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125  魔術の実技のテスト Part 7

「どういうことですか、レオローン君?」


 検察官ルーシアはレオ弁護士に問いかける。


「トモキには秘密にしておいてくれと頼んでいたのだが、このさい、正直に話そう。実はあのとき、トモキには俺の魔法の練習相手になってもらっていたのだ」

「練習相手? なんの魔法ですか?」

「身体強化系の術だ」

「身体……強化……!」


 検察官ルーシアははっとしたように大きく目を見開いた。


「そう、あのとき、トモキの腕力は俺の魔法で大幅に強化されていたのだ!」

「おおおっ!」


 と、突然の新たな事実の発覚に、またどよめく生徒たち! 俺ももちろん、びっくりだった。そんな話、初耳すぎるし。


「つまり、トモキ君があの岩を壊すことができたのは、レオローン君、あなたの術で彼の身体能力が大幅に強化されていたからなのですか?」


 検察官ルーシアはさらにレオ弁護士に尋ねる。つか、もはや半分証人ですやん、この黒ヤギ。


「そうだ。つまり、彼には本来、勇者アルドレイの生まれ変わりかと錯覚するほどの膂力りょりょくはない。すべては俺のかけた術のせいなのだ」

「しかし、ならばなぜ、トモキ君はそのことを正直に話さなかったのですか。あれだけ好き放題言われていたのに?」


 と、ルーシアはそこで俺に振り返った。いや、好き放題言っていたのは、主にお前だろ!


「だから先ほど言っただろう、ルーシア。俺がトモキに頼んでおいたのだ。俺が身体強化の術を練習していることは、誰にも言わないでくれと。彼はそれを守ってくれただけだ。そう、たとえ、自分にいわれのない不名誉な疑いがかかろうとも、彼は俺との約束を固く守り、秘密にしておいてくれたのだ!」

「おおおっ!」


 レオ弁護士兼証人の力強い言葉に、またしても生徒たちは声を上げた。なんかもう、さっきから完全にノリがアメリカの法廷ドラマですやん。


 しかし、レオが嘘をついてまで俺の疑いを晴らそうとしていることは、俺にもよくわかったし、感動で胸がふるえる思いだった。このヤギ、さっきからなんというイケメェェンなんだろう! そして、なんて機転が利くんだろう! そう、あのとき俺の身体能力は魔法で強化されていた――そういうふうに説明しておけば、俺に降りかかったすべての疑いは晴れ、俺も普通のオトコノコ扱いに戻るってもんだよな。ほんま、うまいやり方やでえ!


「そ、そうですか。あのときトモキ君が発揮していた異常な力は、そういう……」


 検察官ルーシアもさすがに何も反論できなくなったようだ。悔しそうに、歯ぎしりをして俺とレオを交互ににらんでいる。フフ……勝った! 高飛車な検察官の女を打ち負かし、俺たち、見事に無罪を勝ち取ってやりましたよォー!(ほんとは有罪なんだけどね!)


 と、しかし、そこで、異議が飛んできた。意外なところから。


「おかしいわね、レオローン君。あなた、入学したばかりのころの検査では、身体強化の術の適正はほとんどなかったはずじゃない?」


 そう、それはアーニャ先生の言葉だった。


「あなた、いつのまに身体強化の術なんて使えるようになったの?」

「もちろん、いまだに完全に使えるようにはなっていません。ゆえに昨日、トモキを相手に練習していたのです」


 嘘に嘘を重ねて答えるレオだったが、その口調はよどみなく、表情も落ち着き払っているように見えた。まあ、ヤギだし、正直よくわからんのだが。


「そう。じゃあ、まだ使えるようになって間もないのね。初心者なのね?」

「はい」

「だったら変ね? どうして初心者のあなたの術で、トモキ君はあの岩を壊せるほどのスーパー怪力になれたのかしら?」

「なれたのです。結果が全てです」

「いやー、ちょっとおかしいわよ? だって、あの岩を魔法で強化したのはあの理事長よ。それに対抗できる腕力を得るためには、身体強化の術もそれなりにレベルの高いものじゃないとダメなはず――」

「ダメであろうと、それで壊せたのです。何も問題ありません」


 なんか、レオの口調があやしくなってきた……。やべえ、意外な伏兵の登場で、俺、またピンチじゃねえか! ついでに嘘ついたレオも!


 と、俺と(おそらくは)レオがうろたえていると、


「あ、そっか、わかったわ! トモキ君とレオローン君、すごく相性が良くて通じ合ってるのね!」


 アーニャ先生は何か勝手にひらめき、勝手に納得したようだった。


「身体強化の術みたいな、特定の誰かにかける魔法は、術者と対象者が強く愛し合っていたりすると、効果が上がることがあるのよ。きっとそうね。あなたたち、寄宿舎でも同じ部屋なんでしょう。お互いを強く想いあい、信頼しあってるのね。それが、レオローン君の術の効果に現れたんだわ」


 って、そういう解釈になるのかよ! 俺たちまだ出会って三日しか経ってないんだが!


 しかし、レオもここぞとばかりに?その言葉にうなずくのだった。


「そうですね。俺はトモキの上に乗るのが好きです。乗るたびに、俺はトモキの体から彼自身の力強さを感じます」

「きゃー!」


 と、周りから驚きの声が上がった。今度は黄色い感じの。


「レオ君がトモキ君の上に乗るんですって! 二人はもうそういう関係なのね!」

「レオ君は攻めで、トモキ君は受けなのね!」

「知らなかったわ、レオ君ってトモキ君みたいなのがタイプだったのね!」


 って、また女子どもが変な誤解してるじゃねえか、クソが! 何が攻めで何が受けだよ! あんなヤギ相手に何しろっていうんだよ! いまのところ、部屋がヤギ臭いだけなんだが!


「あ、あなた……ユリィさんやフィーオさんだけではなく、同性のレオローン君とまで関係を……」


 ルーシアは愕然としているようだ。


「ち、違う! 俺、誰とも関係持ってない――」

「黙りなさい! あなたのような不潔で最低極まりない男の言葉など、もはや聞く価値はありません!」


 ルーシアは吐き捨てるように言う。全部誤解なんだが、さっきから言いたい放題すぎるだろ、このクソアマ!


 まあでも、これでようやく俺へのハリセン仮面の疑惑は晴れたわけだよな。不名誉な三股野郎(同性異性問わず)の称号と引き換えに……うう。


「て、てめえ、女二人を手玉にしておきながら、さらにあのレオまで、たらしこんじまったのかよ!」


 と、そこで近くでチビの不良君が俺に向かって吠えた。


「あんな真空の刃を魔法もなしに出したことといい、てめえ、編入二日目で、どんだけ伝説作るつもりだよ! ふざけんな!」

「いや、いまさら伝説作るつもりは……」


 十五年前に特大の伝説作ったんで、一応。


「お、覚えてろよ! この借りはきっちり返すからなっ!」

「え? 俺、別にお前に何もしてない――」

「明日の武術の時間、俺は必ずお前を倒すっ!」


 よく吠える小型犬みたいな不良は、俺に威勢よく宣戦布告してきた……。

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