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繰り返し


 全ての魔物を倒し終えた所で、ようやく平和が戻りました。私とミコトさんは武器を納め、サクラも息を吐いて安心しています。

 ミコトさんは炎の精霊の力を取り戻し、目まぐるしい活躍でした。サクラはサクラで、ミコトさんを守る盾の役目を果たしてくれて、本当にお疲れ様です。


「凄いじゃないですか。ツカサさんが尻尾を撒いて逃げ出した魔物に対し、貴女は勝ったんですよ。さすがです」

「私よりも遥かに強い貴女に言われると、複雑な気分だ。が、ありがとう。正直言うと、早速付いてきてよかったのかと思うレベルで帰ろうかと思っていた所だ」


 ミコトさんも、そう思っていたんですね。私もコレが終わったら、やっぱり帰ってもらおうかと思っていました。本当はもうちょっと奥まで行って鍛えつつ、実力をあげてから様子を見ようと思っていたんですけど、この迷宮をしばらく進んでから戻れと言うのは酷すぎます。だから、今の内と思っていたんです。

 それが炎の精霊の力を取り戻した瞬間、強い子になってしまいました。これなら付いてきて貰っても構わないレベルに到達しています。


「というか、何故サクラさんは斬られても無事なんだ?外でもそうだったが、聞きそびれていた」

「サクラが手に入れた力が、そういう物だからです。彼女は頑丈な身体を手に入れています。おかげで貴女達について荷物持ちをさせられていた彼女は、誰も守ってくれないのに無事で済んできました」

「……そういう事だったのか」


 ミコトさんには、思い当たる節があるようです。納得したように、サクラを見て頷いています。


「ところで、炎の精霊というのはどこに?」


 私は、ミコトさんが彼女と呼んだそれが気になり、はやる気持ちを押さえられずに尋ねました。

 彼女というからには、女の子ですよね。精霊と言うと、やはり小さな身体の女の子でしょうか。服はちょっと露出気味で、目はくりくりで肌はキレイ。子供のように無邪気で、自由奔放な子を想いうかべてしまいます。


「……?私が力を使う時、私の周りに光が飛んでいたのを見たか?」

「ええ、見ました」


 ミコトさんの周囲を、小さな赤い光が飛び回っていました。私はそれを、ハッキリと目撃しています。


「それが、精霊だ」

「……女の子?」

「そうだな。たぶん、女の子だと思う。実際彼女たちに性別があるかどうかは分からないが、なにぶん小さな光の塊でしかないからな。その辺りは私にもよく分からない」

「……」


 まぁ、別に良いですけどね。精霊さんがなんだろうと、私には関係ありません。残念ではありますが、とにかく力が戻って良かったですね。


「それから不思議なんだが、前よりも力が強くなっている気がする。前のままの私の炎の矢では、まだあの魔物に力が通用する事はなかったと思う。どういう事だろうか」

「それは単純に、貴女が強くなっているだけですよ。私たちはこの世界に来て、色々な魔物と戦い成長して来ている。ゲームのレベルアップのように単純な物ではないようですが、私は少し無理をして自分の限界を試すような戦いをくぐり抜ける度に、自分の身体能力が上がっているように感じます。当初の自分と今の自分を比べると、かなりの差があるはずです」

「……なるほど。レベルアップか。そう言われれば、しっくり来るな」


 それで納得されると、ちょっと困ります。数値で見る事が出来る訳ではないので、実際そうなのか分かりませんから。

 私はただ、分かりやすい例えとしてそう言っただけなので、そこは勘違いしないで欲しいです。


「わ、私も、前より頑丈になっている気がします」

「……」


 サクラも実感があるようです。でも私はちょっと心配になって、サクラを抱きしめました。

 サクラのこの身体が斬りつけられる光景は、私あまり好きではありません。いくら頑丈だからと言っても、嫌ですよ。それと、サクラの身体が硬くなるのは嫌です。触った感じは今の所、女の子らしく柔らかくて抱き心地が良いですが、これ以上頑丈になったら硬くなってしまうかもしれません。


「え、エイミさん……!は、恥ずかしい、です」

「いくら頑丈になったとはいえ、本当に無茶はしないでくださいね。貴女にはミコトさんを任せる事になるかもしれませんが、ミコトさんを攻撃から庇う事だけが貴女の役割ではありません」

「は、はい」


 サクラが頷いてくれたので、抱きしめていたのを離して解放します。


「エイミさんは優しいな」

「そ、そうなんです!とても優しいんです!」


 ミコトさんとサクラがそう言ってくれますが、どうでしょう。私は自分を優しいなどと思った事がありません。本当に優しいのは、サクラみたいな子の事を言います。私が本当に優しかったら、前の世界で人を殺したりなんかしませんし、外ではツカサさんを殺しています。


「……もたもたとしている場合ではありません。元来た道を戻って、別の道を進みましょう」


 私はその話題に対し、話を変える事で強制的に打ち切りました。

 でも実際、魔物を倒し終えたばかりの私たちですが、休んでいる場合ではありません。もし本当に迷宮化しているのなら、大変な事です。早く攻略し終えるためにも、先へと進まなければいけません。

 2人もそれには賛同してくれて、私たちは歩き出しました。元来た道を戻って、別の道へと進みます。しかしその道も行き止まりで、その先では悲し気な表情を浮かべる魔物と鉢合わせになり、戦闘になりました。別の道も同じで、今度は怒っている魔物と戦闘になり、そして行き止まり。


