白い世界
私は確かに、死にました。それなのに、気づけば真っ白な空間にいて、真っ白なイスに座っています。上を見上げると、星空のような物が見えました。輝く星々がキレイで、目を奪われてしまいます。
私、星って好きなんですよ。全然詳しくはないけれど、見ていると心が和んで、落ち着きます。
「──桐山 エイミさん」
星を眺めていた私は、私の名を呼ばれ、その視線を下ろしました。驚きました。そこには、真っ白な女性が、私と同じ真っ白なイスに、座っていたんです。
先ほどは、そこに誰もいなかったはずです。それが、どうして目の前に、人がいるんでしょうか。
真っ白な、髪。真っ白な、肌。真っ白な、服。全てが真っ白で、風景と同化していて、それで見逃してしまったんでしょうか。
「……どちら様でしょうか。私、貴女のようなキレイな知り合いは、いなかったはずだけど」
本当に、目を見張るような、キレイな人です。よく整いすぎた顔立ちに、高い鼻。小さくピンク色の唇に、大きな白い瞳。飾り気を感じさせない髪は、イスに座って頭が低くなったことにより、後ろで地面についてしまっています。
身を纏う白い服は、修道服のようなデザインで、生地が、そういう生地なのでしょう。身体のラインを浮かび上がらせています。しかし、下品さを感じさせる事はありません。むしろ、その完璧な顔立ちと、スタイルのよさから、神々しささえも、感じさせられます。
「初めまして、になります。私の名は、ラスティライズ。神です」
「神」
「はい」
ニコリと返事をし、彼女は言い切ります。確かに、神々しいとは思いました。しかし、目の前にいる人物が、自分の事を神だと名乗ったら、皆さんはどう思いますか?私は、コイツ、ヤバイ奴だなと思います。
ですが、今自分が置かれている状況を考えれば、それもあり得るのかもしれません。
だって、私死んでますからね。自分の頭を打ち抜き、銃弾が一瞬にして、頭を通り抜けたあの感触を、私は覚えています。
だったら、閻魔様が出てきて、私の地獄行きを言い渡してくる方が自然ですが、神様ですか。
閻魔様ではないのなら、それじゃあやっぱり、あり得ませんね。残った私の意識が、コレを見させているだけだと考えるのが、妥当じゃないでしょうか。
「ここは、どちらでしょうか。私、死んだはずなのだけど、気づいたらこんな所にいて……」
「ここは、冥府の世界と言えば、分かりやすいでしょうか」
「冥府、ですか。それではやはり、貴女は閻魔様なのでは?」
「違いますよ。閻魔様なんて、存在しません。死者の魂を裁く権利など、誰にもありませんから。死んだ者の魂は、役目を終えて浄化されるか、生まれ変わるか……。ただ、それだけです」
閻魔様、いないんですね。少し、残念です。地獄で続く、苦しみの日々を想像していたのに……楽しみが一つ、失われてしまいました。
「どうして、残念そうなんですか?」
「……いえ。それで、神様が私に、何か御用でしょうか」
「はい。御用があって、貴女の前に姿を現わしました。端的に言いますと、桐山 エイミさん。貴女には、転生する権利が与えられました。ぱちぱちぱち」
自分で手を叩きながら、口で擬音を表現し、大袈裟に場を盛り上げようとします。しかし、この場には、私と自称神様である、ラスティライズさんしかいません。盛り上がりには、かなり欠いています。
「転生、ですか。これはまた、突拍子のないお話ですね。本当に、そんな事ができるんですか?」
「できますよー。だって私、神様ですからね」
胸を張るラスティライズさんは、子供っぽくて、可愛らしい方のようです。神様と言うには、あまりにもおちゃめで、幼すぎる気がしますね。精神的に、です。
身体の方は、立派な大人ですよ。恐らく下に何もつけていないと思われる胸に、私は引き込まれるような魅力を感じます。今すぐにでもむしゃぶりつきたくなるような衝動を抑えつつ、本題に戻りましょう。
「それは、素晴らしいですね。では、お願いしてもよろしいでしょうか」
「……」
できるというから、お願いしてみたら、ラスティライズさんは頬を膨らませながら、私を睨みつけて来ました。
「……どうしました?」
「信じていませんよね?転生が出来るという事を」
「……はい」
責めるような目で言われ、私は正直に答えました。
だって、いきなり転生できるとか言われて、信じる人がいますか?少なくとも、私は信じる事ができません。怪しい宗教じゃないかとか、詐欺師じゃないかとか、とにかく騙されていると考えてしまいます。
そもそもですが、自分の事を神だと自己紹介した時点で、そちらもどうかと思います。本気で言っているのだとしたら、頭がおかしい人。本気ではなく、そう思い込もうとしているのなら、頭が可愛そうな人です。
しかしながら、自分が死んでしまったのは、確信しています。私は自分が死ぬ時の感覚を、完璧に覚えていますからね。そんな、死んだ私がいるこの場所が、本当に冥府の世界なのだとすると、本当に僅かにですが、この方が神様と言う可能性も、ない事もないのではないか。そんな僅かながらの可能性も、考えなくもなくはないです。
「はぁ。まぁいいです。今は信じてくれなくても、それは貴女を転生させる事ができたら、おのずと信じてもらえる事ですからね」
そう言って、ラスティライズさんは怪しい笑みを浮かべ、私を見て来ました。
本当にできたら、それは信じざるを得ないですから、そう事になります。