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160 処女女帝《ヴァージン・エンプレス》

 その日の夕方、寄宿舎に戻った俺は、さっそくルームメイトのヤギ助に女帝様からのご招待について尋ねてみた。


「ああ、確かに、俺のほうでお前の招待状を預かっているぞ」


 ヤギ助こと、黒ヤギのレオはそう言うと、自分の机の引き出しから手紙のようなものを一通取り出し、俺に差し出した。見ると、それは確かに王宮から届けられた羊皮紙の招待状のようで、女帝のものらしい絢爛豪華な封蝋があった。しかし、よく見るとヤギの歯形もしっかりついていた。黒ヤギくん、まさかこれ、羊皮紙だから食べずに保管できてたのかい?


「招待されているのは、俺とお前のほか、ルーシアとフィーオとラティーナ、それに学院の教師代表としてリュクサンドール先生だ。ただ、ルーシアとフィーオはそれぞれ行けない事情があるようだ」

「事情?」

「招待されているのは明日の夕方なのだが、ルーシアはどうしても外せないクラス委員長の仕事があるそうだ。そして、フィーオはまだあの電撃魔法のダメージが残っているらしい」

「え、あいつ、そんなに悪いのか?」


 俺はぎょっとした。てっきりもう回復していると思っていたのに。そういえば、今日は教室にいなかった気がする……。


「体のほうはもうすっかりよくなっているそうだ。ただ、電撃のショックで、ここ最近の記憶が相当あいまいになっているらしい」

「き、記憶障害……だと?」


 ちょ、待て、あいつの記憶が吹っ飛んでるってことはだな――。


「ここ最近ってどれぐらい前までなんだよ?」

「さあな? ただ、同じ部屋で寝泊まりしているユリィのことも、よく思い出せないようだ。二人は最近知り合ったばかりなのだろう?」

「ユリィのこともか!」


 マジか! じゃあ、あいつ俺のことも忘れてるのか! ついでに、俺がハリセン仮面であることも……。やべえな、おい! 思わぬラッキーで、俺の正体を知る唯一の人物の口封じに成功しちゃったぞ!


「まあ、記憶障害は一時的なものかもしれないが」

「う……」


 そうか。まだ油断はできねえか。とりあえず、あいつの記憶が戻らないことを祈るしかねえか。


「というわけで、トモキ、フィーオはまだ外出できるような状態ではない。王宮には俺とお前とラティーナと先生の四人で行く」

「ああ、わかった」


 しかし、そこでやはり気になってくることが、ひとつ。


「なあ、ドノヴォンの処女女帝ヴァージン・エンプレスって、どんなやつなんだ?」


 そう、招待してきた側のことを、俺はなんも知らんのだ。よそ者だし。


「やっぱり、処女女帝ヴァージン・エンプレスって言うからには、ずっと結婚せずに独身のままでいる女帝様なのか?」

「ああ、そうだな。陛下は今より四十年前、十一歳の誕生日を迎えられたときに即位されたが、以来ずっと独り身だ」

「ふーん? 権力者のくせにいい男との出会いがなかったんだな。あ、政略結婚って手もあるか」

「トモキ、何か勘違いをしているようだな? 彼女が生涯独り身でいることは、聖ドノヴォン帝国の伝統なのだぞ」

「え、伝統?」

「たからこそ、この聖ドノヴォン帝国の女帝は、処女女帝ヴァージン・エンプレスと呼ばれるのだ」

「……つまり、女帝様には結婚禁止のルールがあると?」

「そうだ」

「な、なにそのかわいそうな決まり」


 人権無視にもほどがある伝統だ。結婚ぐらいさせてあげなよ。


「じゃあ、後継ぎはどうするんだよ?」

「時期がくれば、王族の中から適切な後継者が選ばれることになっている。幼い少女の中からな」

「ロリ限定なのかよ」

「ああ、成人前の娘しか『ニニアの寵愛』は受け継ぐことができないからな」


 それって確か、この国の女帝だけがもらえる、チート魔力だっけ。神聖属性の。ニニアって名前がひっかかるが。ディヴァインクラスのレジェンド・モンスターにそういう名前のやつがいたはずだからな。


「陛下のひととなりは、明日直接お会いすれば、お前にもいやというほどわかるだろう」

「まあ、そうだな。百聞は一見に如かずってやつだな」


 話を聞く限り、五十過ぎのオールドミスの聖なるババアってことはわかったしな。あとは、明日のお楽しみにとっておくことにしよう。

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