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私、異世界に来てまで虐められています  作者: あめふる
1章 転生先の世界と、きっかけ
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召喚


 次に目を開くと、私は大勢の黒いローブを羽織った男たちに、囲まれていました。

 場所は薄暗く、石でできた建物の、不気味な場所です。周囲には、何本もの石の柱が立ち並び、天井を支えています。ただ広いだけの空間の中で、私は何かの儀式に使われるような、石の祭壇の上に立っています。

 その祭壇の下で、男たちが私を見上げて何やら騒いでいるのですが、声が聞き取れません。私を囲う光の壁が、声を遮断しているようです。が、その光の壁も、やがてその姿を消していき、収まりました。


「おお!成功だ!新たな勇者様の召喚に成功したぞ!」


 光が収まると、彼らはそんな事を口にしていました。

 まず、欧米風な顔つきの彼らの言葉が、私の耳に、私のよく知る言語で入って来た事に、驚きます。言葉が通じる事に、大きな安心感を覚えましたが、違和感の方が大きいですね。

 そんな彼らが騒いている、勇者の召喚という言葉が、気になります。勇者の召喚……それは、ラスティライズさんの言っていた通り、私は勇者として、召喚されたという事でしょうか。

 いえ、そもそも、私は本当に転生したと言う事になるのでしょうか。それともここは、まだ夢の途中?いずれにせよ、まだ確信はありません。


「美しい……!」


 考え事をしていると、祭壇に上がってくる、一人の男性がいました。

 美しい金髪をオールバックにした、背の高い男性です。体格は、どちらかというと、ほっそりですね。鋭い目つきでありながら、ニコリと笑って見せるその笑顔は、さぞかしモテそうです。

 白銀の鎧に身を包んだ、そんな彼の腰には、宝石の散りばめられた、剣が差してあります。

 武器を持つ者が近づいて来た事により、私は警戒し、後ろへと引き下がると、彼はその歩みを止めました。


「し、失礼しました、勇者様。私は、貴女の敵ではありません。女性に対し、ご無礼にもいきなり近づくなんて、警戒されて当然ですよね」


 そう言って、平謝りをしながら笑いかけてくる彼は、本当に、鬱陶しいくらいのイケメンです。

 当然ですが、私の好みではありません。私の好みは、美しく、汚れを知らない、気高き乙女です。有体に言って、女の子が好きなので、だから男には興味がないんです。


「ええ、本当に、礼儀がなっていないようですね。私は丸腰で、貴方は武器を持っている。そんな方に近づかれたら、怖くて震えてしまうのは、当然です。もう少し、気を使ってください」

「申し訳ございませんでした、勇者様。ご無礼を、重ねてお詫び申し上げます」


 胸に手を当て、頭を私に向かって下げてくる彼は、果たして本当に、私に謝る気があるのでしょうか。だって、顔が笑ったままですからね。

 しかし、こういう低姿勢な態度は、好感が持てます。顔が笑ったままなのは、それほどの事をしていないから、という事にしておきましょう。

 それにしても、胡散臭い笑顔です。裏に、何かを隠し持っている事が、手に取るように分かります。

 しかし、裏を隠して、表面上だけでもしっかりとする事は、大切です。表面も、内面も汚れてしまっていたら、それはもう、救いようのないゴミでしかありませんからね。


「無礼な!こちらの方は、我がエリュシアル王国第一王子である、ヴァンフット・アルザタール・エリュシアル様であられるぞ!」


 黒いフードを被った男の一人が、私に向かい、そう怒鳴りつけて来ました。


「王子……」


 王子と聞くと、絵本やファンタジー小説の王子様が、頭に浮かびます。この男が、その王子ですか。

 確かに、見た目だけは、よく聞く王子像に相応しきイケメンです。


「たとえ勇者と言えど──」


 祭壇に上がって来た、黒いフードの男が、凄い剣幕で私に近寄ってきます。相当お怒りのようで、腰につけた剣を、抜かんとするばかりの勢いです。


「──え?どうして、彼女に近づこうとするの?」


 王子の横を通り過ぎて、私に近づこうとしたその男を、王子は呼び止めました。相変わらず、ニコニコと笑ってはいますが、その言葉には僅かながらの、怒気が籠められています。

 その言葉を聞き、黒いフードの男は、その歩みを止めました。


「ば、ヴァンフット王子様に、無礼な態度をとった勇者に謝罪をさせようと……」

「いらないよ。余計な事はしないで。それより、たった今彼女が言ったばかりじゃないか。丸腰の女の子に、武器を持った男がそんな怖い顔をして近づいたら、怖いでしょ」

「しかし……!」

「口答え、するの?君って、そんなに偉い人だったんだね。ボク、知らなかったよ」

「も、申し訳ございません……!」

「もういいよ。分かったのなら、下がって」


 ため息交じりに、笑顔のままそういう王子様の笑顔は、とても冷たい笑顔でした。やはり、その笑顔の下には、何か別の顔がありそうです。

 そんな王子の命令通り、黒いフードの男が、上がろうとしていた祭壇から、慌てて去っていきました。

 周囲は、現れた私を見てお祭り騒ぎだったのが、嘘のように静まり返ります。去って行った、黒いフードの男のせいで、不機嫌になったこの、王子様の影響ですね。


「さて、勇者様。とりあえず、お名前をお聞かせ願えますでしょうか。私は、先ほどの無礼な者が言っていた通りですが……もう一度、自分の口から自己紹介をさせていただきますね。ヴァンフット・アルザタール・エリュシアルと申します。一応は、この国の王子です」


 王子様は、不機嫌な態度を振り退けて、私に甘い笑顔を向け、自己紹介をしてきました。

 とりあえずは、歓迎してくれているようですし、警戒をする必要はなさそうですね。


「……桐山 エイミと申します」

「エイミさん……。エイミさん、ですか。なんて、美しい名前なんだ」


 ナンパの、常套句ですか。虫唾が走るような事を言ってくる王子様に、私は苛立ちを隠せません。キッと睨みつけますが、王子様は笑顔で返すだけで、私の苛立ちを察した様子はありませんでした。


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