謁見
今、私の目の前で、ヴァンフットさんが床に転がっています。
鼻から血を出して、床で目を回していると言う状況です。周囲は大騒ぎとなり、ガラティアさんは涙を流しながら、ヴァンフットさんに寄り添っています。一体、誰がこんな事を。
答えは、私のずきずきと痛む、右手の拳が知っている事でしょう。
少しだけ、時間を遡ります。
ヴァンフットさんに合流し、ガラティアさんと自己紹介を済ました私は、城内を歩いて手狭な部屋へと通されました。そこで、ソファに座りながらガラティアさんと世間話をして、中々に有意義な時間を過ごす事ができたと思います。
しばらくそこで待たされた後、謁見の間と呼ばれる場所に案内され、そこに国王はいました。
謁見の間の入り口は、巨大な朱色の、観音開きの扉です。それが、男数人がかりで開かれると、中はどこまでも続くような、高い天井。長方形の形をした空間は、左右の天井から日が差し込んで、とても明るいです。入り口から、道を示すように敷かれた、長いレッドカーペットの先に、階段を数段上がって高くなった床があります。その高くなった床の上には、立派なイスが置かれていて、そのイスに、国王が座って、私を見下ろしていました。
長く、白い顎髭を蓄え、目つきは鋭く、その見た目には風格があります。全身を、金色の刺繍の施された、白を基調とした服を着ていて、まさに王と呼ばれるに相応しき派手さです。その見た目だけで、この人がタダ者ではない事が、分かります。
ヴァンフットさんとガラティアさんに続いてカーペットを歩いて行くと、私の前を歩く2人は、国王の膝元にやって来たところで、跪いて止まりました。
「……エイミさん。同じように、してください」
私は、私自身が認めた人以外に、跪いたりはしたくありません。ましてや、相手が男では、尚更跪きたくないですね。
だから、ヴァンフットさんの言葉を、私は無視しました。プライドとかではなく、ただそうしたくないので、する必要がないかと。それにこの人たちは、私にお願いをする立場であり、私がこの人を敬う理由が、全く見つかりません。むしろ、私を敬って跪いてほしいくらいです。
「国王様に対して、なんと無礼な……!」
国王の膝元にいる、白銀の鎧を見に纏った兵士が、私に向かって手にした槍先を向けて来ます。他にも、この通路のレッドカーペットから逸れて、大勢の男がいましたが、彼らも便乗し、私に向かって怒鳴りつけてきています。
うるさい連中です。あまりにうるさくて、私は耳を塞ぎました。
「──よくぞ、参った。勇者、桐山 エイミ」
国王が、口を開きました。名前に関しては、ヴァンフットさんが既に教えていたのだと思われます。
国王が口を開いたことにより、周囲のうるさかった連中は、口を閉ざしました。さすがに、国王の言葉を遮る気概は、ないようです。
「我が息子……ヴァンフットから聞き及んでいるかもしれんが、今この国は、危機に瀕している。異世界からの勇者殿に頼らなければいけない程に、疲弊しているのだ」
「魔物、ですね」
「いかにも。国中で、突如としてその姿を現わす、迷宮。我らは、グリムダストと呼んでいる。そのグリムダスト最深部にある、タナトスの宝珠を回収しなければ、迷宮はその場に根付き、魔物が溢れる、人の住めぬ大地となってしまう。我が国は、グリムダストにより、その国土の半数近くを、既に失っている。勇者、桐山 エイミ殿。どうか、この国を救う、手助けをしてはくれまいか」
「はい。でなければ、私の命が脅かされるようですので、受け入れるしかありませんよね」
私がそう言うと、国王はヴァンフットさんの方を睨みつけました。跪いているヴァンフットさんは、国王のその行動を、目で見た訳ではありません。でも、身体を一瞬震わせました。
どうやら、言ったらいけない事だったようです。
「受け入れるのであれば、我らは貴殿を、歓迎する。そなたはこれより、我が国の勇者として、グリムダストの攻略に勤しんでもらいたい。そのための、富と名声は、約束されている。また、それに際して、貴殿に武具を贈呈したい。贈呈する武器の種類について、何か希望があれば、聞こう」
「ちなみに、この世界の武器と言うと、何があるのでしょうか」
「剣。槍。鎌。大剣。大斧。片手斧や、投げ斧に、弓や魔法の杖が、武器と呼ばれる物になる。他にも武器と呼ばれる物はあるが、提供できる武器は、この中から選んでもらう事になる」
銃があれば面白そうだと思いましたが、まぁありませんよね。
「では、剣で」
私は、一番オーソドックスと思われる物を、選びました。
「召喚されし勇者は、皆一様に、何かの能力を授かり召喚される。貴殿の能力は、剣によって引き出せる物なのだな?」
つまり、他に召喚された勇者も、私と同じように、ラスティライズさんから転生特典なる物を受け取っている、という事ですか。
「はい」
正直な所、まだ能力は試していないので、枯凋がどうすれば発動して、どうすれば活きるのか、全く分かりません。それはおいおい確かめるとして、とりあえずは武器として、剣を持っておけばいいでしょう。
すると、国王が座るイスの裏にある、暗幕の向こうで待機していた人物が、剣を持って姿を現わしました。腰を低くしながら国王の前にやってくると、布に包まれていた剣の封を解き、中に入っていた剣を、国王に手渡します。
それは、赤色の鞘に納められた剣でした。刃渡りは、およそ1メートル程です。若干細く見えますが、レイピア程細い訳ではなく、程よく細くて、か弱い私でも振り回せそうな程に、見た目は軽そうです。
「聖剣、レクスカウル。かつて、勇者としての役目を終えた者が、鍛冶師へと身を転じて作った剣だ。勇者の力を籠めて作られたこの剣の切れ味は、驚くほどになめらかに斬れる。また、籠められた魔力は、使用者の力を最大限にまで高める能力を、持っている。コレを使い、グリムダストを攻略し、タナトスの宝珠を持ち帰るのだ。……こちらに来るが良い」
私は、国王に促されて壇上にあがり、その剣を受け取ります。持ってみると、とても軽くて、扱いやすそうだなと思いました。後は切れ味を確かめる必要がありますが、それは今でなくともいいでしょう。この場で剣を抜いたりしたら、周りに何と言われるか分かりませんからね。




