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170 勇者、やっと我に返る

 お、俺はいったいどうすればいいんだ……?


 もはや完全に思考停止状態で、俺はベッドの中で、ユリィにされるがままに服を脱がされてしまった。上に着ていた半そでのシャツだけだが。


「……下は、そのままでもいいですよね?」

「そ、そうね! ズボンはそのままでいいよね!」


 デンジャーだから、そこ! お前に触られると大変なことになるから、そのへん!


「じゃあ、その……改めて……」


 俺の着ていたシャツをベッドの外に出したところで、ユリィはシーツを頭からかぶったまま再び俺に体をくっつけてきた!


「お……おおおぅ……」


 なんということでしょう! おっぱいが! すべすべお肌のとってもやわらかおっぱいが、俺の胸にダイレクトに押し付けられて、ふにゃってつぶれて……幸せ過ぎて、もう意味わからんぞ!


「ど、どうですか、トモキ様? お気分は?」

「い……いい……」


 ああ、そうだよ! 最高の気分だよ! まるで天国や極楽にでもいるような気持ち――ちょ、待て。さすがにこのまま天国逝っちゃだめだろう、俺! 幸せに負けるな、俺っ!


 そうだ、冷静になって考えてみろ。これはあくまで治療行為なんだ。ユリィにいやらしい気持ちはこれっぽっちもないはずなんだ。あのエロ痴女にアドバイスされた通りにやってるだけなんだから。だから俺も、ただのか弱い病人として、ユリィの体を張った看病を受け止めるべきなんだ。


 そうだ、これはただの治療行為……。ただの治療行為……。


「トモキ様の体、すごく熱くなっています」

「え」

「汗も、こんなに出て……」


 ユリィはシーツの中から手を伸ばし、俺の汗だくの額を撫でた。


 と、はずみでシーツが少しめくれ、その顔があらわになった。ユリィはやはり、とても心配そうな目で俺を見ていた。


 この目つきは……俺はその瞬間、はっとした。思い出したのだ、前にもユリィに同じような目で見られたことがあったのを。あれは確か、ユリィに呪いのことを知られた直後だった。


 そうか、こいつはあの時も今も、ただ一心に俺のことを心配してくれているだけなんだ。それなのに、俺ってば、何を浮かれていたんだろう……。とたんに、目が覚めるような思いがした。


 そうだ、今は色ボケしてる場合じゃねえ。こいつにこれ以上こんな顔をさせないためにも、俺は早く病気を治さなきゃいけねえんだ。


 と、そう思った直後――俺は体からどっと力が抜けたようだった。そうそう、俺ってば5%の確率で死ぬかもしれない病気の真っ最中だったんだ。だからまあ、今は当然だるいし、息苦しいし、熱っぽいし、めっちゃつれーよな。これも思い出しちまったぜ、ハハ。


「ユリィ、そんな顔するなよ。俺を誰だと思ってんだよ。病気なんかにやられるタマじゃねえよ」


 実際のところけっこう重症っぽいんだが、ユリィにこれ以上心配させないためにも強がるしかなかった。


「……本当、ですか?」


 ユリィは俺をじっと見つめた。すがるような目つきだった。そして、直後、その黒い瞳は涙で潤み始めた。


「おい、いちいち泣くなよ」


 俺は笑って、ユリィの背中に手を回し、さらに抱き寄せた。「すぐよくなるから」と、ユリィにささやきながら。


「ああ、そうでしたね。トモキ様は病気なんかに負けるお方ではありませんでしたね」


 そんな俺の言葉に、ユリィはようやくほっとしたようだった。瞳に涙を浮かべたまま微笑んだ。はずみで、その目じりからぼろぼろ水滴が落ちた。


 それからしばらく、俺たちはそうやってベッドの中で体を寄せ合っていた。


 俺はマジで具合が悪かったので、ユリィとはあまり話はできなかった。ユリィもただ黙って俺に体をぴったりくっつけているだけだった。この行為が本当にハシュシ風邪に効くのかどうかは知らんが、ユリィの体のぬくもりを感じていると、次第に気分が楽になっていく気がした。


 やがて俺はだんだん眠くなっていき――と、そこで、


「あ、そうだ。トモキ様。昨日の昼休みのことなんですけど」


 ユリィが何か思い出したようだ。薄れていく意識の中で、その声が遠く響いて聞こえた。


「前みたいに、また理事長室で、理事長に魔法の相談に乗ってもらっていたんですけど、そこにラティーナさんがやってきて……」


 次第にユリィの声が小さくなっていく。


「一緒に……の練習を……トモキ様の……でも、うまくいかなくて……」


 最後のほうはもうよく聞き取れなかった。俺はそのまま意識を失った。

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