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繋がり


 サクラとツカサさん達に、繋がりがあったのは驚きです。ツカサさん達は、サクラの事を前の世界から目にも留めずにいたのでしょう。でもまぁ、クラスが違ければ、知らなかったというのもまだ理解できます。自己主張の小さなサクラの事ですから、その事をツカサさん達に話すのもだるかったのでしょう。それに、相手が自分の事を知らないのなら、わざわざ知らせる必要もありません。

 でも気になるのは、同じ学校の級友とはいえ、繋がりのないサクラとツカサさん達が、どうしてこの世界へとやってくる事になったのか、ですね。同じ世界から、級友が4人も同時にこの世界に召喚されるなんて、繋がりがなければあり得ない事です。


「という訳で、サクラはどうして死んだんですか?」

「ど、どういう訳ですか……?」


 私とサクラは、隣り合って岩を背に地面に座り込み、休憩中です。サクラは泣いて疲れた様子だったので、そのまま次の階へ行きましょうとは言えませんでした。階層も、丁度キリの良い10を数えた所でしたので、小休止にはいいタイミングです。


「私は死んで、色々あって気づけばこの世界にいました。貴女も死んだんですよね?」

「は、はい」

「死んで、ツカサさん達と同時にこの世界にやってきたんでしょう?貴女の事を覚えてもいない人たちとこの世界にやってくるのは、何か理由があるのでは……と思いまして」

「……たぶん、私とツカサさん達は、同時に死んでいます。前の世界で、学校の修繕工事の足場が地震で崩れてしまい、それに巻き込まれてしまったんです。最後に見たのは、空から降ってくるたくさんの鉄の塊でした。そして気づけば、この世界にいたんです。ツカサさん達も、一緒だと思います。あの場には、他の生徒もいましたから」


 同時に死んで、この世界にやってきた……。

 話した事がなくとも、偶然同じ場所で死んだと言う繋がりがあるという訳ですね。


「そうだったんですね。死ぬのは、どんな感じでしたか?」

「分かりません……。本当に、気づいたらこの世界にいて、何の実感もないんです。ただ不思議と、死んだと言う事はハッキリ分かります。死ぬって、不思議な感じですね」


 恐らく、即死だったのでしょう。でも、死んだと言う感触が分かると言うのは、興味深いです。私はしっかりと、最期まで自分の死を感じて死んだので、その不思議な感じというのを味わえませんでしたから。


「──エイミさんは、どうして死んでしまったんですか?」


 そうなりますよね。サクラにだけ言わせて、私が自分の事を話さないのは、不公平です。だから、答えなければいけません。

 私は話しました。私が前の世界で犯した罪。クラスメイト達を殺した挙句に、銃で殺されたと言う話を。それから、みーちゃんの事も話しました。私の、大切な友人。それとサクラを重ねて見て、サクラという存在をハッキリと見る事が出来ていなかった事。


「──私に関しては、こんな感じですね。ごめんなさい、サクラ。私は、勝手に貴女とみーちゃんを重ねて、サクラの事をちゃんと見ようとしていなかった。もしかしたら、みーちゃんもこの世界に来ていて、サクラがそのみーちゃんの生まれ変わりだったらいいなとか、そんな妄想を抱いていたんです。違うと分かっていたはずなのに、それでも希望は捨てられず、サクラに対して一歩踏み込むことができませんでした」

「……」


 話し終わると、隣に座っているサクラがそっと、私の手に手を重ねて来ました。サクラの方を見ると、悲しいような、嬉しそうなような、ちょっと怒っているような、複雑そうな表情を浮かべています。


「……エイミさんは、もっと輝いた人生を送っていたのかなと、勝手な事を思っていました。私なんかと違ってキレイだし、異性からモテてお付き合いをしたり、お友達からは頼られる存在で、クラスの人気者だったのかなとか……でも、違ったんですね。失礼かもしれませんが、ちょっと安心しました」

「安心?」

「はい。私の妄想通りのエイミさんと私とでは、不釣り合いに思えて……でも、それなら大丈夫!釣り合います!私も周囲から虐められていましたから!」


 私を安心させるように自信満々に言うサクラですが、分かっているんでしょうか。とても情けない事を言っています。


「釣り合うとか、そんな事を考える必要はありませんよ……。でも、ありがとう。私たち、似た者同士ですね」

「はい!……それから、みーちゃんさんについては、残念でしたね。すみません、私がみーちゃんさんだったら良かったのに」

「全然よくありません。サクラはサクラ。みーちゃんはみーちゃんです。あまり私を虐めないでください。興奮してしまいますから」

「い、虐めてるつもりはないです。でも、光栄です。エイミさんにとって、大切なお友達と私を重ねてくれていたんですね」

「……怒ってないんですか?それに、私は大勢を殺したんです。気持ち悪く思ったり、軽蔑したりはしませんか?」

「怒ってないです。気持ち悪くなんて思いませんし、軽蔑もしません。エイミさんがした事は、裁かれるべき事かもしれませんが、正義があります。……でも、ちょっと相手の方が可愛そうなような……い、いえ、エイミさんと、みーちゃんさんのほうがもっと可愛そうですよ?酷い方々です!」


