165 謁見の間にて Part 5
「あ、そういえば、学院のみんなが噂してたよね。トモキ君がハリセン仮面じゃないかって」
ぎくっ! 女帝様いきなり何言ってんだよ!
「ねえねえ、どうなの、そのへん? トモキ君って、実はハリセン仮面だったりするの?」
ファニファローゼは俺の顔をじーっとながめて尋ねてくる。その顔はやはりあどけないが……エメラルドのような緑色の瞳の奥は、鋭く光っているようにも見えた。
「ち、違うに決まってんだろ!」
「あ、そうだよね。トモキ君は、勇者アルドレイ様だから強いってだけだもんねー」
「そうだよ!」
そうそう。それでこの話は終わりってわけだ。
「まー、仮にそうだとしても、ここで正直に言う理由なんて、全然ないよね。ファニファさっき、ハリセン仮面は絶対死刑って言っちゃったしー」
幼い顔でまた残酷なことをいうファニファローゼだ。
「でもね、ちゃんと反省して、正直にごめんなさいって言ったら、ファニファだってちょっとは考えるもんだよ?」
「マ、マジか?」
許してくれるのか、この俺を? とっさにその言葉に反応してしまったが、
「そうだよ。ちゃんと自分から罪を認めたら、死刑執行までの待遇をすごくよくしてあげる。毎日おやつあげたり」
「死刑執行は変わらないのかよ!」
何か期待した俺がバカだった。
「えー、死ぬ前に毎日おやつ食べられるって、超お得だよー? おやつ抜きで死んじゃうより絶対いいよ。あと、死刑の種類もいろいろあるから、特別に、すごく楽しい奴選んであげる!」
「ばかばかしい。どのみち死刑になるのに何の違いがあるんだよ。つか、俺、別にハリセン仮面じゃねーし!」
「そうですよ、陛下。今日はそんなことをおっしゃるために、彼や他の方たちをお呼びしたわけではないでしょう?」
と、リュシアーナが俺の助け舟を出すように、ロリババア女帝をいさめた。
「あ、そうだよね! ごめーん、トモキ君」
ファニファローゼはまた小憎たらしくテヘペロした。
「じゃあ、あらためて。みんな、このあいだは、悪いモンスターたちからドノヴォン国立学院を守ってくれて、どうもありがとー! 女帝様、心からみんなにお礼を言っちゃうよ!」
頭に王冠載せてるだけの制服姿の女児にこう言われてもなあ。ありがたみゼロすぎる。
「特にそこのトモキ君、すごい活躍だったよね、ほめてつかわす!」
「お、おう」
まあ、俺的にはたいした仕事でもなかったがな……と、思ってると、
「ま、トモキ君いなくても、ファニファだけでなんとかなったけどね、あれぐらいの数のモンスター」
なんか女帝様がまた生意気な口を利いてらっしゃるんだが?
「お前、人に礼を言った直後にそれはないだろ」
「だって、事実だもん。ファニファの超つよ神聖魔法の絶対守護者で、みんなを守るくらい簡単だもん」
「ああ、お前、なんかそういうチート神聖魔法使えるんだっけか」
確か、三つあったな。
「絶対守護者っつうのは、その名の通り、防御魔法か?」
「そーだよ。ほとんどすべての攻撃もモンスターもはじく、超強力なバリアを張れちゃうんだよ。すごい広い範囲に」
「ふうん? いかにもザ・防御って感じの魔法だな」
確かにそれ使えば、あの場にいるモンスターからは生徒たちを守れただろうな。
「他の二つの神聖魔法はどういうものなんだ?」
「一つは大いなる祝福。治療魔法だけど、そこのサンディー先生みたいな不浄な魔物には大ダメージだよ」
ファニファローゼがにっこり笑ってそう言ったとたん、リュクサンドールは「うぐぅ」と、何やら苦しそうにうめいた。その大いなる祝福とやらを食らったのがトラウマになっているようだった。
「そして、残る一つは神花繚乱。この効果は……なんだっけ?」
と、いきなり首をかしげる女帝様だった。おいおい、自分の専用魔法だろうがよ。
「防御、回復と来たんだから、普通に考えりゃ、神聖属性の攻撃魔法だろ」
「そうだったかなー? ファニファ、実はこれ、ずっと使ったことないんだよね。継承してからずっと」
「まあ、女帝様じきじきに誰かに攻撃魔法ぶっぱなす機会なんて、そうそうないか」
チェスのコマじゃねーしな。どこぞの不死族だけは自ら回復魔法でお仕置きしたみたいだが。
「あ、陛下、あれを皆様にお渡ししないと」
と、リュシアーナがはっとしたようにファニファローゼに言った。
おお、この口調、まさか金一封でももらえちゃうのか! と、思ったわけだが……、
「そうそう! みんなにお礼の勲章あげなきゃね!」
もらえるのは、勲章とかいうクソどうでもいいものだった。俺はため息をついた。ばかばかしい、はよ帰ろう、こんなところ。