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私、異世界に来てまで虐められています  作者: あめふる
3章 それぞれの思惑
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過去の夢と、イラだち


 夢を、見ました。

 それは、過去の夢です。学校で、授業を受けている私は、休み時間になると、数人の級友に呼び出されます。ついていくと、体育館の裏にある、倉庫にたどつきました。

 私はそこで、数人の生徒から、罵倒を受けます。何故、男に色目を使うのかとか、何故、髪を伸ばすのかとか、何故、学校に来るのかとか、かなり理不尽な罵倒を受けましたね。

 でも私は、なんとも思わなかった。私は少し、マゾ気質といいますか……特に、同性である女の子に罵られ、たまには痕にならない程度に暴力をふるわれるのが、好きだったのです。

 そう……そんな、私を虐めていた中の一人が、佐藤さんでした。くすんだ髪の毛を生やしていて、男勝りの性格と、体格。何かと私につっかかってきて、私を積極的に虐めてきた人です。

 顔は、先ほどの魔物と、似た感じです。コレが夢だからだと思いますけど、私を罵っている佐藤さんの顔は、魔物の佐藤さんの顔になっています。凄く、不気味ですね。でもなぜか、違和感がありません。


「エイミちゃん」


 一見すると、あまり良い学園生活とは、言えませんでしたね。でも、私自身は楽しんでいたんですよ。虐められていると言う自分の立場もそうでしたが、それ以上に、私の学園生活を、華やかな物にしてくれていた人物がいたんです。

 その子は、とても優しい子でした。

 場面はいきなり変わり、お昼休みの風景となります。

 私の机の前側にイスを持ってきて、一緒にお弁当を広げている女の子がいます。彼女の名前は、みーちゃん。ミツキという名前でしたが、彼女がそう呼べとせがんできたので、私は親しみをこめて、みーちゃんと呼んでいました。

 みーちゃんは、一人っ子の女の子で、普通の母子家庭に生まれた、普通の女の子です。肩上まで伸ばした髪は、本当に少しだけ茶色がかっていて、癖っ毛の女の子でした。でも、人懐こい笑顔が可愛くて、ステキな女の子だったんですよ。私とは違って、本当に純粋で、汚したくなってしまうような、そんな魅力を持つ女の子でした。年頃の女の子らしく、お化粧や、お洒落に興味津々でしたが、決して自分自身を着飾る事はなく、される側ではなく、する側に憧れていましたね。

 彼女との関係は、どこか不思議な物だったと思います。彼女自身は、私が虐められている事を知っていましたし、目撃された事もあります。でも、決して手を差し伸べる事はありませんでした。彼女は、自分までもが巻き込まれて、虐められるのを、恐れていたんです。

 それでも、先生や、なんとか委員会に訴えかけてくれていたのを、私は知っています。結局、何の意味もなさなかった事ですが、みーちゃんは普段は私と仲良くしてくれて、みーちゃんのその気持ちだけで、充分でした。


「──エイミちゃんは、辛くないの?」


 そんなみーちゃんが、ある日私を自宅に招いて、聞きにくそうに、そう尋ねて来ました。


「辛い?」

「その……虐められて……」

「私は、幸せよ」


 その問いに対して、私はそう答えました。

 だって、私にはみーちゃんがいるもの。虐められているのは、趣味と合いますし、問題ありません。

 だから、自信たっぷりにそう答えた記憶があります。


「そっかぁ。強いなぁ、エイミちゃんは。私は──」


 屈託のない笑顔を見せ、みーちゃんが答えようとした所で、世界が暗転しました。目の前のみーちゃんが、暗闇に飲み込まれて行こうとしています。

 私は、手を伸ばしました。でも、その手は届きません。私の身体を、大きな六本指の手が、握って押さえてきたせいです。振り返ると、そこには魔物の佐藤さんがいました。


「……」


 そこで、目が覚めました。夢のせいで、寝ざめは最悪で、吐き気がします。私は枕にしていたバッグの中から、水筒を取り出すと、それに口をつけました。

 そこは、グリムダストの中です。寝る前と同じ光景が広がっていて、私は岩の上に横になっていました。硬い岩の上は、寝心地が良いとは決して言えず、身体の節々が痛いです。


「はぁっ……!」


 水筒から口を離し、私は息を吐きます。

 今更、思い出したくもない事を、思い出してしまいました。それもこれも、魔物の佐藤さんのせいですね。佐藤さんがたくさん出てき過ぎて、思い出してしまったみたいです。


「……みーちゃん」


 私は、彼女の名を、呟きます。呟いて、胸に手を当てます。この世界に彼女はいないけど、私の心の中にはいる……そんな、ロマンティックな事を考えますが、心のもやもやが消える事はありません。

 もやもやを消し去ろうと、私はバッグを肩にかけ、ランタンを手にし、奥へと向かいます。いつもの階段を降りていくと、その先に待つのは、佐藤さんではありませんでした。

 私を出迎えたのは、巨人です。2本足で大地に立ち、大きな腕と、足を持った、文字通りの大きな人です。ただ、肌の色は青色で、人型をしているだけで、人ではありません。それでも、作りは顔までもが人と同じで、気持ちが悪いです。顔は、佐藤さんと同じく、白目を剥いていていますが、こちらには表情の変化が見られます。鋭い目つきに、眉間によせたシワ。歯をむき出しにして、涎がこぼれるのも気にしないくらいの、怒りの表情を見せていて、その怒りが何に向けられているのか、私には分かりません。あと、黒い髪の毛が生えていますね。ハゲかけていますけど。


「ボオオオオォォォォ!」


 巨人さんが、私を見て叫びました。でも、私は夢見が悪かったせいで、ちょっとイラついているんです。静かにしてもらえませんか?

 そう訴えるように、私は巨人さんに向かって小石を投げつけました。小石は、巨人さんの足にあたり、地面に落ちます。それにより、特にダメージがあった訳ではありません。ただ試したい事があっただけなので、別にダメージがなくても、良いんです。


「ボガッ!?」


 巨人さんが、突然膝から崩れ落ち、倒れました。私が投げ捨てた石が当たった足から、どんどん腐っていっているためです。

 どうやら、私が手にした物が当たっても、手に触れたのと同じように、枯凋の能力を発動させる事ができるみたいです。本当に、どこまで便利なんですか、この力は。

 そう冷静に解析しながら、私は巨人さんの最期を見届ける事もなく、横を通り過ぎて、奥へと向かいます。どうやらこの階には、この巨人さんだけしかいないようで、辺りに他の魔物は見当たりません。


「グバアアァアァァァァァ!」


 腐っていく自分の身体を見ながら、巨人さんは叫び声をあげています。のたうち回り、苦し気に叫ぶその姿は、とても滑稽です。

 どうやら、死に対する恐怖が、魔物にもあるようですね。それはちょっと、意外でした。

 でもちょっと、うるさすぎです。死ぬ間際に、泣いて叫ぶのは、人間だけで充分です。ただでさえ、夢で昔を思い出してイラだっているんですから、そこへ更に昔を思い出させないでください。私は巨人さんの下へと戻ると、イラだちながら剣を抜き、巨人さんの頭に突き刺しました。


読んでいただき、ありがとうございました!

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