止まらぬ妄想
そこからは、それまでとは少しだけ、様子が違いました。
その先に待っていたのは、巨人達でした。佐藤さんは、姿を現わすことなく、代わりに巨人だけが敵として待ち構えていて、訪れた私に襲い掛かってきます。
彼らは、武器として棍棒を手に、私に襲い掛かってきました。中には、赤い肌の巨人さんもいましたが、それは棍棒ではなく、斧を持っていたりして、青い肌の巨人よりも、若干ですが強く感じましたね。
でも、全部腐り落ちて、死にました。
巨人さんは、正直言って、苦手です。すぐに叫ぶし、やかましくて仕方ありません。私はイラだちながら、そんな巨人さんを殺して、殺して、殺して殺して、そして扉の前に辿り着きました。
現在、50回くらい、階段を降りた所でしょうか。その扉は、唐突に目の前に現れ、明らかに、他とは違う物を感じさせます。
「……ゲームなら、この奥にボスでも待ち構えている展開ですね」
そう呟いて、扉に手を触れようとしましたが、止めました。
この先に、本当にボスが待ち構えているのなら、休憩が必要です。私は、かなり体力を消耗していて、このままこの扉をくぐるのは、危険だと判断しました。
また、手近な岩の上で、バッグを広げます。中から食料をお水を取り出すと、私はそれらを口にしました。
食べながら、考えます。タニャは、どうしてるでしょうか。私の帰りを、ちゃんと待ってくれているでしょうか。約束、ちゃんと覚えてくれてるかな。早く、あの笑顔を見て、安心したいな。それから、キスしてもらって、あんな事や、こんな事までしたりして……。
「ふふ」
私は止まらぬ妄想をして、思わず笑ってしまいました。
それからまた、睡眠をとって、体力は回復し、準備が整います。
荷物をまとめ、立ち上がった私は、大きな石の扉の前に立ちました。まずは、観察をしてみますが、何か仕掛けがあるようには見えません。地面には、扉が動いた形跡もなく、どうやって開けばいいのかが分かりません。
もしかしたら、凄く軽いのかと思い、扉に手で触れてみましたが、そんな事はありませんでした。力をいれて、確かめるまでもありません。
「っ……!?」
でも、次の瞬間、私が触れた個所から、扉に光の線が広がっていき、扉全体が光り輝きました。扉の模様にそって光る線は、ライトアップされた訳ではありません。自発的に光を放ち、あたりを眩く染めています。
ただ、光っているだけではありません。次の瞬間、地響きと共に、扉が動き出しました。私のいる手前側に、少しずつ動き出し、巨大な門が開き切ると、奥への道が姿を現わしました。石畳の床と、加工された石でできた壁と天井は、人工的な作りです。ただ、とても古めかしく、所々がツタやコケに侵食されています。
「入れ、という事ですか……」
私が踏み出し、扉の中へ入ると、廊下の左右の壁にあったランタンの火が自動的に灯り、足元を明るく照らしてくれました。廊下の奥まで続いているランタンの灯りは、まるで私を誘導するかのように見えて、不気味です。
更に、不安な事に、私が中に足を踏み入れると、扉が閉じ始めたのです。急いで出れば間に合ったでしょうけど、私はそうはしませんでした。扉が閉じて行くのを、じっと眺め、その場に留まります。
やがて、扉が閉まるのを見届けてから、奥へと向かい、再び歩き出しました。コツコツと音をたて、その音が反芻し、響きます。中々、嫌いではない音です。私は音を楽しみながら進み、やがて広々とした空間に辿り着きました。
踏み入れたその空間は、幻想的でした。円状に広がった空間は、天井がとても高く、果てが見えません。その先は暗い闇が広がっていて、まるで宇宙を思わせるような光景です。そんな空間の中心部には、木が一本、生えていました。ここへ来るまでの間も、いくつか生えていましたが、この木は異質です。ぐにゃぐにゃと曲がった木は、とても太くて、立派です。歪な形にも見えますが、それが返って味を出しています。太さは、大人十人分といったところでしょうか。それが、天に突き出すように生えていて、しかも緑の葉っぱが生い茂り、周囲にはその葉が落ちています。
木の生えているその周りには、池もあります。透き通るような水が、どこからか流れてきて、水音をたてていて、風流を感じさせます。
私は、なんとなくですが、この木こそが、グリムダストの正体なのだと、悟りました。全ての元凶は、この木……では、タナトスの宝珠はどこにあるのでしょう。
そう思い、木に近寄ろうとした時でした。
「……まぁ、そう簡単にはいきませんよね」
そう呟いた私の目の前に、黒い渦が巻き起こりました。見た事のない現象に、戸惑い警戒をする私をよそに、その渦から手が飛び出してきました。とても大きな、人の手です。黒い肌を持ち、爪は鋭く、青白い血管が浮き出ています。
それが、渦の淵を掴むようにして踏ん張ると、少しずつ、本体が出て来ます。
「グ、オ、オォォォォォォォ……!」
ついに姿を現わしたそれは、人の顔でした。額に、2本の角が生え、2本の大きな牙を口から出した、大きな人です。少し、前の階層までにいた、巨人さんに似ていますが、別物です。こちらは、まるでタテガミのようにふさふさの、黄金の髪の毛に、口から低い咆哮と共に溢れ出ている、炎。怒りの表情は、巨人さんと同じですが、迫力が違います。
そう。コレはまるで、鬼です。黒い肌を持つ鬼が、私の前に現れたのです。
渦から出てきて、地面に降り立ったその鬼は、全身が筋肉の塊のような、化け物でした。
彼が出て来終わると、黒い渦は姿を消し、なくなってしまいました。この鬼が出て来た、渦の正体は、一体なんだったのでしょうか。誰かが、この地を訪れたら、出現するようになっていた……それとも、そういう罠だったのかとか、色々な可能性が考えられます。
何にせよ、コレが最後の敵となるでしょう。奥へと続く道はありませんし、そのはずです。では、このボスと思われる鬼さんを倒して、この空間のどこかにある、タナトスの宝珠を回収させていただきましょうか。
私は、ゆったりと剣を抜き、構えました。
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