金色の光の雨
戦いを終えた私は、早速タナトスの宝珠を包み込んでいる木の方へとやってきました。周囲には水が流れているのですが、濡れたくないのでその水を避けるようにして、木の幹を伝って歩み寄ります。
慣れたもので、それはすぐに発見しました。ツタの間をかきわけて手を突っ込み、引っ張り出したのは金色の宝石──タナトスの宝珠です。
私がそれを手にした事により、グリムダストの崩壊が始まりました。建物が崩れ落ちて、崩れた物がタナトスの宝珠のあったこの空間の天井へと、吸い込まれて行きます。
「お疲れ様でした、ナナシさん。おかげであの化け物の弱点が分かって、助かりました」
タナトスの宝珠を回収した私は、そう声を掛けながらナナシさんの方へと歩み寄ります。
口ではそう言いましたが、本当は察していましたけどね。でも、危険を顧みずに一生懸命教えてくれたナナシさんの行動には感謝です。
正直言うと、動きを封じられて危なげなかった気もしますが……悪気があった訳ではないようなので、まぁいいでしょう。
「……」
私がお礼を言うと、ペコペコと頭を下げてくるナナシさんですが、感謝しているのはこちらなのにおかしな話です。
そんな私たちの足元に、白く輝く紋章が浮かび上がると、身体が浮かび上がりました。グリムダストが崩壊するので、異物である私たちは外へと放り出されます。その前兆ですね。
目を少しだけ閉じて、開くと次の瞬間にはグリムダストの発生していた地の真ん中に立っていました。
「ふぅ」
全てをやり終えて、若干の疲れを感じます。
でも、感じていたストレスを暴れる事によって消化できて、少しは良かったかなという感じです。
ちなみに今回グリムダストが発生していた地は、金持ち貴族の別荘地です。広大な土地に、整備された道や真新しい建物。お金を賭けるお店に、闘技場や夜のエッチなお店に、温泉等々。娯楽施設が充実した、お金持ちだけが住める町のようで住んでいる人々は皆裕福そうな格好をしていました。
彼らとは入れ違いで町に入り、裕福そうな連中は逃げていきましたよ。グリムダストを攻略したら戻るとかぬかしていました。いいですね。この地に未練もなく、他に行くあてのあるお金持ちは。どこかの村の方々とは大違いです。
でも勿論この町にいるのは裕福な方だけではありません。お店で働いている方は、中流階級の方です。でも夜のお店で働く女の子は奴隷身分の方が多いようでしたね。例外として、そんな方々は町から逃げる事も許されず、霧に包まれながら不安の中過ごして私たちを出迎えてくれました。
そんな奴隷の女の子達は、無理やり金持ちの相手をさせられているようにしか思えませんが、私でも相手をしてもらえるのでしょうか。ちょっと私の信義に反するところですが、羨ましいなと思ってしまいます。
「──エイミさん!コレは一体どういう事だ!」
一緒に町に降り立ったツカサさんが、私を怒鳴りつけて来ました。
傍にはイズミさんとミコトさんもいます。3人とも寝ていましたが、グリムダストが崩壊する前に起きたようですね。
「皆さんお疲れのご様子でしたので、先行してタナトスの宝珠を回収しておきました」
「っ……!」
私は悪びれる事もなく、笑顔でそう言うとツカサさんが私の胸倉を掴み取ってきました。
女性に対して、してもいい行動ではありませんね。その手を腐らせてあげようかと思いましたが、我慢します。
「勝手な行動をして、チームワークを乱す事は許されない!貴女のとった行動は、仲間たちに対する冒涜だ!」
「冒涜するつもりはありません。チームワークに関しては、私達が眠る前の言い争いを思い返してください。あんな言い争いをしておいて、チームワークだなんてよく言えたものですね。それからもう一度聞きますが、貴方が持っている能力はなんですか?それを今この場で教えてください」
「そ、それは……!剣の能力だ!オレは剣の能力しか持っていない!」
