嫉妬
原因は分かっていますけどね。ナナシさんが私から距離を取ってしまうのは、イズミさんやミコトさんに、ツカサさんのまるでゴミを見るような視線のせいです。
彼らはどういう訳か、ナナシさんを嫌悪しています。それは聞くまでもないくらいに明らかな物で、まるでどうでもいい物のような扱いです。
実際は、ナナシさんがいなくなったら困りますよ?だって、私たちの荷物は全て彼女が持っているんですから。彼女がいなくなってしまったら、私たちはお腹が減る上に喉の渇きを癒す事もできません。
「……」
ナナシさんは、とりあえず私の指摘に応えるように駆け寄ってきました。
私はそんな彼女の頭を撫でて出迎えます。
私は彼女の事、嫌いではありません。むしろ小動物っぽい所があって、可愛く思います。
「エイミさん。今は戦闘中です。それに構っている場合ではありません」
「……分かっていますよ。でも、もう終わったみたいです」
一緒にいるイズミさんに、怒られてしまいました。
彼女は近寄ってきたナナシさんと仲良くする私を見て、嫌悪感を強めています。その目つきは鋭くなり、いつもの優し気な人を演じているイズミさんの素を出してしまっています。
「はあぁ!」
最後の一匹を、今ツカサさんが切り伏せた所です。コレで、蜘蛛の魔物は全滅です。
今回は20階層でゴールだったので、楽な部類ですね。というかそもそも、最初に私一人で攻略に出たグリムダスト以上に、深くて強い敵が出るグリムダストと出会っていません。まだサンプルの数は少ないですが、それでも攻略が簡単すぎです。
私はアレ以来、枯凋の能力を使っていません。使う必要がないくらいに、敵が弱すぎるのです。
「よしっ。終わったな!オレ達の勝利だ!」
剣を掲げて勝利宣言をするツカサさんに、ミコトさんとイズミさんが安堵の表情を見せます。
何かの映画とかアニメの真似でしょうか。そんな勝利宣言をするくらいなら、辺りを警戒してください。もしかしたらまだ潜んでいるかもしれませんよ。少なくとも私の目には映りませんが。
「今回の敵は中々手強かったが、皆よく頑張ってくれた。特にミコトの魔法の矢がよく効いて、何度も助けられたな」
「……そんな事はない。大体はツカサが倒してくれたおかげで、楽を出来たまでだ。この勝利はツカサの功労あってこそだよ」
「いや、その……ありがとう……」
ツカサさんに駆け寄って声を掛けるミコトさんは、頬をやや赤く染めてツカサさんをほめたたえます。それに対して、ツカサさんも恥ずかし気に頬を赤く染める仕草を見せ、照れているようですね。
「っ……!」
そんな2人をみて、イズミさんが不機嫌そうに杖を地面に叩きつけました。その顔は、まるでナナシさんを見る時のような目ですね。信じられない事にイズミさんもツカサさんに好意を抱いているらしく、嫉妬から来る憎悪も混じって目の鋭さはそれ以上かもしれません。
2人を見てイラっとする気持ちは、私も同じです。ミコトさんのような美少女、あの男にはもったいないです。見た所お互い満更でもないようですが、あまりにも不釣り合いですよ。
なんだったら2人ともツカサさんを諦めて、ミコトさんとイズミさんでくっ付いたらどうでしょうか。それだったら凄くお似合いだと思うんです。余裕があればそこに私も混ぜてもらって、そうすれば皆が幸せになれますよ。
「皆さん。グリムダストを回収するまでが、私たち勇者の務めです。最後まで油断はせずに行きましょう」
イラ立った様子のイズミさんは、そう言うと勇ましくグリムダストのある木の方へと歩いていきます。
「おい、単独行動は危険だぞ」
「……」
ツカサさんは、自分の横を通り過ぎて行ったイズミさんの後を、慌てて追いかけます。ミコトさんもそれに続いて歩いて行くので、私とナナシさんも後を追いました。
グリムダストの木は、前に私が一人で回収した時とほとんど同じような姿です。周囲にはちょっとだけ水が溜まっていて、水の中心部に大きな木が生えています。天井はまるで、どこまでも続くような暗闇となっていて上限が見えません。
全員でその木を囲んで周囲を探すと、光り輝くグリムダストを発見しました。光っているので木のツタに覆われて隠されていても、見つけるのは割と簡単です。そこにツカサさんが手を突っ込んで、金色の宝石を回収。コレでグリムダストの攻略は完了です。
その瞬間に、私たちの身体を光が包み込みました。転送が始まり、同時に世界が崩壊していきます。グリムダストは崩れ落ちていき、天井の闇へと吸い込まれていく。世界の終焉を目にしていると、私たちは気づけばグリムダストの外へと放り出されていました。
「……はぁ。終わったな」
ツカサさんの言う通り、完全に終わりました。後は回収したタナトスの宝珠を、国王に届けて私たちの任務は終了です。
「勇者様……!お疲れ様です。今回も見事に、グリムダストの攻略を果たしたのですね!」
私たちが放り出された場所には、大勢の兵士が待ち構えていました。
場所は、石でできた巨大な建造物の上です。キレイに加工された石によって作られたそれは、城塞です。山の切れ目の渓谷を守るように建てられた砦は、隣国からの攻撃を抑える役目を果たしています。山は険しく、砦は高くそびえたち、隣国からの攻撃をその見ただけで抑止する効果がありそうです。
このお国の事情はまだよく分かりませんし、世界情勢についても私は把握しかねています。でも、この砦の向こうにあるお国とは仲があまりよろしくないようで、この砦はこの国にとって、守るためになくてはならない存在のようですね。
だから私たちはわざわざこんな場所まで赴かされて、グリムダストを攻略してあげたのです。
砦の兵士たちは、霧が晴れた事によってお祭り騒ぎですよ。私たちを囲い、しきりに称賛の声を浴びせて来ます。
ツカサさんやミコトさんとイズミさんは、満更でもない様子で称賛の声に応えるように手を掲げますが、私は気に入りません。むさくるしいおじさん達の熱気は、私には毒です。
救ったのが軍事拠点というのも、気にいりません。他にも一般の方が暮らす場所に、きっとグリムダストが出現しているはずです。そちらではなく、このような軍事のための場所を助ける事になり、ツカサさん達は何も思わないのでしょうか。
「ありがとう、勇者様!コレでオレ達は、定期的にちょっかいを出してくるドグマの連中をまたぶっ殺せるぜ!」
「この城塞は無敵だ!それが奴らに分かるまで、徹底的にやってやる!」
兵士たちは口々に物騒な事を言っていますよ。
この国を守るために存在しているのは、分かります。そのドグマとかいう国の人たちが、もしかしたらとても狂暴な方々で、そんな方々にこの国を蹂躙される事になれば大勢が虐殺される事になる。
……真偽はともかくとして、そう言う事にしておきましょう。私たちが救ったこの城塞は、そういう役目を持っている。そう考えなければ、今すぐにでも私が腐らせて、壊してしまいそうになってしまいます。
私って、案外平和主義の心優しい女なんですよ。
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