虐められながら
本日二度目の投稿、最終話になります。
世界を救うため、巨大なグリムダストの攻略を果たしてから、少しの時が経ちました。
とあるのどかな道を、私たちはのんびりと、自分たちのペースで進んでいます。リシルさんがプレゼントしてくれた、この旅用の馬車の乗り心地は最高です。朱色と金色の混ざり合った派手な装飾の馬車は、一見するとどこかの貴族が乗っているのではないかと勘違いされそうな、そんな馬車です。
でも、中はそうでもないんですよ。乱雑に置かれた木箱や、床に敷かれた寝袋などは、とてもではないですが貴族が乗っている物には見えません。
「──この、ダメ勇者!貴女はどうしてこんな簡単な事も分からないんですか!?」
「ごめんなさい」
その馬車の中で、私は正座してタニャに怒られています。素直に謝罪しましたが、タニャはイラだった様子を隠そうともしません。
タニャはメイド服姿のまま座席に足を組んで座った状態で、私を見下ろしている所です。その目線はとても冷たく、まるでゴミを見るような物です。たまりません。思わず背筋がぞくぞくとしてしまいます。
「ま、まぁまぁ、落ち着いてください、タニャさん。エイミさんだって、一生懸命頑張っているんですから、そんなに責めたら可愛そうですよ。この能無しのエイミさんに期待する方が、間違っているというものです」
そんなタニャをなだめながらも、私をけなしてくるサクラに、私の興奮は収まりません。
サクラは私をけなしながら、タニャの隣に腰かけました。そして自然と身を寄せ合い、2人して私を見下ろして笑いかけて来ます。
私を見下ろす2人は、どこか色気混じりで、自然と手を絡ませ合いとても仲の良い様子です。私も、そこに交じりたい。でも、それは許されません。私は能無しのブタですからね。こうして仲良く絡み合う美少女2人を、眺める事しかできないのです。
「ふふ。確かに、エイミ様に期待する方が、間違いというもの。あんなの、放っておきましょう」
「そ、そうですね。放っておきましょう」
「……」
「……」
手は絡ませ合ってはいますが、2人はそれ以上発展する様子を見せません。それどころか固まってしまい、それからチラチラと私の方を見てきて、指示を仰いできています。
ここまでは、台本通り。台詞は私が考えた物で、3人で覚えた台本はとりあえずはここでお終いです。ここからは、本当はアドリブでやって欲しい所ですが、私が指示を出さなければ何もしてくれそうもないので、ここは仕方ありません。
「私に見せつけるように、二人でちゅーをしてください」
「で、でで、出来ません!」
「そうですよ!」
タニャとサクラは、私の指示を全力で拒否してきました。
そんなに嫌な事でしょうか。あれから2人はどんどん仲良くなっていき、今では友人のような関係に見えます。だからキスくらいいいでしょう。可愛い2人が、キスする所を見たいんですよ。しかも、2人で私を蔑んで罵倒しながら、見せつけるように。
「まぁまぁ。いいから、少しだけしてみましょう。少しだけ……先っぽだけでいいから……はぁはぁ」
「相変わらずの変態っぷりに、私は引いています。お願いですから、少しは自重していただけませんか?それが出来ないのなら、せめて黙っていてください」
この馬車を操っているのは、レイチェルです。私達の騒ぎを聞いてのぞき窓から顔を覗かせ、相変わらずの毒を吐いてきました。
この4人で、私はとある村を訪れようとしています。そこにあるのは、見捨てられたグリムダスト。既に周辺の霧の中には魔物が闊歩する、危険な状態となっている地です。この旅の目的は、そのグリムダストを攻略してその地を解放するのが目的です。ついでに、みーちゃんも探します。
本当ならリシルさんにもついてきてほしかったんですが、次期国王という立場上、前以上に危険な事をさせられなくなってしまいました。タニャに関しては現国王であるガリウスさんが、付いてくる事を猛烈に反対してきましたが、タニャが押し切った形です。ミコトさんはリシルさんの護衛のため、置いてきました。ついでに騎士に任命されて、レイチェルの代わりとしてこき使われているようです。
「コレは重要な訓練なんですから、邪魔をしないでください」
「何が訓練ですか。いたいけな乙女に、おかしな事を吹き込むのはお止めください」
そう、コレは訓練です。タニャとサクラに虐めてもらうため、頑張ってもらっている所です。でも2人は優しすぎるので、私に手は出してくれません。それならせめて言葉だけでもと思っているんですが、こちらも上手くいかないんですよ。
私の脳内変換で、2人の罵倒や表情はとても冷たい物になっていました。しかし実は、台詞は棒読みだし表情は冷たくないし、私が求める物とは程遠いです。もっと頑張ってもらわなければ、私は満足できません。
「レイチェルさんは、本当に凄いです……私には、エイミ様を罵るなんてとてもじゃないけど恐れ多くて……」
「わ、私も……。エイミさんは、とても凄い方なのに……」
「何が凄い方ですか。こんな事を貴女達に吹き込んでいる時点で、ただの変態ですよ。目を覚ましてください」
ああ、レイチェルを連れてきて、本当に良かったです。自ら志願してついて来ると言ってくれた彼女ですが、こうして罵られるていると、今の私に足りない栄養をたっぷりとくれるようで、癒されます。
リシルさんも、レイチェルの好きなようにしていいと言ってくれて、懐の大きな所を見せてくれました。そのリシルさんにも感謝ですね。
そんなレイチェルの影響を受けて、タニャとサクラも私をスムーズに罵倒してくれるといいんですけど……その日は遠そうです。
「ところで、その様子だともうすぐですか?」
「はい。グリムダストと、グリムダストから逃れて新設された、村が見えて来ました。まずはそこで、探すのでしょう?」
「はい!」
私は気合を入れて返事をして、立ち上がりました。今日の訓練は、ここまでです。
そして馬車の窓から顔をだし、その先にある村を見据えます。あそこに、もしかしたらみーちゃんがいるかもしれない。ここにいなくとも、この世界のどこかにいる。期待に胸を膨らませ、私は進み続けます。
この世界で、皆に罵られ、虐められながら。
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