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139 武術の授業 Part 6

「ではでは、ミッナサーン。これからワタシと一緒に、人として生まれたことを後悔しちまうような、チョベリバハードなレッスン、はじめてみまショウカー?」


 ネム in ラックマン刑事は、自身の本体であるゴミ魔剣(今は絶対安全魔剣に擬態している)を両手に握って構え、ギラリと目を光らせた。その立ち居振る舞いもしゃべり方も、不審者そのものだ。


「ねえ、なんか、あの刑事さん、最初にあいさつしたときと雰囲気ちがくない?」

「目つきおかしいよね?」


 そんな声が周りから聞こえてきた。くそ、ネムのやつ! もうちょっとそれらしく振舞えよ!


 と、俺が内心いらだっていると、


「あ、そっか。警官って意外と闇社会と通じてるって言うし」

「言うし?」

「変なクスリきめてんだよ、アレ」

「あー、あるある、それ絶対あるー」


 なんか近くの男子生徒たちがこんなこと言い始めているんだが?


「ほら、よく芝居とかであるじゃん? 謎の白い粉を刑事がぺろって舐めて、『これは麻薬!』って驚くようなシーン?」

「あー、あるある。それ、めっちゃあるー」

「刑事ってそういう鑑定でさ、クスリの中毒になっちまうらしいんだわ」

「なるー、わかりみしかねえ」


 何この会話! そういうガバガバ鑑定してるの、警察じゃなくてどっかの名探偵ですよ!


「あ、でも、その舐めた白い粉が毒だとどうなるん?」

「そりゃ、死ぬだろ」

「死んだらー?」

「殉職で二階級特進ってやつじゃね。考えるほどに、無駄がねえな」

「ああ、淀みねえ……!」


 あるよ。淀みしかないよ。なんだよさっきからこの謎会話。大丈夫かこの学校。


 と、そのとき、


「ラックマン刑事、ひとつよろしいですか」


 ルーシアが前に出てきた。


「ア、ハーイ? なんでショウカネー?」

「そこの台に並んでいる練習用の絶対安全魔剣のことです。私の記憶が確かなら、ここに用意されている剣は、十本だったはずなのですが――」


 と、ルーシアは台の上に並んでいる剣を一瞥し、最後にネムの持つ剣を見て、


「今は十一本あるようなのですが?」


 なんかまた追及してきた! うう……ここで十一本ある!ときたか……くそう!


「私は、さきほど、ラックマン刑事がそこのトモキ君から絶対安全魔剣を手渡されるところを、はっきりこの目で確認しました。もしかすると、刑事が今お持ちのその剣は、ここに最初から用意されていたものではなく、そこのトモキ君の所持品なのではないですか?」


 ルーシアは青い目を鋭く光らせながら、俺を指さした。うう、まずいぞ。このままでは、ネムが持っている絶対安全魔剣がニセモノだとバレてしまう!


「実は、さきほどからの刑事の異様な目つきにも、私は見覚えがあるのです。そう、あれは今から数日前、この学院の近くの廃村に赴いた時に、そこで出会った中年男性が、今の刑事と同じような目つきをしていました。また、彼の手にはとある魔剣が握られていました」


 やばい! めっちゃやばい! このままだと、俺がラックマン刑事を魔剣で操ってることもバレちゃいそうだ! 俺の胸の中の焦りは最高潮に高まった!


 だが、当のネムは実に涼しい顔だった。


「アッハー? アナタが何を言いたいのか、ワタシにはトンとわかりかねますネ? アナタが数日前に出会った中年男とワタシが似ていたとして、それが何の問題があるのデショウネ? 他人の空似という言葉を知らないのですカネー?」

「そうですね。ただ似ているだけというのなら、そう解釈するのが妥当ですが、私はおそらく、その中年男性が持っていた剣が、今、刑事あなたの手の中にあると考え――」

「ハテ? なぜアナタは唐突に、ワタシが持っているブツの由来を語ってるのですカネー?」


 ネムの表情はまったく崩れない。


「アナタは先ほど、ここにある剣が普段より一本多かったことを、まるでオーガの首を取ったように言いましたが、それはそんなにおかしなことですかネ? 騒ぐようなことなのですかネ?」

「異常なことでしょう」

「イヤイヤイヤ? 数が減っているのなら、窃盗などの穏やかでない刑事事件の可能性も考えられますが、こういう学校の備品がいつのまにか増えていたとしても、原因はいくらでも考えられるものでショウ? 例えば、廃棄したはずだった古い備品が何かの拍子で発見され、それが今現在使われている備品に混ざっちゃったりなんかしてネー?」

「そ、そんなの、めったにないことでしょう!」

「めったにないことも、めったな時にはあるんじゃないですカネー?」


 ネムは不気味に目を光らせながら、ルーシアをあざ笑う。


 なんという余裕の表情! あのルーシアをここまで圧倒するとは! 俺はネムの舌戦の強さにシビれた! やはりルーシアなんぞ、しょせんケツの青い小娘なのだ。推定年齢数千年の、悪知恵と悪意の塊のようなゴミ魔剣様に勝てるわけないのだ! はっはっはー!


 と、俺が心の中で勝利の美酒に酔っていると、


「……そうですね。まずは増えた剣の出どころをはっきりさせるために、それぞれの製造番号シリアルの確認をしたほうがいいですね」


 なんかまたルーシアが言ってきたんだが!


「この学院に納入されている備品は、すべて、それぞれいつどこの工房で作られたのかはっきりわかるように製造番号シリアルが入っているはずです。それを一つ一つ調べていけば、増えた剣がただの古い備品なのか、あるいはどこかの誰かの所持品なのか、はっきりするでしょう」

「ほう、製造番号シリアルですか……ウフフ」


 と、ネムはまた不気味に笑った――って、大丈夫かよ、オイ!

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