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111 ジミナ魔剣(観賞用)

「ああ、そういえば、こんなモンもあったねえ」


 驚いている俺とは対照的に、エリーは実にどうでもいい感じだった。


「返せよ! これ俺のなんだし――」

「五千万ゴンスかかったんだがね」

「え」

「大ザンビエル・オークションに出品されていたこれを買い戻すのに、五千万ゴンス」

「ご、五千万……」


 大金じゃねえか!


「まあ、あたしが落札したとき、これが勇者アルドレイの所持品だとは知られてはいなかったがね。ただの、よく使いこまれた魔剣としての値段、それが五千万」

「え、じゃあ、俺が使ってたものだって証明されると?」

「十億にはなるんじゃないかねえ」

「おおおっ!」


 マジか! すげーお宝じゃん! 勇者アルドレイ様ブランドの付加価値ぱねえ!


「じゃあ、さっそく俺が昔の字で一筆書いて、証明を――」

「あ? 余計なことすんじゃねえよ、クソ勇者が。んなことされたら、こんなところに気軽に飾っておけなくなるだろうがよ。資産価値が無駄に上がると、保険代とか税金とかもバカにならねーし」

「そ、そう……」


 じゃあ、なんのためにこの女は、五千万でこの剣を買い戻したんだ。ただの観賞用かよ。


「俺に返してくれる気はないのか?」

「ないね」

「俺の剣だぞ」

「十五年前、あんたが死んだ時点で、所有権は放棄されたようなもんだろ。女にふられたぐらいで自殺するようなやつが悪い」

「ち、ちが! 俺は別に自殺なんかしてないぞ!」


 ティリセといい、どうして俺の元仲間のクソ女どもは、俺が自殺したって宰相の説明をすんなり受け入れたうえで罵倒してくるんだよ! 十五年たっていようと、俺の心はまだあのときの痛みを覚えてるのにさ!


「俺は殺されたんだよ! 姫に告白した直後に!」

「ふうん、なんでまた?」

「それは、もちろん呪――」


 と、そこで、俺は近くにユリィが立っていることに気づき、口ごもった。まずい、「バッドエンド呪い」の詳細について、ユリィには知られるわけにはいかない、絶対に。


「そ、そのう、そのへんは俺にもよくわからんのだが、姫は親父に命令されたって言ってたし、国家の策略的な何かだったんじゃない?」


 まあ、おそらくは俺が姫に告白したあの瞬間に呪いが発動して、そういうふうに姫と俺をめぐる因果関係が改変されたんだろうな。そういうことが起きうる、チートな呪いらしいし。


「なるほどね。ま、変だとは思ってたよ。あんたが、女にふられたぐらいで自殺するようなタマだろうかってね。そこまで繊細じゃねえっていうか……ようするにバカだしね」

「うっせーな!」


 とは言うものの、ティリセと違って、ちょっとは俺のことを理解して、自殺を疑ってくれていたエリーにほっとした。やはりこの女、あのクソエルフとは違う。


「というわけで、エリー。そんなかわいそうな俺に剣を返してあげよう?」

「やだよ。これは何年もここに置いてるもんなんだよ。これがなくなると、部屋の景色がしっくりこないんだよ」

「なんだそのふわっとした理由」


 しかしなんとなくそんな気持ち、わからんでもない。


「だいたい、あんたもう、新しい魔剣持ってるはずだろ。それ使って、あの暴マー倒してきたんだろうし」

「まあな」


 と、俺が答えた瞬間、


『ですよネー。マスターにはこのワタシがいるのですから、昔のオンナのことはきっぱり忘れてしまいまショ? ネー?』


 なんか、かつてないほど媚びたようなネム(今は籠手の形になって制服の袖の下に装着されている)の声が聞こえてきた。昔のオンナってなんだよ。そんなふざけたこと言う魔剣だから、まともな昔の剣に乗り換えたいんだろうがよ。


 まあ、目の前にある剣を取り戻したところで、こいつと縁が切れるわけでもないか……。


「わかったよ。それはもう、お前にやるよ、エリー。勇者様は十五年前に死んだんだからな」

「そうだね。今のあんたはただの学生。そしてあたしは理事長。立場ってものをわきまえないとねえ」


 エリーはふかふかの高級椅子にふんぞり返りながら、偉そうに言う。


「あんた、この学院にいる間は、これ以上問題を起こすんじゃないよ?」

「わかってるよ」


 俺はエリーと約束し、やがてユリィとリュクサンドールとともに理事長室を出た。

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