104 学園生活スタート
翌日、俺とユリィとフィーオは、三人まとめてリュクサンドールの担当する一年四組に編入された。
「というわけで、みなさん、今日から三人と仲良くしてあげてくださいねー」
朝のホームルームの時間に、俺たちは教壇の横に三人並んで立たされ、いっぺんに紹介された。そこからざっと見たところ、日本の高校の教室とあまり雰囲気が変わらないように見えた。まあ、さすがに生徒の目や髪の色はバラバラだが。黒ヤギとか、明らかに人間じゃないのも混じってるし……って、お前、俺と同じクラスだったんかーい。
「あ、そうだ。席に着く前に、これを返しておきましょう」
と、リュクサンドールは俺たちに紙切れを手渡し始めた。昨日、会議室で俺たちが受けたテストの解答用紙だった。すでに受けた六教科すべての採点が終わっており、俺の点数は全部足して百点ぐらいの惨憺たる結果だった。うーん、覚悟はしていたが、我ながらひどい。ちらっと隣を見ると、フィーオも俺と同様にかなりひどい点数のようだった。
ただ、ユリィの点数は俺たちとはまるで違っていた。
「みなさん、聞いてください。実は昨日、三人には、みなさんがこの間受けた中間テストとまったく同じ問題を解いてもらったのですが、なんと、ここにいるユリィ君は、六教科中たった一つのケアレスミス以外は、すべて正解の五百九十八点でした。すごいですね!」
リュクサンドールはユリィに拍手し、ほめたたえた。クラスの連中もその言葉に、おおお!と、驚きの声を上げた。
俺ももちろん、びっくり仰天だった。ユリィ、お前って実は、勉強めちゃくちゃできるやつだったのかよ!
「い、いや、その……」
一方、突然クラス中の注目の的になったユリィは真っ赤になってうつむいてしまった。まあ、こういうのは慣れてなさそうだし、無理もないか。
「ユリィ君以外の二人の点数は、しょんぼりな感じでしたので、これからはがんばってくださいね」
さらに余計なことを言うリュクサンドールだった。俺とフィーオは、たちまちクラスの笑いものになってしまった。ちくしょうめ。
それから、俺たちはそれぞれの席に案内され、座った。三人とも最後列の席だったが、ユリィとフィーオは窓際で隣同士の席だったのに、俺はそこから五列も離れた廊下側の席だった。くそ、なぜユリィと隣じゃないんだ。呪術オタの教師の気の利かなさに腹が立った。
しかも、俺のすぐ隣の席は、例の黒ヤギだった。他の生徒と同じように、きちんと椅子に腰かけて座っていた。なんだこのシュールな景色。
「トモキ、教室でも隣同士とはこれも何かの縁だな。重ね重ねよろしく頼む」
「ああ……」
相変わらず礼儀正しい黒ヤギだ。しかし、その体……やはりヤギにしてはでかい。二百キロぐらいはありそうだ。
「なあ、お前、明らかに他の人間より体重あるよな? そんな恰好で腰かけてて、椅子やら机やら壊れないのかよ?」
ほかの生徒には聞こえないように小声で尋ねてみた。すると、
「ああ、その点は問題ない。この学院の備品には、そう簡単には破損しないように耐久性強化の付与魔術がかけられているからな」
「付与魔術か」
なるほど。そういえば、勇者時代にも仲間のそういう魔法にお世話になった記憶があるなあ。強化、弱体化、属性付与、みたいな魔法だ。また、そういう魔法を専門に使う術者は付与魔術師と呼ばれている。
「リュクサンドール先生が今住んでいる部屋の床にも強化の術式が施されているという話だ」
「ああ、確かにあそこは、本だらけで今にも床が抜けそうだったな」
ボロボロなのに本の重みで床が抜けてなかったのはそういうわけか。
「もしかして、教師や生徒の着ている制服にも、なんか強化魔法かかってるのか?」
廃村でリュクサンドールの着ているコートが、勝手に修復されていたのを思い出し、尋ねると、
「まあな。教職員と生徒の安全を考えた、理事長のはからいだ」
なるほど、学費が高いだけのことはあるのか。説明してくれる黒ヤギが全裸なのがアレだが……。