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134 武術の授業 Part 1

 さて、それから昼休みを経て、いよいよ午後の武術の授業の時間になった。


 武術の授業を受けるのは、魔術の実技テストを受けたときと同じ、小さな体育館のようなところだった。この世界には剣道とか柔道とかはないはずだが、さながら現代日本の高校ならほぼ必ずある武道場みたいなもんだろうか。


 また、この学院の武術の授業は、体操着やジャージに着替える必要はなく、制服のまま受けることになっていた。おそらく、前に聞いた通り、制服そのものに防御とか修復効果の付与魔術エンチャントがかけられているせいだろう。


 ただ、俺にその話をしたヤギは、昼休みが終わると同時に、ラティーナと一緒にどこかへ行ってしまった。クラスの連中の前で、ユリィほか女子の知った顔と並んで歩くのも恥ずかしいので、とりあえず俺は一人で、武術の授業をやる場所に向かった。


 昼休みにヤギに聞いたところによると、武術の授業といっても、俺たちはしょせんまだ入学したばかりの一年生なので、本格的な内容ではなく、体育の授業に護身術のレクチャーを軽く混ぜたようなものらしかった。なぜ、あのチビの不良くんは、そんなもんに気合を入れていたのか……。


 やがて俺はすぐにその小さな体育館のようなところに着いたが、中に入ろうとしたところで、「トモキ君、ねえ、見て見て!」と、後ろから声をかけられた。ラティーナの声だった。


 振り返ると、やはりそこには見覚えのあるロリっ子が立っていたが、その隣には、見知らぬ長身の男子が立っていた。褐色の肌に、引き締まった精悍な顔立ちのイケメンで、髪は黒く短く、瞳は琥珀色だ……って、あれ、この目つき、どっかで見たことあるな?


「お前、もしかして、レオか?」

「ああ、そうだ」


 褐色イケメンはうなずいた。その声は確かにレオのものだった。そう、妙に低いイケボ。


「なんで急に、俺にも人間の姿に見えるようになってんだよ。俺には効かない幻術じゃなかったのかよ?」

「この姿は幻術を使ってるわけではない。違う術で、姿そのものを人間に変えているのだ」

「え、つまり、物理的に変身しちゃってる状態なの?」

「そうだ」

「なんでまた、急に……」


 と、俺が首をかしげたところで、


「カプリクルスの体のままじゃ、みんなと武術の授業受けられないでしょ?」


 ラティーナが俺たちの間に割り込んできた。


「そうか、言われてみれば……」


 体育の授業みたいなもんだし、誰かと組んでストレッチやら乱取りやらする可能性はあるな? ヤギの体のままだと、さすがにごまかしがきかないか。


「もしかして、今のこの姿が、普段お前が幻術でみんなに見せているものなのか?」

「まあ、そうだな」

「ふ、ふーん……」


 ほんとはヤギのくせに、こんなイケメンになっちゃってまあ。俺も、どうせ生まれ変わるなら、こんな容姿に生まれ変わりたかった……。


 その後、俺たちはそのまま中に入った。中にはすでにたくさんの生徒たちが集まっていたが、フィーオの周りにはちょっとした人だかりができていた。どうやら、武術の授業と聞いて、殺し合いでもするのかと勘違いし、自分のメイン武器である大きな弓を持ってきてしまったようだった。


「え? みんな自分の武器使わないのー? なんでー?」


 と、不思議そうにつぶやくフィーオに、周りの生徒たちは笑い声を出している。まあ、アホがいつも通りアホをさらして、恥をかいただけか。さすがに学校の授業で、ガチ武器はないだろうがよ。


 やがて、授業が始まる時間になり、俺たちは整列した。武術担当だという先生はすぐに俺たちのところにやってきた。事前にレオに聞いていた通りの、五十代くらいのやせたおっさんだった。教師の制服ではなく、グレーのスウェットの上下みたいなものを着ていた。さらに、おっさん先生の他にもう一人、中年の男が中に入ってきた。こちらはきっちりした軍服のようなものを着ている。体つきもいかつく、顔もコワモテだ。


「えーと、今日は特別に、武術の指導をしてくださる先生を、外部からお呼びしている」


 おっさん先生がやる気なさそうにコワモテ男の紹介を始めた。


「この方は、モメモ第二警察署、捜査一課の刑事さんだ。ハリセン仮面の捜査でお忙しいところを、特別にお越しいただいた」

「自分の名前は、ラックマン。階級は警部補であります! 不肖ながら、今日は自分がみなさんの武術の指導にあたらせてもらいます! どうぞよろしく!」


 ラックマン刑事は、体育会系らしい威勢のよさで、生徒たちにあいさつした。


 な、なるほど、警察官が地域住民との交流をかねて、武術の指導に出向いてきたってわけか。な、なるほど……ハハ……。


「トモキ、どうした? 顔色が悪いようだが?」


 と、俺の隣に立つ褐色イケメンが尋ねてきた。


「べ、別に……俺は全然なんともないぜ?」


 俺はつとめて平静を装い答えたが、額に冷たい汗がにじむのは止められなかった。


 ま、まさか、ハリセン仮面の捜査を現在進行形でやっている警察の人間が、この学校にやってくるとは。くっ……! この武術の時間、なんとしてもボロを出さずに乗り切らなくては……!

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