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赦せないもの


 てっきり私は、ナナシさんは国王が何をしようとしているのか、その目的を知っているものだとばかり思っていました。だからナナシさんの答えに、落胆とまではいきませんが私はついため息を吐いてしまいました。

 ため息を吐きつつ、私はナナシさんと対面するようにイスを置き、そこに腰を下ろしました。


「ご、ごめ、んなさい……!でも本当に知らなくて、私は……」

「良いんですよ。知らないのなら、知らないと答えてくれた方が助かります。では質問を変えますが、貴女が持っている能力はなんですか?」

「か、観察の力を持っています。例えば魔物の弱点や、目に見た物をどうやって使うのかとか……場合によっては時間がかかりますが、そういう事が分かります」


 あまりにも呆気なく教えてくれた彼女に、私は呆れてしまいました。それだけ私を信用してくれているという事でしょうけど、もう少し慎重になってもらいたいものです。

 でもその力のおかげで、隠し扉の場所や、ムカデの魔物の弱点も分かったと言う事ですね。納得です。


「ではその力で、タナトスの宝珠を使って何ができるかも分かるんですね?」

「──はい」


 静かに頷いたナナシさんは、しっかりとそう答えてくれました。


「では、それを教えてください」

「……タナトスの宝珠は、魂を食べます。この世界で死んでしまった人々の魂は、近くにあるタナトスの宝珠に引き寄せられ、食べられて、それがある一定まで貯まるとグリムダストを生み出します」


 それは、本にも書いてあったので知っていた事です。ただ、ナナシさんが私と同じ本を読んだとは思えないので、恐らくナナシさんは自分の目で見た結果を私に話してくれていると思われます。


「ええ、そうですね。ではもしそれをたくさん集めたら、何が起こりますか?」

「っ!」


 ナナシさんは、私の質問に驚いたようです。何故分かったんだと言いたげですが、そこには突っ込んでは来ませんでした。

 そして目を見開き、そして大きく頷きます。


「た、タナトスの宝珠は一つ一つはとても小さいけど、アレはくっついて一つにする事ができるんです」


 確かに、宝石と言う割にぷにぷにとしていて、スライムのようにくっつきそうではあります。まだ2つ以上のタナトスの宝珠を手にした事がないので、実践はした事はないけどくっつくんですね。ちょっとやってみたいです。


「大きくなったタナトスの宝珠は、更に多くの魂を食べて成長し続け、もしそんな状態でグリムダストが出現してしまったら、この世界は魔物で溢れてもう人の暮らせる地ではなくなってしまいます」

「大きくなった分、魂の吸収力もグリムダストの規模も、大きくなるという事ですね」

「はい。そしてその大きくなったタナトスの宝珠が、このお城の地下にあります。それはツカサさん達が持ち帰ったタナトスの宝珠によって、どんどん大きくなってしまっているんですっ」

「隠し場所は、このお城の中でしたか……」


 さりげなくナナシさんが教えてくれましたが、隠し場所はこのお城の地下だったようです。ちょっと意外でした。もっと分かりにくく、遠い場所に隠しているものだと思っていたのに……意表を突かれましたね。でもこのお城の中にあると分かれば、苦労せずに探せそうですね。

 あと、絶対に壊したりはしていないとは思っていましたが、集めて大きくして何かをたくらんでいたんですね。残念ながら大きくして何をしようとしていたのか、ナナシさんには分からないようですけど、充分な情報です。さすがは、観察の力を持っているナナシさんですね。

 ちなみに観察の力は、他にも相手の持つ能力や、鑑定の力もあったはずです。つまりは私の能力も視られてしまっているという訳で、だから彼女は私の力を見ても、何も驚いたりはしなかったんですね。

 ラスティライズさんに見せてもらった転生特典一覧にもあった力ですが、戦闘能力に全く関係がないので、便利そうだけど残念ながら私の候補には一切あがらなかった能力です。


「こ、国王、様を止めないと……!この国が……世界が、大変な事になります。エイミ……様。どうか、国王様を止めて、助けてあげてください……!」

「……」


 恐らく、国王を殺そうとしたというのは、誇張された情報なのでしょう。彼女が人を殺そうとするとは思えません。その事を国王に話して、邪魔になりそうだから排除された。そう考えれば、納得です。


