国王への質問
グリムダストの攻略を終えて、城塞で少しだけ休憩をした私たちは国王の下へと帰ってきました。
今回はお城から遠くて、馬を走らせて移動だけで往復3日もかかってしまいました。途中で立ち寄った村で一番豪華な宿をとり、それからまた馬を走らせてようやくたどり着いたと思ったら、一番に国王に会わされて気分は最悪です。
「よくぞ戻った勇者たちよ。今回も見事にグリムダストを攻略したようだな。そなたたちの活躍を私は嬉しく思う」
「はい。おかげさまで、この通り全員無事で帰還しました。こちらが、タナトスの宝珠です」
「うむ。寄るがよい、勇者ツカサよ」
ツカサさんを壇上に招く国王に応え、ツカサさんがタナトスの宝珠の入った袋を手に歩み寄ります。そして国王の座るイスの前に跪くと、袋の封を解いて両手でタナトスの宝珠を差し出しました。
まるで、神様にでも差し出すような仕草です。
「よくぞやってくれた。ゆっくりと休み、次に備えるが良い」
国王は笑いながらタナトスの宝珠を受け取ると、空いたツカサさんの手の上に大きく膨れた袋を乗せました。ジャラジャラと音のする、紫色の袋です。
中身を見なくとも、分かりますよね。その中にはお金がたくさん入っていて、それが私たちへの報酬という訳です。
「ありがとうございます、国王様。我ら一同、これからもこの国のために励みます」
「頼りにしているぞ」
タナトスの宝珠を手にして上機嫌となった国王からツカサさんが離れると、最後に再び一礼して国王に背を向けました。ツカサさんと同じように、ミコトさんとイズミさんも国王に向かって一礼すると、ツカサさんについて歩いて行こうとします。
しかし私はその場に留まりました。少し国王に聞きたい事があるので、それでです。
「……どうしたのだ、勇者エイミよ。貴殿も下がり、ゆるりと休むがよい」
「一つ、お尋ねしたい事があります」
「申してみよ。勇者の知りたい事、望む事……それらに応えるのは国王である私の義務だ。遠慮せずになんなりと言うがよい」
タナトスの宝珠を手にした国王は、上機嫌でそう言ってくれます。やはり、国王に物を尋ねるのならこのタイミングが一番ですね。
他のタイミングではこうはいきませんよ。いつもは常に不機嫌そうに、ぶすっとしていますからね。
「では、お尋ねします。貴方は私たちが回収し、手に入れたタナトスの宝珠をどうしているのですか?」
「……」
ですが国王の上機嫌も私の質問を耳にして、どこかへと飛んで行ってしまいました。
鋭い目で私を睨み、嬉しそうに見ていたタナトスの宝珠を布にしまい込むと、それを懐にいれて隠してしまいました。
「その話を、どこかで聞いて疑問に思ったのか?」
どこかで、聞いた?その質問返しには疑問を持ちます。まるで誰かが国王に渡されたタナトスの宝珠の行方を知っていて、それを耳にされる事を警戒しているかのようです。
「いいえ。そういう訳ではありませんが、それが何か?」
「……タナトスの宝珠は、こちらで優秀な魔術師に処分させている。強大な力を持つが故に、処分は中々に大変なのだ」
「そうだったのですね。大変だと言うのなら、これからは私が処分しておきましょう。きっとすぐに破壊する事ができるはずですので、それならば国王様のお手を煩わせずに済むかと」
「っ!」
私の提案に対し、国王は勢いよく立ち上がって私を見下ろしてきます。
国王のためを思っての提案なのに、その様子は酷く取り乱していて怒っているようにさえ見えます。
そんな国王の行動に驚いたのは、他の勇者たちです。ただ一方で、国王の座るイスの傍にいつも立っている側近は、何も驚いた様子を見せません。見慣れているのか、何か知っているのか……どちらかですね。
「良いか!貴様たちの役目はグリムダスト攻略し、タナトスの宝珠を持ち帰る事だ!それ以上でもそれ以下でもない!タナトスの宝珠はこちらで処分するが故に、余計な事を考える必要はない!分かったら立ち去るが良い!」
「……失礼します」
これ以上の詮索は、国王の怒りを買うだけです。私は国王に背を向けて歩き出します。戸惑う勇者一同も、私に続いて再び歩き出しました。
彼らは私の質問の意味も、国王が取り乱した理由も、何も理解できていないようなそんな顔をしています。
「──エイミさん。あの質問は、なんだったんだ?」
謁見の間を出てからそう尋ねてきたのは、ミコトさんです。お城の廊下を歩きながら、行きかう周囲の兵士やメイドさんの目も気にする事無く、普通に尋ねて来ました。
深く考える事が出来ないのは、貴女の利点でもあります。実際可愛く思いますけど、私のためを思うのなら人目のない所で尋ねて欲しい所です。2人きりで、誰も来ることのない静かな密室の中でお話とかどうでしょう。
「少し疑問に思っていたんです。本当にグリムダストは、処分されているのかな、と」
「されているに決まっているだろう。前にも聞いて来たな。国王に渡したグリムダストが、どうなったか知っているか……」
「ええ。本当にただ、気になった事を口にしただけなんですよ。気になっていたのでいつか聞いてみようと思っていたのですが、いい機会だと思って聞いてみただけです。どうやら本当に処分されているみたいで、安心しました」
あの様子では、処分されているという事はあり得ません。でも表面上だけでもそうしておいて、損はないでしょう。どこで誰が私の言葉を聞いているか、分かりませんからね。
少なくとも、この往来の中ではそういう事にしておきます。
「杞憂だったようでなによりです。ですが貴女の質問は、国王様の機嫌を損ねてしまいました。尋ねるのでしたら、もう少し言葉を謹んで尋ねるべきです。ただでさえ、貴女は国王様に対する態度があまり良くないのですから」
やんわりとした口調で、イズミさんに怒られてしまいました。怒っている仕草は見せていますが、とても優し気で本気ではない事が分かります。
でも、眉を吊り上げるイズミさんが可愛いです。こんな方になら叱られても嬉しいだけですね。私が子供だったら、叱られたくてわざと悪い事をしてしまうかもしれません。
「──まったくだ。国王様の機嫌を損ねるのは、良くない。君はもう少し、良く考えて言動をすべきだ」
ミコトさんとイズミさんとは違い、ツカサさんは本気のトーンで私を叱りつけて来ました。
良く考えてから喋る?何も考えてない。ただ国王に気に入られようと、国王の意のままに動く者にだけは言われたくはありません。というか、男になんか叱られたくありません。
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