分かりやすく狼狽したツカサさんが、私の胸倉から手を離してくれました。
そして、本題を差し置いて自分の能力について真っ先に否定するあたり、やはり言いたくないものがあるようですね。
「エイミさん。勝手な行動は、困ります。今回は上手くいったからいいものの、次はない物と思ったほうがいいでしょう。私たちの命は、たった一つしかないのです。それを踏まえたうえで行動すべきです」
「ええ、その通りですね、ごめんなさいイズミさん」
続いて私を責めて来たイズミさんに対しては、素直に謝罪しました。でもイズミさんは、ツカサさんと違って本気で怒っているようではないみたいです。戦わなずに済んで、ラッキーとでも思っているのでしょう。ツカサさんもそれくらいに思ってくれればいいのに、面倒な男です。
「しかし、どうしてこんな事をしたんだ。たった一人で最終層に入るなんて、本当に危険な事だぞ」
「先ほども言った通り、皆さんお疲れのご様子でしたので先行させていただきました」
ミコトさんも、大して怒った様子ではありません。何事もなく、寝ていたらグリムダストの攻略が終わっていたんですから、怒る要素は少ないですよね。
ただ、チームワークを乱したのは確かです。その部分であれば、責められる要素はあると思います。ただし、ツカサさんに怒られると逆ギレしてしまいそうなので、できればミコトさんに叱って欲しいです。鞭とか持って、お尻を叩きつけながら叱るのとかどうでしょうか。
「……まぁいい。今回はたまたま上手くいったようだし、今はこの件について不問としてやる。それじゃあ、タナトスの宝珠を渡してくれ」
「嫌です」
ツカサさんの要求に、私は即答しました。
「まさか、手柄を独り占めするつもりか!?グリムダストを攻略したのは、オレたち全員だぞ!ああ、全部分かった。最後の最後だけ抜け駆けをして回収したタナトスの宝珠を、自分だけの物として国王様に差し出すつもりだな!?」
「はぁ……」
うるさい男です。思わずため息が出てしまうくらい、被害妄想が強いですね。
「残念ながら、そんなつもりはありません。私は全員の力でこのグリムダストを攻略したと思っていますし、抜け駆けをしようだなんて思った事もありません」
「ではどうして渡さない!」
「だって、渡したら貴方は国王にコレを渡すまで、絶対に手放さないじゃないですか」
私は手に持ったタナトスの宝珠をツカサさんに見せつけながら、言いました。
まるで、目の前におやつをちらつかされる犬の様に、ツカサさんの視線はタナトスの宝珠を持つ私の手に向いています。
「そ、それは当然だ!それを国王様に渡すまで、オレ達の仕事は終わらないんだからな!」
「ええ、そうですね。でも国王に渡したって、国王はこれを壊すだけなのでしょう?皆さんもお聞きください!私が手に持っているこの金色に輝く宝石こそが、グリムダストの元凶──タナトスの宝珠です!」
私は手にしているタナトスの宝珠を、高く掲げて叫びました。周囲には、霧が晴れた事により外に出て来た奴隷の女の子や、兵士も大勢集まってきています。
言い争いをする勇者を前に、グリムダストが消えた喜びを隠して私たちに話しかけるのを戸惑っていましたが、充分な人数が集まっています。
「あ、あれがタナトスの宝珠……!」
ギャラリーは、初めてタナトスの宝珠を目にした方ばかりのようです。ざわめきが生まれ、皆がこの世界を苦しめる物を前にして緊張しています。
私は手にしたその宝石を、空に向かって投げ捨てました。
「んなっ!?」
その行動を見て、ツカサさんが慌てて目で追い、落下点に入ります。だけど無駄です。空に舞い上がったタナトスの宝珠が、突如として木っ端微塵に砕け散りました。砕け散ったタナトスの宝珠は周囲に金色の光の雨を降らし、その輝きは風と共に消えていきます。
枯凋の能力を発動させて投げ捨てたのですが、木っ端微塵になるのは想定外でしたね。でも、最後に少しだけキレイな物を見せてくれました。




