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霧に覆われた地


 町中を、先導する兵士につきながら、馬で走ります。道には、大勢の人がいますが、お構いなしで、石畳の上を馬が走り、こ気味良い馬蹄の音を響かせています。お城の城門から、一本の直線となって、町の外へと続くこの道は、とても広く、左右に多くの露店が並んでいます。その中を、颯爽と走る私たちは、彼らの注目の的です。


「アレは、新しい勇者様か!?」

「見た事がない方だ」

「勇者様ー!」


 周囲には、勿論大勢の女の子の姿を見る事もできます。彼らは、大人から子供まで、また、男女も関係なく、私に向かって手を振ってきてくれています。

 私が何故、勇者だと分かったのか。それは恐らく、先頭を走る兵士が、掲げている旗のおかげですね。その旗には、私が首から下げているペンダントと同じ、空中に浮かぶ島が描かれています。そのデザインの物を掲げている軍団は、勇者一行という事なのでしょう。

 私にかけられる声は、全てが私に対する声援で、悪い気はしません。この国の民の、勇者に対する認識が、彼らの行動でよく分かります。

 中には当然、女の子もいて、できれば馬を止めて彼女たちとお話をしたいところですが、今はそんな事をしている余裕はなさそうです。だから、軽く手を振りながら笑顔を振りまくだけで、我慢しておきます。

 いつも、蔑んだ目で見られてきた私ですが、たまにはこういうのもいいなと思いますね。

 そうして、人々の声援を背に、街を囲む壁の中にある、門をくぐり抜けて外の世界へと飛び出すと、そこには広大な緑の大地が広がっていました。

 勇者の神殿からも視ましたが、この光景は、見慣れない私にとって、感動を覚えます。どこまでも続くような大草原に、遥か彼方にある、背の高い山々。澄んだ青空の下を、馬で颯爽と駆け抜けると言う行為は、中々体験できる物ではありません。

 これが、むさくるしい男たちと一緒ではなく、可愛い女の子と一緒だったら、どんなに最高だった事か……。そこだけが、悔やまれます。

 ところで、その……なんとか村には、いつになったら辿り着くのでしょう。馬を走らせる兵隊さん達は、黙々と走り続けるだけで、聞くタイミングが掴めません。

 結局、目的地についたのは、日が傾き始めた時間でした。途中で何度か小休止をして辿り着いたその場所は、小高い丘の上にありました。そこは、真っ白な霧に覆われています。その霧と、霧に覆われていない境界線で、兵士は一旦、止まりました。

 勇者の神殿からも視た事がありますが、各地に不自然に発生していた、霧と同じような物だと思われます。この霧の発生源は、一体なんなのでしょうか。


「ついたぞ……この中に、グリムダストと、テレット村がある」

「この霧が、グリムダストなんですか?」


 私は、お城を出る時に睨みつけた兵士に、尋ねます。

 彼は、年のころは40程で、歴戦の戦士を思わせる傷を、頬に作った兵士です。肌は茶色く、日焼けした後が見えますね。おじさんには興味ありませんが、渋くて、ダンディな感じです。


「いや。この霧は、グリムダストから溢れる、蒸気のような物だ。グリムダストは、この霧の中心地にある」

「では、行きましょう」

「……」


 私の提案に、兵士たちは戸惑います。緊張して、震えているようですね。屈強の男たちが、なんと情けない。でも、それほどまでに、グリムダストという存在が、彼らにとって怖い存在だという事ですね。


「……行くぞ」


 先導して、馬を操って霧の中へと入っていったのは、先程話したおじさんです。たいまつに火をつけると、勇ましく中へと進んでいきます。

 私も、それに続いて霧の中へと入りました。深い霧は、視界が狭く、数メートル先の物も見えないような状況です。夕暮れの光は遮られ、薄暗い、まるで死の世界のような光景が、広がっています。


「──もう、魔物は出るのですか?」


 私は、緊張して何もしゃべらない、おじさん兵士に、そう話しかけました。


「で、出ない、はずだ。グリムダストは、できたばかりで、まだこの地に根付いていないからな。魔物たちは、グリムダストが完全に地に根付いてから、外へと出てくる。ある勇者の見解によると、この霧に、魔物たちにとって過ごしやすい、微量な魔力が宿っていて、魔物たちはこの魔力が宿っている場所でしか、生きていけないとかという話もある。なので、魔物たちは、例えグリムダストが根付いても、この霧の外に出る事はない」

「なるほど。根付くまでは安全で、根付いてしまったら、この霧の中にも魔物が出現するようになるのですね。ちなみに、それまでの期間はどれくらいなのですか?」

「およそ、二週間ほどだと言われている。だが、場合による。もっと早かった事もあれば、遅い事もあった。二週間とは、あくまで目安だ。ちなみに今は、出現からおよそ三日が経過している」

「……早く、見てみたいですね。その、グリムダストを」


 兵士たちは、信じられないと言った様子で、私を見て来ます。この人たちが恐れる物を、私は恐れない。それは、私がグリムダストという存在を、まだ知らないからです。見たら、泣いて逃げ出してしまうかもしれません。

 魔物とかいう、恐ろしい化け物が、中で待ち受けているんでしょう?私だって、普通の女の子として、人並みに恐怖は感じますよ。

 でも、まずは視てみたい。私に課せられた、グリムダストの攻略というものが、どういう物なのか。中に、何が待ち受けるのか。全ては、視て、それからです。


「む。止まれ」


 霧の中に、光を発見して、先導していた兵士の馬が止まりました。

 霧の中に浮かび上がった光は、こちらへと向かってきます。兵士のもつ、たいまつを頼りにして歩いてくるようです。

 一応警戒する兵士たちですが、その正体は、たいまつを持った人でした。


「──兵隊さんか!?」


 現れたのは、初老のおじいさんです。白髪交じりの髪に、白い髭。それから、地味なズボンとシャツ。でも、年のわりにガタイが良くて、身長は高めですね。更に、シャツには筋肉が浮かび上がっていますし、腕もとても太いです。


「村長!」

「……レグか!久しいな!」

「大変な事になりましたね。まさか、テレット村にグリムダストが出現するとは……」

「まったくだな……」

「ですが、気を落とさないでください。勇者様を、お連れしました!」


 このおじさん兵士は、レグというみたいですね。そのレグさんに紹介されて、私は村長さんと呼ばれたおじいさんに、軽く会釈をしておきます。


「ま、まさか、こんな田舎に、勇者様が!?」


 村長さんは、目を見張って私を見て来ます。それほどまでに、信じられない事のようですね。勇者が、この地に出現したグリムダストを、攻略しに来たことが。何か、派遣の基準でもあるのでしょうか。


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