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炎の矢


 不気味に私に笑いかけてくる、少女の姿の魔物。改めてみると、やはりこの姿はラスティライズさんにそっくりです。

 そのラスティライズさん似の魔物の顔面に、私が手にしている剣が突き刺さりました。


「ふふふ」


 笑いかけながら、塵となる魔物。

 続いて背後から、こちらも不気味に笑っている魔物の剣が襲い掛かって来ました。手を剣の形に変化させたそれの切れ味は、外で目にしているので知っています。

 襲い掛かってくる事は分かっていたので、避けるのは簡単です。私は身体を屈めて頭上を経過する剣をやり過ごすと、身体を反転。振り向きざまに振りぬいた剣によって、襲い掛かって来た魔物の身体を斬りつけました。


「ふふ」


 やはりこちらも、私に対して笑いかけながら塵へと変わっていきます。


「──くっ。やはり、私の弓では効かない……!」


 私の方は順調ですが、ミコトさんは苦戦しています。というか追い詰められていました。

 ミコトさんが放つ、勇者の力によって作られた光の矢は、魔物に対して無力です。矢は魔物にぶつかると霧散し、傷一つ付ける事ができません。それでも素早く動く魔物達に対して命中させられるのは、ミコトさんの弓の腕がいいからでしょう。そこは評価すべきですけど、やはり攻撃が効かなければ意味がありませんね。

 それまでは魔物との距離を取りながら、弓で牽制して動き回っていたミコトさんですが、2体の魔物によって挟まれて逃げ道を失ってしまっています。それに気づいたミコトさんですが、気づくのが遅すぎです。


「あ、ああ……」


 背後から襲い来る魔物に気づきながら、振り返って動きを止めてしまったミコトさんに、それを避ける手段はありません。

 魔物の剣がミコトさんに向かって振り下ろされ、そして真っ二つになろうかという時でした。


「っ!」


 ミコトさんを、剣から庇うように立ちはだかったのはサクラです。サクラの望み通り、剣はミコトさんではなく、サクラに襲い掛かりました。律義にも、荷物が傷つかないように自分の身体を曝け出し、怯える事無く斬りつけられてしまったサクラ……。

 しかし、サクラの身体には傷一つつきません。相変わらずの頑丈さに感心しつつ、私はその隙にミコトさんとサクラに襲い掛かった魔物を斬りつける事に成功しました。

 一瞬にして身体を枯らせて塵となる魔物と、私が駆けつけた事により歓喜の表情を見せるサクラ。


「っ……!」


 呆然として死を待っていただけのミコトさんも、ようやく気を取り直してまだ生きている魔物に向かって弓を構えます。


「そうです。例え攻撃が効かなくとも、止まったら、諦めたら死にます。今までは運良く生き抜いてこられたようですが、ここではそうはいきませんよ」

「……分かった。すまない」


 元気なく返事をするミコトさんですが、やはり連れて来たのは間違いだったでしょうか。これではいつか、死んでしまう気がしてなりません。せめて攻撃が効いてくれさえすればいいのですが、現状戦力どころか足手まといでしかないです。

 オマケにツカサさんの指揮下で戦っていたせいか、戦いに拙さが垣間見えています。それなりに場数は踏んできているんでしょうけど、物足りなさがあふれ出てしまっていますよ。今のだって、ミコトさんには勇者の力が宿っているんですから、咄嗟に動けばあれくらい避けられるでしょう。勿論私基準でそう思うだけですが、それくらい出来てもらわなければ困ります。


「ふふ」


 そこで、魔物達に変化が表れました。彼女たちは私たちを囲んだまま笑いかけると、変化した手の形を元に戻しました。それからまた変化させたかと思えば、それがミコトさんが手にしている弓の形となりました。

 その弓をミコトさんと同じように構えると、光の矢が出現。矢の対象を、私たちに向けて来ます。複数の魔物に囲まれて、四方から弓で狙われている形になりました。


「観察して、学んだ……?」


 これまで、弓の形をした物を手にする者はいませんでした。でも今こうして弓を作った魔物達は、ミコトさんを見て学んだ結果なのかもしれません。

 思えば、最初にグリムダストに突入したミコトさん達は、手を出されず囲まれていたと言っていました。それも観察されていたからであり、ツカサさん達から学ぶべきことを学んでいた?だとしたら、笑ったり泣いたりするのも、人間を真似ているから?……それが当たっているなら、背筋に悪寒が走る程に気持ちが悪いですね。


「私の真似を!?」

「どうやら、そのようです。攻撃に備えてください。サクラは引き続き、ミコトさんをお願いします」

「は、はい!」


 私が指示を出した時でした。私たちを囲んでいた魔物から光の矢が放たれ、それが私たちへと襲い掛かってきます。

 私は私に向かってくる矢に、こちらからも駆けだしながら、間合いに入った瞬間に剣で切り落としました。そのまま駆けて行き、そして矢を放った魔物に向かって剣を振りぬきます。手を弓に変化させていた魔物は、防ぐことも攻撃する事もできず、あっという間に塵となってしまいました。

 一方で、置いて来たサクラとミコトさんも、上手い事やり過ごしています。サクラが盾になって矢を防ぎつつ、ミコトさんはミコトさんで、向かってくる矢を打ち落とすと言う芸当を見せてくれました。


