何かが違う
ミコトさんは、男勝りに見えますが、美人さんです。ですから、そんな格好をして堂々と歩く姿は、男性からしたら、さぞかし目に毒でしょうね。
同性の私ですら、その格好には、ついつい目を向けてしまいます。特に、お胸に。
「おはようございます。ミコトさん」
「おはよう。探してたんだ」
私を、探していた?それはつまり、私に御用があるという事ですよね。何でしょうか。もしかして、私に一目惚れをしてしまったとかでしょうか。
「同じ勇者として、ゆっくり話をしてみたくてな。私たちは今後、共に戦う仲間な訳だし、な」
私の期待通りのお話ではありませんでした。しかし、それには私も賛成です。共に戦うのなら、互いの事を知っておかなければいけません。好みのタイプや、身体の事とか、弱点とか……。
「私も、そう思っていました」
ニコリと笑ってそう返すと、ミコトさんもニコリと笑い返してくれました。
「ミコトさん。走ったら危ないですよー」
更に、ミコトさんの後を追うように、イズミさんがやってきました。
こちらは、昨日も着ていた、シスター風の服ですね。しっかりと着ていて、少し残念です。ハードルを上げた、ミコトさんのせいですね。
それにしても、相変わらずお胸の大きな人で、その存在を強調するように、弾ませながらやってきました。
「おはようございます。イズミさん」
「おはようございます」
まるで、女神のような笑顔で、イズミさんは挨拶を返してくれました。
やっぱり2人とも、凄く美人さんです。元の世界でも、さぞかしモテた事でしょう。世の男が放っておかなかったはずですよ。もちろん、私も放っておかなかったはずです。
「そ、それでは、私はこれで──」
「いいのよ。一緒にいて、タニャ」
私は、立ち去ろうとするタニャの手を掴み、止めました。
「いいですよね、ミコトさん。イズミさん」
そんな事を、2人が許可する訳がないとでも思っているんでしょう。タニャは、私の手を振り払って去ろうとしますが、私はしっかりと握って、離しません。
「もちろん、構わない」
「ええ、どうぞ。ただ、つまらないお話で退屈じゃないかしら……」
やっぱり、お2人は私と同じ世界からやってきた者として、タニャに対する差別意識はないようです。
「一緒にいてくれるわよね」
「……は、はい。では、お傍にいさせてもらいます」
タニャは、2人が許可してくれたことで、立ち去る事を諦めました。そして、私の隣に並んで立ちます。掴んでいた手はそのままにして、手を繋いでいると、弱弱しくですが、タニャが握り返してくれました。
小さくて、可愛い手を感じつつ、私はミコトさんとイズミさんに、向き直ります。
「それで、どのようなお話をしましょうか」
「うーん……まずは、能力に関して、とか」
ミコトさんはそう言うと、手に持った弓を、私に突き出してきました。
「私は、弓の名手の能力をうけた。遠く離れた物を正確に打ち抜き、時には岩をも砕く威力の矢を放つ能力だ。矢は、必要ない。構えると、魔法の矢を出現させる事ができて、それを放つ事で、攻撃する事ができる」
ミコトさんは、私の目の前で、実践して弓を構えて見せてくれました。言った通りに、その手に白く光り輝く矢が出現しました。神々しい光は、まるで雲の間から注ぐ、太陽の光。エンジェルラダーのようです。
「私は、この杖により、仲間を癒す力を授かりました。治癒魔法の能力を、授かったんですよ。また、敵から身を守るための、バリアを張ったりする事もできます。基本的に、守ったり癒したりする、援護を得意としています。それ以外では、あまりお役にたてませんけどね……」
困ったように言うイズミさんですが、それは素晴らしい事です。援護をする者がいなければ、安心して戦えませんからね。
「そんな事はない。イズミは、私たちを守り、幾度となく窮地を救ってくれた。イズミがいてくれたからこそ、私とツカサは生きて来られたんだ」
「私も、なくてはならない、素晴らしい能力だと思います」
「は、はい、次。エイミさんの能力の番です」
恥ずかしくなってしまったのか、イズミさんは強制的に話を変えて、私の能力について尋ねて来ました。
「……その前に、お二人にお聞きしたい事があるのですが。お二人は、誰から能力を授かったのですか?」
「誰から、というか。私は、この世界に召喚された時、自然と頭の中に浮かび上がって来たんだ」
「私も同じです。ミコトさんと、ツカサさんと共にこの世界に召喚され、自分に宿った能力の事を、自然と思い出す事ができました。……エイミさんは、違うのですか?」
「……いえ。同じですよ。私も、そうして思いついたんです」
この2人と私は、何かが違う。私は、ラスティライズさんから能力を授けられ、ラスティライズさんによって、この世界に送られた。召喚されたと、ミコトさんも、イズミさんも、私を召喚した者達も思っているけど、2人は実際にそうなのかもしれない。でも、私は違う。送られたんです。神である、ラスティライズさんの手によって。
私はラスティライズさんの存在を、なんとなく隠すため、話を合わせる事にしました。彼女の事は、口に出したら説明しなければいけなくなりますからね。それは面倒です。
「それで、エイミさんの能力は──」
「ゆ、勇者様、こちらにおられましたか!三名とも、おられますね。至急、謁見の間へとおいでください!緊急の案件です!」
話が戻りかけた所に、大慌てで鎧を身に纏った兵士がやってきました。息を切らして、私たちを探してそこら中を走り回っていた様子が伺えます。ただ事ではありませんね。
「分かった。すぐに行く。イズミ。エイミさん」
「はい」
「……」
イズミさんは返事をし、私は黙って頷きます。それから、名残惜しいですが、タニャの手を離しました。
「行ってくるわね。タニャ」
「はい。いってらっしゃい」
私は速足の兵士に合わせて歩き出し、タニャに背を向けました。ミコトさんと、イズミさんもそれに続きます。
「……あれ?お花が……」
去り際に、そう呟くタニャの声が聞こえて来ました。先ほど、私が触れていたお花が、茶色く萎み、枯れているのに気づいたようです。
私はそれに、ニヤリと笑いながら、足早に立ち去ります。謁見の間に、急がないとけいませんからね。