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抜け駆け


 この日はこの場でそのまま眠る事になりました。時間的には、恐らく今は夜だと思われます。体感的な時間でしかないので確実ではありませんが、眠気的にそう考えられます。

 ここまでの道のりで皆疲れたのか、すぐに眠ってしまいましたね。ナナシさんが1人で大きな荷物を運んできてくれたおかげで、寝具にも困る事はありません。寝袋のような物に身を包んで、こんな地面の上でも何もないよりは快適に眠る事ができます。


「……」


 静まり返り、静かな寝息だけが聞こえる中で、私は寝袋を抜け出しました。そして向かったのは、石の扉の前です。

 この先へと進みたいのですが、この扉を開かせれば大きな音がして皆が起きてしまう事でしょう。できれば私は、1人で先へと進みたいのです。だから私はそっと手を伸ばし、石の扉に触れました。

 枯凋の能力を発動させましたが、石の扉が腐る事はありませんでした。それは対象が無機物だからなのか、それともグリムダスト内の物を腐らせる事は出来ないのか……理由はハッキリとしません。

 諦めて止めようかと思い、振り返った所にナナシさんが立っていました。


「……」

「……!」


 私と目が合うと、彼女は申し訳なさそうに頭を下げて来ます。

 どうして、謝る必要があるのでしょうか。彼女は何も悪い事をしていないと思うんですけどね。


「なんでもないわ。ちょっと試してみただけだから、気にしないで」


 危うく枯凋の能力を見られるところでしたね。運よく見られる事はありませんでしたが、もう少し気を付けなければいけません。まぁ、ナナシさんになら見られても良い気もしますけど。

 そう思いながら自分の寝袋に戻ろうとしましたが、彼女は私の腕を軽く掴んで止めました。そして扉の方ではなく、扉の横の壁を指さして私に目で何かを訴えて来ます。

 私は軽く他の皆がまだ眠っていてこちらを見ていないのを確認してから、ナナシさんが指さした壁の方へとやってきます。

 そこは他となんら変わらない、普通の壁です。加工された石が隙間なく重ねられていていますね。コケやツタに侵食されていて、酷く古ぼけていますがしっかりとした作りで壊す事は到底不可能。この壁がなんだと言うのでしょうか。

 私は軽く手を伸ばして、疑いながらその壁を押してみました。


「っ!?」


 すると、壁がその姿を消しました。突然なんの前触れもなく消えたので、驚きましたよ。

 思わず後ずさりしてから、消えた壁の向こうの様子を伺います。でも、伺うまでもありませんでした。人一人分空いた穴の奥は、ただの扉の向こう側です。更に道が続いていて、その先にタナトスの宝珠を取り込んだ大きな木が待ち受けているはずです。


「どうして、扉の横にこんな仕掛けが……」


 普通に石の扉は開こうと思えば、開けます。今は大きな音をたてて他の皆を起こさないようにするためそうしませんでしたが、わざわざこんな仕掛けがなくたっていつでも開けるんですよ。だからこんな物を作る必要はありません。


「いえ、それよりも……どうして、ここに隠し扉があると分かったのですか?」

「……」


 ナナシさんが、私の問いに答える事はありませんでした。答えられないと言うのもあるんでしょうけど、果たして言葉を発する事ができたとしても、素直に教えてくれるでしょうか。

 でも、助かりましたね。コレで皆に黙って奥に行く事が……できていませんね。ナナシさんにも黙っていくつもりだったのに、バレてしまいました。挙句に私が先に進もうとしていた事を察して、こんな抜け道まで教えられてしまっています。

 助かったのは他の皆が眠り続けている事ですが、しかし困りましたね……。


「……一緒に来ますか?」


 どうせならと思い、私は思い切ってナナシさんを誘いました。すると意外にも、ナナシさんは大きく頷いて来ると答えてくれました。

 こうして私はナナシさんと共に最終層の扉の奥へと進むことになり、2人で魔物の待つ危険な地を進みます。


「あらかじめ言っておきますが、私は貴女を守ってあげる事ができないかもしれません。勿論できるだけ庇いますが、それでも私たちは二人……。攻めに回った時、貴女を守ってくれる人はいないんです」

「……」


 まるで分かっているといわんばかりに、ナナシさんは頷きました。

 ナナシさんは、恐らく戦う力は持っていないはずです。担いでいる荷物の量からして、恐らく私たち同様に身体能力の強化をされている所はあると推測できますが、それだけです。だって、戦う力があるならこんな状況にはなっていないでしょうから。


「分かりました。でも状況次第では、一人で逃げるようにしてくださいね。私に遠慮する事はありませんので」

「……」


 ナナシさんが頷くのを確認し、私たちは更に奥へと進んでいきます。

 やがて見えて来たのは、広い空間です。いつものようにタナトスの宝珠を纏っていると思われる、大きな木がその空間に生えています。空にはどこまでも続くような闇が待ち構えていて、それはタナトスの宝珠を回収した時に崩落したこの世界を吸い込む役目を持っています。


「……オ、オォ、オ」


 その空間で待ち構えていたのは、ムカデ型の魔物です。ここに至るまでにも会いましたが、それとはまず大きさが違います。他とは3倍程の大きさを持つ魔物は、その分身体を支える手……というか足?も大きく、数を増やしていますね。あと、顔も大きいです。

 最終層にして、ボスの出現という訳ですね。コレも今まで通りと言えば今まで通りなので、大して驚きはしません。


「……ふふ」


 私はそのボスを見て、笑いかけました。

 さて、どうして私が夜寝ている皆を置いて、奥へと進もうとしたのか……その理由は、むしゃくしゃしていたからです。同伴している仲間のあまりの低能さと、情けなさに、嫌気がさしてきてしまいました。その憂さ晴らしに、一つ最終層で暴れてストレスを発散しようかと。そのためには自分の能力を使う必要があるので、黙って抜け出そうとしたけど、それをナナシさんに見つかってしまったという訳です。

 ──それも、あります。

 しかし、それよりも目的はタナトスの宝珠です。ちょっと試したい事があるので、私がタナトスの宝珠を手に入れる必要があります。なので抜け駆けをさせてもらいました。


「少しむしゃくしゃしているので、見苦しい所をお見せするかもしれませんが、覚悟していてくださいね」


 あらかじめナナシさんにそう断ってから、私は剣を抜きました。

 それから、ゆったりとした足取りで、魔物へと歩み寄ります。

 彼も、私には既に気づいています。威嚇するかのように、半身を持ち上げて逸らし、私をじっと見据えていますから。

 歩み寄る私に対して警戒心を露にする魔物は、私とやや睨み合った後に突然伏せて、私の方へと地を這い襲い掛かってきました。先に仕掛けて来たのは、魔物の方です。


読んでいただきありがとうございました!

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