなうだろう! 我の姿を刮目して見よ! 死蝕の幻影(タナトスサイト)!」


 と、めっちゃ早口で詠唱した。そう、めっちゃ早口で。俺がやつから視線をそらすスキを与えないくらいの早さで……。


 そして、やつが早口で詠唱を終えた直後に、呪術、死蝕の幻影(タナトスサイト)は発動し、その効果によりやつの体はドロドロに溶けた!


 当然、俺はその様子をばっちり見てしまったわけで――。


「ぐ……くぁwせdrftgyふじこlp……!」


 とてつもない気持ちの悪さに襲われた!


 そう、死蝕の幻影(タナトスサイト)とは、術者が自ら体を溶解させ、それを見たものに同じ感覚を共有させる呪術だ。この術を食らったものは、たいていは術者と同じように死んでしまうとかなんとか。悪趣味オブ悪趣味みたいな、呪術だ。


 ま、まあ、俺レベルになるとさすがにこれぐらいで死にはしないが……しないが? 正直、死ぬレベルじゃないにしても、めっちゃきついんですけど! まるで体の内側で、得体のしれない無数の触手がうごめいているような、圧倒的気持ちの悪さ! 痛みもあるし、吐き気も寒気もあるし、めまいもするし、冷たい汗も出ちゃうし、もう意味わからん! つれーわ! なんなのこの術!


「ほほう、さすがトモキ君です。これだけの至近距離で死蝕の幻影(タナトスサイト)の術を受けながらも、いまだ原型をとどめて立っていられるとは」


 と、すでに元の形に戻っている男が、さすトモしてきた。原型ってなによ。


「はは……お、俺を誰だっと思ってんだよ。こ、こんな、チンケな術じゃ、倒せるわけねえだ、ろ……」


 必死に平静を装い、効いてないアピールするしかない俺だった。頼むから、もう俺の目の前で死蝕の幻影(タナトスサイト)は使わないでください、お願いします!


「そうですね。やはり幻術系の呪術では決め手に欠けるようですね」


 と、俺の気持ちが通じたのか、やつも違う術を使う気になったようだ。やったぜ!


「そうだぜ。せっかくのタイマン勝負なんだ。ドカンと派手にやりあおうぜ!」

「では、お言葉に甘えて……」


 直後、リュクサンドールはいきなり上空に舞い上がった。


 そして――再び詠唱した!


「始原の混沌の、さらに奥深くに潜む悠久の観測者よ! その深淵から、すべての魔力を解き放ち、かの敵を穿て! 始原の観測者アビスゲイザー・ケイオス!」

「な――」


 ちょっと待て。アビスゲイザーだと? それって、まさかアレ? あの術なの?


 だが、何か質問している余裕はなかった、やつの詠唱が終わると同時に、俺の足元に暗黒の瞳のレリーフが現れ、そこからレーザーが発射されてきたからだ。


「くっ!」


 とっさにそれをかわしたが、その術の発動の早さには度肝を抜かれる思いだった。


 だって、アビスゲイザーって、あのレーナの魔術師ギルド連中が、大勢で長時間詠唱してやっと使えた術だぞ? それをこいつは、こんな一瞬で……。


 やはりこの男、頭ちょろすぎとはいえ、実質ディヴァインクラスってのはガチのようだ。死んでからの復活の早さといい、異常な魔力といい、そこらのモンスターとは明らかに桁違いだ。

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