「はぁ、はぁ……」


 移動して戦闘の繰り返しに、早くもミコトさんの息が上がり始めています。この階層にきてから、どれくらいの時間が経過したでしょう。サクラも、面には出しませんが疲れているのか、その足取りは重そうです。

 それでも、先頭を歩く私から離れないよう、2人とも文句1つ言わずについてきてくれています。2人も分かっているんです。迷宮の攻略法は、歩いて正しい道を導き出すしかありません。このグリムダストには、風の流れも何もありませんからね。先頭を歩く私は、行き止まりの度に紙にメモを取りながら、正しい道を導き出すためのルートを探り続けている。そうしていれば、いつかは次の階層に行く道に辿り着けるはずです。


「……」


 でも、早くも冗談を言える雰囲気ではなくなってしまいました。なごやかな雰囲気はどこかへと行ってしまって、皆必死です。私もですよ。けっこう疲れてきています。


「……ツカサさんは、どうして炎の精霊を怒らせたんですか?」

「ふっ」


 ふと、私はそんな質問を投げかけました。ミコトさんが息を切らし、必死なのは分かっています。せめて雰囲気だけでも作ろうと思い尋ねると、ミコトさんが鼻で笑ってから口を開きました。


「私が精霊魔法を使い終わった時、ツカサは私の周囲を飛んでいる精霊を斬りつけたのだ。私が力を借りるために可視化していた精霊は、その攻撃によって、たぶん死んだ。怒り狂った精霊たちは、私の力を利用してツカサを燃やそうとした。だが私はツカサを守るため、力を押さえて精霊たちの行動を邪魔してしまった。それに怒って、力を貸してくれなくなったんだ」

「どうして彼は精霊を殺したりなんかしたんですか?」

「暑かったから、らしい」

「つくづく生きてる価値のない男ですね。彼の考えは、常人の域ではありません」

「本当に、そう思う」


 彼の悪口を言って笑い合い、ミコトさんに少し元気が戻って来ました。

 疲れているのは変わりないと思いますが、少しでも気が紛れたのなら良かったです。


「精霊から力を借りられなくなり、苦労させられたんだ。それなのにツカサは反省した色を見せるどころか、オレが守るからお前にそんな力は必要ないとか……虫唾が走る台詞を吐いていた。思い出したら殺したくなってきた」


 しかしちょっと話にノリすぎですね。ミコトさんは彼の事を思い出し、恨みの籠もった言葉を呟きました。

 この話題はちょっと失敗だったかもしれません。ミコトさんの傷はまだ全然癒えていないので、出来れば彼の話は避けるべきでした。ツカサさんの事なんでどうでもいいんですけど、ミコトさんの精神状態の事を考えてそう思います。

 とはいえそれまで見えていた疲労の色が、憎悪によって薄くなったのも事実です。コレはコレで彼女の原動力になったようなので、良しとしましょう。


「サクラ、大丈夫ですか?」

「は、はい。私は平気です」


 サクラに声を掛けると、こちらは気丈に笑顔を見せて答えてくれました。

 サクラの背には、私たち3人分の物資が詰められた、大きなリュックが乗っています。戦闘ではミコトさんを庇い、道中は重い荷物を背負っているので休む暇がありません。ちょっと心配で代わりに背負ってあげたいとは思いますが、私が荷物を背負う訳にはいきません。私が荷物を背負っていたら、この3人の戦力の要である私が体力を消耗したり、思うように動けなくなったりしてマイナスの面しかありませんから。

 ここは心を鬼にして、更に先へ……と思いますが、やっぱり心苦しいです。私は足を止めました。


「エイミさん?」

「少し休みましょう」


 先頭を歩く私が止まっては、後ろを歩く2人も止まるしかありません。3人で立ち止まると、私はそう提案しました。


「わ、私はまだ大丈夫ですっ」

「私もだ。ツカサへの憎悪で今ならなんでもできそうな気分だ」


 2人ともそう言ってくれますが、やはり体力の低下は隠せません。先へと進むべきなんでしょうけど、無理をして進んでも戦える状態でなければ意味がない。私は進もうとしたのをやめて、休む方向にチェンジしました。

 しかしそれは私たちの背後から音もなく付いてきていた物のせいで、邪魔される事になります。

 私はそれに気が付いて、すぐに動き出していました。サクラとミコトさんの横を通り過ぎて、最後尾についた私は2人を背にして武器を構えます。


「エイミさん?」

「……敵だ」


 私の行動にサクラは戸惑いますが、ミコトさんは気が付きました。

 私が睨みつけ、ミコトさんが弓を構えたその先の暗がりから近づいて来たのは、魔物です。他と同じように少女の姿をしたその魔物は、無表情のままこちらに歩いてきます。

 普通に考えれば、コレも雑魚の内の1体です。ここまで何体もの彼女を倒して来た私たちにとって、何も慌てる事はありません。でもコレは、表情以外にも何かが他の魔物とは違う。言葉では表現し辛いですが、得体のしれない何かを感じて警戒を強めます。


「炎の精霊よ──」

「待ってください」


 弓を構えたミコトさんが、矢に炎を宿して攻撃を仕掛けようとしています。私はそれを制して止めさせると、歩いて魔物へと近づきます。

 得体が知れないので、下手に攻撃を仕掛けてミコトさんに矛先が向くのが怖いですからね。まずは私が相手をして、相手の出方を見てみる事にしましょう。


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