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分からない事だらけの世界


 グリムダストの攻略が終わり、束の間の休息を利用して私は読書を始める事にしました。古めかしくも重厚で高そうなその本は、お城の図書室から拝借した物です。

 この本には、この世界の成り立ちや宗教。それからこの国で過去にあった事や、この国の発展の歴史などが書かれています。簡単に抽象的な絵画も挟まれていて、なんとなくですが当時の歴史を知る事のできる貴重な資料です。

 でもこの国のなりたちとか、先代の国王の名前とかに私は興味ありません。私が興味を持ったのは、グリムダストについての記載です。レイチェルに頼んで資料を用意してもらったのですが、意外にもグリムダストについての資料は少なく、こういった資料に断片的にしか載っていないようです。

 勿論、専門的な所ではまた別なのでしょうけど、一般的に知り得ることのできるグリムダストの情報が、あまりにも少なすぎる。


「……グリムダストを世界に産み落とした悪魔、ラスティライズ」


 夜も更けている時間。蝋燭の灯りを頼りに、私は部屋に設置されている机に向かって本を読み進めます。なんとなく、学生時代に机に向かっていたころを思い出しますが、それとは違い自分の興味のある事を調べている所です。

 先日レイチェルが言っていたラスティライズさんについて調べているのですが、レイチェルの言っていた通りの事がそこには記載されていました。

 世界を滅ぼす悪魔、ラスティライズ……。

 そこには挿絵として、ラスティライズさんとは似ても似つかない化け物が描かれています。目は大きく、左右非対称。顔は細長く、鼻が大きいです。頭には一角の角が生えていて、身体は男らしい筋肉質な身体。顔と肉体の大きさは、1対1でほとんど同じです。背中にはボロボロの白い羽根が生えていて、私が見たラスティライズさんとは似ても似つかない、醜い姿です。


「──世界暦334年……悪魔ラスティライズは、この世界にタナトスの宝珠をもたらした。最初は一つだったタナトスの宝珠は、ラスティライズによって叩き割られると世界中に分散させられた。タナトスの宝珠は、養分である人々の命を吸い込み成長するとやがてグリムダストを生み出す……。世界はラスティライズによってもたらされた災厄に、恐怖する」


 魂を養分として、成長する……。私はそれを見て、グリムダスト内部で見て来た魔物の姿を思い出しました。

 グリムダストで見た魔物の姿はどこか人に似ていて、不気味な者ばかりです。人の顔や人の手足を模した彼らがそんな姿をしているのは、もしかしたら養分としている人の姿を少しだけ再現しようとしていたのかもしれません。

 しかし、魂を養分にですか……。私には、魂という概念がよく分かりません。死んで転生させられた身でこういうのもなんですが、肉体とは別の存在である魂とか、そんなの存在するのでしょうか。存在するとしたら、幽霊とか本当にいる事になりますよね。


「……──世界暦399年。霧の中のどこかに存在する、古代遺跡を発見。その遺跡の最奥にあるタナトスの宝珠を破壊する事により、グリムダストを消し去る事ができる事が判明。世界各地で、グリムダストの攻略が始まる。──世界暦430年。既に出現していたグリムダストも含め、世界中でグリムダストの消滅が確認された。世界はラスティライズの災厄から解放される」


 グリムダストが、世界から一旦は消滅していた事実がそこには書かれていました。

 それにしても、グリムダストを消滅させる方法に気づくのにタイムラグがありすぎではないでしょうか。よっぽど怖くて、調査が進まなかったのでしょうね。

 ですが、既に出現していたグリムダストを含めて消滅させたという事は、霧の中に魔物が蔓延る中で攻略したという事ですよね。それは素直に凄いと思います。霧の中は、広大ですからね。そんな中にまで魔物に出現されたら、グリムダストに辿り着く前に体力が尽きてしまいます。

 恐らく当時の人たちは、必死に人員をかき集めて多くの犠牲を出しながら辿り着き、攻略に至ったのでしょう。よく頑張りました。


「──世界暦555年。消滅したはずのグリムダストが、再び世界各地に出現した。グリムダストの消滅によってもたらされた平和は、国家間の紛争を呼んだ。国同士の争いによって多くの犠牲者が出て、多くの魂がまだ潜んでいたグリムダストの養分となり、グリムダストを育ててしまった。長い年月と多くの魂を糧としたグリムダストは、この世界の者では手に負えなくなるほど強力な魔物を作り出してしまうまでに至る」


 平和に暮らせば、グリムダストがまた生まれる事はなかった……そうは言いませんよ。ですが、人類共通の敵がなくなった瞬間に戦争とは、やはり人とはどこまでも愚かで、でもそこが人らしくて愛おしい。

 私は平和主義者ですが、そういうのは嫌いではありません。だって平和が続いたって、そんなの退屈でストレスがたまるだけですから。ストレスはやがて大きなものとなり、いつか爆発してしまう。そうなるくらいなら、そうなる前にストレスを発散してしまえばいい。

 だけどそれは、愚かでどうしようもない行為。だから人は、争いを避けられない。争い続け、弱者を見下し虐めたりしながら過ごすしかない。


「──世界暦587年。世界に、異世界からの勇者が出現した。それは世界中で突如として出現した空に浮かぶ島に存在する、神殿から現れた。勇者は強力な力を持ち、グリムダストをいとも簡単に攻略して見せた。勇者の出現はこの世界に希望をもたらす。しかしそれは一時しのぎにしかならない。世界を救うための勇者は、数があまりにも少なすぎた。グリムダストの勢いはとどまる事を知らない。世界は徐々にその生存圏を狭めていく」


 本に書かれているのはそこまででした。ちなみに現在は、世界暦693年。この世界にグリムダストが出現してから、300年以上が経過している事になります。

 ラスティライズさんに関しての記述は少なく、グリムダストの歴史について簡単に描かれていました。

 この世界にグリムダストをもたらしたのはラスティライズさんと書かれていますが、果たして本当にそうなのでしょうか。だって、そうだとしたら私にラスティライズさんがグリムダストの破壊を依頼しますか?そもそも私の知っているラスティライズさんと、この本に描かれているラスティライズさんは同一人物なのでしょうか。


「……はぁ」


 でもとりあえず言える事は、この世界にとってのラスティライズとは、悪魔の名だという事です。

 私はそっと本を閉じて、ため息を吐きました。

 私に神だと名乗った、ラスティライズさん。この世界に破滅をもたらす悪魔だと書かれた、ラスティライズさん。一体どちらが本当のラスティライズさんなのでしょうか。

 この世界は、分からない事だらけですね。


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