表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/98

認めておかなければいけない事


 お城の立派な門の前には、馬に乗るツカサさんと、ミコトさんとイズミさんがいます。それと、護衛の兵士も数名、馬に乗っていますね。彼らは、食料などの荷物持ちや、戦闘要員に、怪我をした時の治療要員に分かれて、それぞれその関連の荷物を、馬に背負わせています。

 そんな兵士に紛れて、同じく馬に荷物を背負わせる、少女の姿を発見しました。

 黒髪の、少女です。飾り気のない髪を、だらしなく伸ばし切っていて、目を覆ってしまっています。その髪の奥に見える瞳は、全てを諦めたような、とても暗い目です。どちらかと言うと、やや小柄な身体には似合わない、大きなリュックを背負い、彼女は馬に乗っているんです。服は、地味目な軽装の鎧。武器は、持っていません。


「行くぞ!」


 ツカサさんは馬に乗り込むと、すぐにそう合図をして、全員を引き連れて出発してしまいました。荷物のチェックもしないんですね。せっかちな人です。

 おかげで、黒髪のあの子に関して、聞く間もありません。ツカサさんに続いて、馬に乗っていた全員が、あっという間に走り去っていってしまいました。

 残された私は、どうして、勇者ではない女の子を一緒に連れて行くのかとか、どうして彼女は、あんなに大きな荷物を背負わされているのかとか、どうして重厚な首輪を、その細い首に嵌められているのかとか、どうして私たちと同じような顔つきをしているのかとか、色々な疑問が浮かび上がります。

 後で、タニャに聞いてみましょう。


「──確かに、いますね。私も、いつも不思議に思いながら、見ていました」


 皆さんをお見送りして、その後部屋に戻ると、タニャが早速訪れたので、私は聞いてみました。

 でも、答えは知らないと言う回答です。


「そう。あの子は、いつも一緒に出かけて行くの?」

「はい。私が記憶する限りでは、毎回そうだと思います」

「ふぅん」


 あの子の待遇から察するに、勇者ではない。でも、グリムダストの攻略に駆り出される。たくさんの荷物を持たされるだけで、武器も持たずについていく……。オマケに、その容姿は私たちの世界。私たちの国の人の物です。何かがない訳がないですね。


「あ、あの、エイミ様。手が……」

「うん?」


 私の手は、ベッドのシーツを交換しようとしてくれている、タニャの手に重ねられています。指の間に、私の指をいれこんで、しっかりと握っているので、離す事はできません。


「気にしないで。私も、一緒に手を動かすから、自分の思うように動かして」

「……」


 顔を、耳まで赤くするタニャは、それ以上何も言ってこず、私と手を重ねたまま、手を動かし始めます。とても、やりにくそうですね。でも、私はタニャとこうして手を繋いでいたいので、離してあげません。

 ……さて。この場で一つ、認めておかなければいけない事があります。

 一晩明け、私が今いるこの世界は、本物だと言う実感が湧いてやって来ました。こうしてタニャと話したり、ミコトさんや、イズミさんと話をする限り、どうやら本当に、召喚という技術があり、私は召喚されてこの世界へとやってきた、という事になっています。

 異世界なんて、存在するかどうかも怪しいところでしたが、事ここに至って、認めるしかありません。ラスティライズさんは、本当に私を異世界に転生させてみせたのです。とすると、彼女はやはり、神様……。

 お庭で試した、枯凋の能力も、本物でした。本当に、私が手で触れたお花が枯れて、腐ってしまったんです。

 タニャと握っている、この手で、あのお花を枯らせたんですよ。タニャが、その事を知ったら、慌てて私から手を離すでしょうか。


「──エイミ様!」


 とそこへ、勢いよくお部屋に入ってくる人がいました。ノックもなく入って来たのは気に入りませんが、女の子だったので許します。

 扉を開いたのは、金髪縦ロールの、ドレス姿の女の子……ガラティアさんです。

 昨日は、睨まれるばかりで、嫌われたのかと心配していましたが、こうして訪れてくれるという事は、違うという事でしょうか。私も、ガラティアさんの事、好きですよ。見た目は凄く美しくて、好みのタイプです。


「どうかしましたか、ガラティアさん」

「緊急の案件があるとの事で、国王様がエイミ様をお呼びです!」

「……またですか」


 仕方がありません。私は、タニャの手から、そっと自分の手を離すと、ガラティアさんの待つ、お部屋の出口へと歩み寄ります。


「行ってくるわね、タニャ」

「は、はい。いってらっしゃいませ……」

「……」


 私にそう挨拶をしてくれるタニャに向ける、ガラティアさんの視線は、とても冷たい物でした。私が、そんな目を見逃すとでも思っているのでしょうか。横を通り過ぎて、もう顔を見られる事はないとでも思ったのでしょうかね。ハッキリ言って、私にその目を向けるのならまだしも、タニャのような可愛い子に対して、そんな目を向けられるのは不快です。特に、タニャはもう、私専属のメイドさんなんですから、私の物が蔑まされるのを見ると、イラっとします。


「ガラティアさん。急ぐのでは?」

「ええ、少し、急ぎますね」


 ガラティアさんはそう言うと、私を先導して、速足で歩きだしました。それについて、再び訪れたのは、国王の待つ謁見の間です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