 そう言って片手で拳を作り、怒るような仕草を見せるサクラですけど、たぶん優しいこの子の事だから、同情せずにはいられないのでしょう。私には出来ない事です。出来る事なら、もう一度彼女たちを殺したいとすら考えていますからね。


「でも、エイミさんは強いですね。私は虐められて、とても辛かったです。虐められている人を見るのは、もっと辛くて悲しかった……」

「……」


 私はかつて、みーちゃんに言われた台詞を思い出しました。


『強いなぁ、エイミちゃんは。私は虐められてる人を見ると、可愛そうになっちゃうの。……虐められてる人じゃなくて、虐めてる方が。あまりにも醜くて、それに気づけないのが本当に可愛そう。でもいつかきっと、彼女たちも気づく日が来るはずだよ。その時は自分のあまりの醜さに、卒倒しちゃうかも。それに比べてエイミちゃんは可愛いし、偉いね。よしよし』


 そう言って、みーちゃんは優しく私の頭を撫でてくれました。マゾっ気のある私ですが、優しくされるのも嫌いではありません。その心地良さは、今でも覚えています。

 サクラとみーちゃんは、違う。サクラは、サクラ。みーちゃんは、みーちゃん。分かり切っていた事ですが、希望的な事しか考えられなくなる事なんて、よくあります。とはいえ、まさか自分がそうなってしまうとは、驚きです。こうして吹っ切れた今思うと、どうしてもっと早くサクラの名前を聞き出さなかったのかと、後悔の念しか出て来ません。

 サクラ……素敵な名前ですよね。益々気に入りました。もっと早く、その名前で呼んであげたかった。そして、この子の不安な想いや、悩みをもっとよく聞いてあげるべきでした。過去に触れるのが怖くて、それすらを避けていた自分を呪います。


「──エイミさん!後ろから二匹、来ます!」

「っ!」


 考え事は、後です。休憩を終えた私とサクラは、更に先へと進んでいます。

 今私の周囲には人面犬がたくさんいて、それらが私に向かって襲い掛かってきている所です。鋭い牙は持っていない彼らですが、岩くらいなら簡単にかみ砕く顎の力を持っていて、更に手足には鋭い爪を持っています。力のある彼らから、一撃でもくらったら大怪我は必死です。集中しなければいけません。


「はぁ!」


 私はサクラの忠告を聞くや否や、後ろを見る事なく身体を反転。剣を振りぬきました。

 捉えた──。

 でも、切り裂いた感触は、一匹だけ。その一匹は、私の能力によって一瞬にして腐り落ち、灰となって消えました。

 もう一匹は、どこに?考える必要もありませんでした。私の足元に小型のそれがいて、私を見上げています。


「くっ……!」


 小型の人面犬が、私の足に噛みつきました。しっかりと脛当てを装着していたのに、人面犬はいともたやすく脛当てをかみ砕くと、私の足に食らいつきました。

 痛みが、私を襲います。人のような歯が私の足に食い込み、血が出る感覚がある。このままでは、私の骨もろともかみ砕かれて、私は足を失ってしまう。

 でも、そうはなりません。私の肌に触れた時点で、この子は終わっています。


「オガッ……アッ……」


 私の足にかみついた人面犬の顎が、突如として腐り、地面に落ちました。何が起こっているのかも分からないと言った様子のまま、全身が腐って行く人面犬は死に、灰に変わりました。


「エイミさん!」


 私は軽症です。血は出ていますが、大した怪我ではありません。

 続いて噛みつこうとして来た大型の人面犬を剣で斬りつけ、攻撃を退ける事にも成功しています。

 だけど何匹かの人面犬が、私に声を掛けたサクラの方へと意識を向けてしまいました。私が戦っている時は、敵の意識が向かないように基本的におとなしくしているサクラですが、私に助言するために叫んでしまった結果です。


「っ……!」


 それに気づいたサクラが、身構えました。

 サクラと私は、まぁまぁ離れた場所に位置しています。距離的にはここからすぐに駆け付ける事は可能ですが、それには私を包囲している人面犬達を倒す必要があり、時間を要します。


「サクラ!プランDです!」


 私の指示を聞いたサクラは、荷物として背負っていた大きなリュックを脱ぎ捨てると、迷いなく駆けだしました。

 同時にサクラに意識を向けた人面犬達も駆け出し、サクラを追いかけだします。今すぐ援軍に向かいたい所ですが、そちらにばかり意識を向けてはいられません。私の周りの人面犬が、一斉に私に向かって襲い掛かって来たからです。


「──すぅ」


 私は息を吸い込み、そして止めます。

 そして全神経を研ぎ澄まし、私に襲い掛かって来た人面犬達を最速で倒す道筋を作り出しました。


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