「ところでミコトさん。貴女は確か前に、炎の矢を放っていましたよね。それは使わないんですか?」


 私は一旦戦うのを止めると、ミコトさんに向かってそう尋ねました。

 私が戦うのを止めた所で、魔物達は止まってくれません。弓は効果的ではないと判断したのか、手を弓から剣の形に戻した魔物が、襲い掛かって来ます。

 私は向かってくる剣を、剣で受け止めました。その瞬間に魔物の剣が黒い塵となって腐り落ち、そのままの勢いで魔物の首に向かって振りぬきました。身体から離れた首はすぐに塵となり、身体も後から塵となって消え失せます。


「今聞く事か!?」


 まぁ確かにそうなんですけど、気になったんです。だって私と共に行動していた時は、炎の精霊がどうたらと言って技を繰り出していました。それがよく放っている貫徹弓というのより強いかどうかは分かりませんが、全く使わないと言うのはちょっと違和感を覚えます。

 もしかしたら、彼女達は炎に弱いかもしれないじゃないですか。使えるなら、試すくらいはしてもいいと思うんです。


「気になって戦いに集中できないので、手短にお願いします」

「使えないんだ!ツカサのせいで色々あって、炎の精霊を怒らせてしまって力を貸してくれなくなった!だから無理なんだ!」


 叫ぶように答えながら、ミコトさんは襲い来る魔物の矢を撃ち落としました。本当に、簡潔で手短に教えてくれて助かりましたよ。

 それにしても、炎の精霊を怒らせた……。精霊がどういう存在なのか、私には分かりませんがあまり良い事ではないんでしょうね。


「再び力を借りる事は可能ですか?」

「そんなの分からない!私が力を貸してくれるように頼んでも、彼女達はなにも応えてくれなくなってしまった!だから、彼女達次第だ!」

「彼女……」


 精霊って、女の子なんですね。いえ、確かに精霊と聞くと、女の子が思い浮かぶので不思議ではありません。でも女の子ですか。ちょっと気になりますね。


「わ、悪い事をしたのなら、ちゃんとごめんなさいをしたら赦してくれるんじゃ……」

「そんな単純な事ではないだろう……!」

「いえ、サクラの言う通りです。一度謝ってみたらどうですか?」

「いや、それで力を貸してくれるなら苦労はしない!」

「ものは試しです」

「っ……!」


 戦いに集中できない事にイラだっているのか、ミコトさんの声量が基本大きくなっています。

 炎の精霊に何をしたのかは分かりませんが、やってみなければ分からないのは事実ですよ。まぁミコトさんの言う通り、それで赦してくれるなら苦労はしません。サクラにちょっと忖度して、その意見を応援したくなってしまっただけです。


「──炎の精霊よ!すまなかった!謝るから再び私に力を貸してくれ!」


 ヤケになったミコトさんが、大きな声でそう叫んだ瞬間でした。構えていたミコトさんの矢に、炎が纏って大きな力を発生させました。更に、ミコトさんの周囲に赤い小さな光が飛び回り、それがまるでミコトさんを応援しているようです。

 かつて私が見た事のある、炎の矢を放つ事のできるミコトさんの図が出来上がりました。


「本当に赦してくれた!?」


 驚きの声をあげるミコトさんですが、私も驚いています。

 本当に、赦してくれた……ミコトさんと同じ言葉を、心の中で呟きます。

 精霊さんって、案外単純なんでしょうか。それとも、あまり大したことをされていないとかじゃないですかね。じゃなければ、謝ってすぐにイイヨとはならないでしょう。


「ふふ」


 私たちのやり取りを、面白そうに笑う魔物達。でも彼女たちは別に、面白く笑っている訳ではありません。笑っていても、そこに感情を感じさせる事はない。ただそういう生き物であるだけです。

 そう言えば、今回遭遇した魔物は全員笑っていますね。他の感情を表情に出している魔物は見当たりません。

 その笑っている内の1体が、ミコトさんに向かって光の矢を放ちました。


「っ!」


 反射的に、ミコトさんがその矢に向かって炎の矢を放ちます。勢いよく飛ばされた炎の矢は、通った場所に火の粉を撒きながら魔物へと一直線です。途中で魔物の矢とぶつかりましたが、その矢を霧散させて勢いそのままに、軌道も変わることなく魔物へと飛んでいきます。

 自分に向かってくる炎の矢に対し、魔物がとった行動は防御でした。弓ではない方の手をかざし、その矢を笑いながら掌で受け止めると、ぶつかりあって止まる事になります。


「──爆ぜろ」


 やはりミコトさんの攻撃は通用しないのかと、諦めかけた時でした。ミコトさんが、そう呟きました。

 すると、ミコトさんの言った通り炎の矢が爆ぜました。まっすぐ飛んでいくだけかと思われた矢が爆発した事により、爆発に魔物の手が巻き込まれて破壊。手が砕け散りました。

 魔物は笑いながら砕け散った手を見ていますが、続いて放たれたミコトさんの矢が、その魔物のおでこに命中。直後に爆発し、次は顔面を吹き飛ばす事に成功しました。


「……」


 片手と顔面を失った事により、魔物はその場でややもがいたのちに、やがて膝から崩れ落ちて地面に倒れこみます。そして身体が塵へと化していきました。つまり、魔物を倒した事になります。


「やればできるじゃないですか……」


 私は、炎の力を取り戻したミコトさんを見て呟きました。彼女は満足げにため息を吐いて、魔物を倒した事に誇らしげです。

 さぁ、残りの魔物もこの調子で倒しましょう。私はミコトさんが魔物を倒してくれた事が嬉しくて、足取り軽く魔物へと斬りかかりました。


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