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平和なひと時


 数日振りの自室へと戻った私は、そこで待っていてくれたレイチェルに抱き着きました。レイチェルを胸に抱き、そしてまるで愛おしい恋人にするようにしてその頭を撫でます。身体の小さなレイチェルは、私の抱擁を私の胸に抱き着いて受け入れてくれます。彼女も満更でもなさそうで、甘えるようにする彼女を私は可愛く思います。

 とまぁそれは私の妄想です。本当は抱き着こうとしましたが、避けられてしまいました。

 知り合ってからもう何日か経ちますし、これくらいさせてくれたっていい気がするんですけど、レイチェルは全く隙を見せてくれません。常に私を警戒し、距離をとって過度なスキンシップをしようとすればかわされる。その繰り返しです。


「お疲れさまでした、エイミ様。今回も見事に、グリムダストを攻略してみせたそうですね」

「……ええ。全員で力を合わせて、思ったよりも早く終わりました」


 レイチェルは私をいたわり、お茶を淹れてくれています。私を避けずに抱きしめさせてくれれば、それが何よりのいたわりになるんですけどね。

 でも、レイチェルが淹れてくれるお茶は美味しいので、それはそれで飲みたいです。ここにタニャもいてくれれば最高だったのですが、タニャは辺境の伯爵夫婦の所で可愛がられているとか……。レイチェルが教えてくれました。

 直接見た訳ではないので不安ですが、ガラティアさんの反発がある今会いに行くわけにはいかないので、我慢しています。


「ですが、どうして不満げなんですか?」

「分かりますか?私、ちょっと怒っています。誰にだと思いますか?ツカサさんにです。思わず殺してしまいそうでした」

「落ち着いてください。一体何があったのですか」


 レイチェルにそう尋ねられれば、答えない訳にはいきません。私は先ほど、国王に対してタナトスの宝珠の行方を尋ねた事。その後でツカサさんに怒られた事をレイチェルに話しました。

 ツカサさんはあの後もぐちぐちと私を責めてきて、私に対する報酬の分け前を減らすとか言って来たんです。理由は、国王に対する態度がなっていないから。それは、報酬を減らされたくなければ余計な事をするなという圧力と同じです。

 一体いつから、ツカサさんは私たちの報酬の取り分を決める身分になったのでしょうか。自らをリーダーだと思い込んでいるようですが、私はあの人の事をリーダーだなんて思っていませんし、そのような立場にあるとも思っていません。

 オマケにいつまでも私を叱って来て、ミコトさんとイズミさんがいなかったらとっくに手が出ていますよ。我慢できた私を、私は褒めてあげたいです。


「というような事がありました」

「……なるほど。よく我慢できましたね。褒めて差し上げます」


 レイチェルはそう言いながら、私が座っている席の前に置かれた机の上に、淹れたてのお茶の入ったコップを置いてくれました。

 何故かちょっと偉そうに言うレイチェルですが、私は特に気になりません。むしろご褒美に思えます。


「ありがとう。いただくわね」

「どうぞ」


 一言断ってから、私はお茶に口をつけました。やっぱり、美味しい。タニャが淹れてくれたお茶もそうだけど、レイチェルの淹れてくれるお茶にも優しが詰まっていて、落ち着きます。


「……」


 レイチェルは黙り込むと、周囲を警戒するように見渡しました。扉は閉められていますし、間違いなくこのお部屋には私とレイチェルしかいません。

 それでもレイチェルはまだ警戒しているのか、私の耳元に口を近づけ、小声で話しかけて来ました。


「タナトスの宝珠について、国王様は恐らく破棄などしていません。宝珠を集めて国王様は何かをしようとしているというエイミ様のよみは当たっています。……集めている場所は恐らく、勇者の神殿と並ぶ世界の大いなる謎の一つ、古代神殿です」

「……それはどこにあるの?」

「分かりません。その存在は隠されており、何をしようとしているかの答えもその場所にあるはずですが、まずどこにあるのかが分からなければ始まりません。その存在を何故私が知っているのかというのは、聞かないでください」


 言い終わると、レイチェルは私の耳から口を遠ざけました。レイチェルの生暖かい息遣いを耳で感じられて、良い気分でした。私はそれを名残惜しく思いながらお茶を飲み、平静を装います。

 レイチェルは割と心配になるレベルで、色々な事を知っています。その情報量は一介のメイドの域を超えていますが、それを指摘するのは私とレイチェルの関係を壊す事に繋がりそうなので、私から言う事はありません。


「分かったわ。ありがとう。それで、ガラティアさんとヴァンフットさんの方はどう?」

「……そちらに関しては、少々厄介な事になりそうです」

「というと?」

「元々ヴァンフット様と勇者ツカサ様は、仲の良い友人のような関係にありました。そこにガラティア様が入れ知恵をして、ヴァンフット様からツカサ様に対して悪い噂を流す事により、エイミ様の立場を脅かそうとしています。恐らくツカサ様がエイミ様に対し、些細な事ととれるような事で突っかかって来たのはその影響があるからかと思われます」

「そう。これからもっと、激しく突っかかってくるかもしれませんね。そんなツカサさんと仲の良い、ミコトさんとイズミさんからも、もしかしたらその内……」

「はい。エイミ様達は共に危険な地へと足を踏み入れる、仲間です。その中で事故を装い殺されると言う事態も、もしかしたらあるかもしれませ……エイミ様?」


 私はレイチェルの警告に耳を傾ける事無く、妄想の中でミコトさんとイズミさんに虐められるのを想像していました。

 ミコトさんに足を舐めるように言われて舐める、みじめな私。それを蔑む目で見るイズミさん。上手に舐める事ができなくて、鞭うたれる私。2人は容赦なく私に鞭を食らわせ、私の身体に痛々しい鞭の後を作っていく。

 骨折すらたったの1日で治ってしまったこの勇者の身体ですが、鞭の痛みが消える事はありません。私は2人から与えられるその痛みと屈辱を胸に、生きていく哀れな雌……。


「最高ですね。これだから異世界はやめられません」

「何をお考えかは分かりませんが、真面目にお考え下さい。貴女が死んでしまったら、タニャに会えなくなるのですよ」

「……確かに、それは困りますね。じゃあ少しだけ、真面目に考えておくわね。そんな事よりレイチェル。頼んでおいた物は、どう?」

「そんな事、ですか……。ええ、大丈夫ですよ。近々ご用意できるかと思われます」

「そう。よろしくね」


 本来であれば、国王にでも頼めばすぐに用意してくれる物でしょうけど、こればかりはそうはいきません。秘密裏に用意してもらう必要があり、そういうのが得意そうなレイチェルに頼むことにしました。

 早く完成しないかと、その時が楽しみで仕方がありません。


読んでいただきありがとうございました!

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