「……貴女の力の事を、国王やツカサさん達は知らないのですか?」

「し、知っています。だけど、役にたたない力だと言われました……」

「国王やツカサさんは、貴女の力の事を知っておきながら、貴女がもたらした情報を信じずに貴女を奴隷化。文字や言葉で意思を伝える事がきでなくした上に、勇者達の荷物を運ぶためだけに危険な地に連れていかれ、その拒否権もない状況に陥れられた。それなのに貴女は、国王を止めてこの国を。この世界を救おうと考えるのですか?」

「はい」


 私は一気に、ナナシさんという人物が分からなくなってしまいました。

 この子はこの世界に、全くいい思い出がないはずです。自分の能力を否定され、言葉を信じてもらえず、気づけば奴隷になって危険な地に連れていかれる毎日。一緒にこの世界に飛ばされた仲間となるべき者達には、荷物持ちやその他雑用としてこき使われ、怒鳴られる。この世界を救いたいと思える要素が、どこにもないと思うんですけど……。

 ちなみに私には、この世界を救いたいと思える要素があります。タニャやレイチェルに、テレット村の方々には生きて欲しいと思いますし、そのためなら命を張る覚悟もあります。


「……分かりました。私も協力させていただきます」


 本当は、何も分かっていません。だけど私とナナシさんは、目的が一致しています。とても優しい方のようですし、それに可愛いので、共に行動をしても私に損は全くありません。


「でもそれには、時間とタイミングが必要です。もうしばらく貴女には奴隷として過ごしてもらいつつ、私の言う通りに動いてもらいます」

「ど、奴隷として……」

「はい。できますか?」

「……できます。でも、首輪が」

「それなら問題ありません。先ほども見せたコレが、貴女の自由を奪っていた物の代わりです。なんの効力ももたないただの首輪ですが、前の首輪と瓜二つで見かけは全く同じです。貴女にはこの首輪を付けて行動してもらい、今まで通りに過ごしてもらいます」

「……」


 ナナシさんは私が見せた首輪を見て、解放されたばかりの喉をならしました。今からその細い首に、私の首輪をつけると思うとちょっと興奮しますね。逆に私につけたりしてもらうのも、とてもいいかもしれません。凄く、良いです。


「わ、分かりました。エイミ様の言う通りに、します」

「ありがとう。それじゃあ早速──」


 はやる気持ちが抑えられなくて、イスを立ち上がった私は早速ナナシさんの首に新たな首輪を装着させようとしましたが、その手をナナシさんが軽く握って押さえて来ました。


「私のような者に、優しくしてくださってありがとうございました。私、絶対にエイミ様の役にたってみせます。だからどうか……捨てないで」

「はぁ……。捨てたりなんか、しません。貴女のこの世界を救いたいと言う望みは、私ができるだけ叶えてあげます。でも一つだけ、覚えていてください。私は自分で言うのもなんですが、意地悪でひねくれていて、でも虐められるのが好きなマゾ気質ですが、私の物を傷つけられたら一瞬でキレて何をしでかすか分かりません。心は黒く染まっていて、前の世界では大勢を殺した事もあります。もしかしたら目的に至る過程で、気に入らない者を殺したり痛めつけたりするかもしれません。貴女の目の前で、貴女が卒倒してしまうような事も、するかもしれませんね」


 前世で犯した罪も、ナナシさんになら知ってもらっていいでしょう。それらを知ったうえで、ナナシさんには私に付いてきて欲しいです。もしここで私に付いてこれないと言うのなら、それはそれで構いません。残念ですが、ここでお別れです。


「それでも貴女は私に、ついてきますか?」

「──はい」


 返事は、ハッキリとした物でした。しかし即答ですか……。この子はもう少し、ちゃんと考えてから言った方が良いと思います。でもこの向こう見ずな所も私の大切なお友達に似ていて、惹かれるものを感じてしまいます。

 その返事を聞いてから、私は首輪を持っていた手を動かし、ナナシさんの首にゆっくりと装着しました。カギはないので、首に回してからオスとメスになっている金具を止めて、装着は完了です。


 首輪を装着された少女が、私に優しく笑いかけます。首輪を装着され、普通は不安に駆られるところを、この子は安心したように息を吐き、笑顔を見せてくれたのです。

 私はその笑顔に応えるように、そっと小さな頭に手を乗せました。

 手を乗せながら、こんな良い子を辛い目に合わせた国王に対する恨みを募らせます。世界は救う。それは良いです。でも赦せないものもある。中でも国王は、その筆頭にあります。他にも何名かの候補があり、私はそれらを赦す事はないでしょう。

 ……その時彼らは、どんな顔をするのでしょうか。今から楽しみで、私はナナシさんにばれないよう、密かに笑いました。


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