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良い朝


 この世界にやってきて、1日が経過しました。

 国王が言っていた通り、私たち召喚された勇者の待遇は、破格の物でした。あてがわれたお部屋は広いし、お城の上層にあって眺めが良く、しかもお風呂つきで、好きな時に好きなだけお風呂に入る事ができます。でも昨日は、お城の大浴場で、この部屋よりも広いお風呂に、たった一人で入れてもらう事ができたんですよ。しかも、美人のメイドさんがお世話をしてくれて、身体を洗ってくれました。まるで、お姫様のような気分でしたね。でも、さすがに少し恥ずかしかったので、今後は控えようと思っています。夢のようではありましたが、落ち着いて入る事ができませんでしたからね。

 話は変わり、私にあてがわれた部屋の窓から見える景色は、それはそれは壮大です。赤い屋根の家々が立ち並ぶ城下町は、大勢の人で賑わっていて、活気を感じさせます。ただでさえ、このお城が建っている場所は街よりも若干高いようで、お城の背に加え、そういう要素もあってか遠くまで見る事ができます。


「……良い朝ね」


 こんなに気持ちの良い朝は、久しぶり。一晩寝ていた大きなベッドの布団はふかふかだし、とても良い匂いに包まれながら、眠る事ができました。それに、窓から差し込む太陽の光に、美味しい空気は、私を気持ちよく寝ざめさせてくれて、清々しい気分です。

 窓から身を乗り出し、そんな気分を満喫していると、扉を控えめにノックする音が響きました。


「どうぞ」

「……失礼します。お目覚めでしたか」


 私が返事をすると、部屋に入って来たのは、メイド服姿の女性です。黒のワンピースの上から、フリルのついた、白のエプロンをかぶせて着た、シンプルなメイド服です。黒色がかった赤毛を帽子の中にしまい、髪の毛が邪魔にならないようにした、可愛らしい女性。ややほっそりとしたその身体は、あまり発育がよくありません。胸は小さいし、お尻も小さいです。でも、コレはコレで全然アリです。年は、私と同じくらいだと思います。それなのに、メイドとしてこのお城で働いているんですよ。若いのに、大変ですよね。

 でも、そんな若くて可愛い彼女に、私は身のお世話をしていただく事になり、とても幸せです。


「ええ。今起きた所よ」

「こちらに、朝食をお持ち致しました。それから、お召し物の準備ができましたので、後程そちらにお着替えください」

「分かったわ。ありがとう、タニャ」


 彼女の名は、タニャと言います。

 タニャが転がして来た台車の上には、ホコリよけのフードカバーの被せられた、ご飯が乗せられています。美味しそうな匂いは、その中からしてくるみたいですね。昨日のご飯も美味しかったので、楽しみです。

 お部屋の窓際にある机の上に、ご飯を並べてくれるタニャを、近くに立って眺めながら、私はこの幸せを噛み締めます。

 本当に、可愛い子。可愛くて、可愛くて……ちょっとだけ脆そうだけど、でも可愛い。そんな子に、身の回りのお世話をしてもらえるだなんて、本当に幸せです。


「え、エイミ様。集中できませんので、あまり見ないでください……」

「ふふ。ごめんなさい」


 私は軽く謝りつつ、タニャが食事を並べてくれている机の傍に置かれた、イスに座ります。

 そして、やっぱり準備をしてくれるタニャを眺めて、楽しみます。


「ど、どうぞ。朝食の、パンケーキとビスケットに、ジャムと蜂蜜もご用意いたしました。お好きにかけてお召し上がりください」


 朝食は、甘い系ですか……。

 朝にしては、とても豪華で美味しそうな物ですが、早くもご飯が恋しくなってきましたね。私、朝はいつも、納豆ご飯に、お味噌汁派だったんです。


「……美味しいわ。ありがとう、タニャ」


 しかし、文句を言える立場にはありません。せっかくタニャが用意してくれたんですもの。私は、ナイフとフォークを使い、それを口に運びます。口の中には、心地よい甘みが広がり、やはり美味しいです。

 そうしていると、タニャがコップに紅茶を淹れてくれて、喉の渇きを癒します。上品な苦みと、ほんのりとした甘みが、口の中に広がります。飲んだことのない、銘柄ですね。紅茶自体は元の世界にもありましたが、この味の物は、私が飲んできた限りでは、ありません。


「食後に、デザートもご用意できます」


 しばし時間が過ぎ、ご飯を食べ終わった所で、タニャがそう提案をしてきました。


「それは、遠慮しておくわ。これ以上食べたら、太ってしまうもの」


 パンケーキ自体ですら、かなりの量です。これに加えて更に食べていたら、今言った通り、太ってしまいます。

 私はあまり太らない体質で、食べようと思えば食べられますが、朝からそんなに食べる気分にはなれません。だから、断っておきました。


「分かりました。では、食器をお片付けしますね」


 淡々と言うと、タニャは食器をまとめて台車に乗せて、部屋を出ていきます。私は、名残惜しく思いながらそれを見送ると、急いで身支度を始めます。

 歯を磨き、髪をとかして整え、顔を洗いました。この世界に、水道はありません。ですが、水道のような物があり、それから水が出るので、部屋に設置された洗面台で、全てが事すみます。

 仕組みは、全く分かりません。どこにも繋がっていない蛇口から、手を触れただけでお水が出るんですから、科学では証明できない、何かの力が働いているんでしょうね。さすがは、異世界です。

 そうして身支度を済ました私は、タニャを追いかけるべく、お部屋を飛び出しました。服装は、支給されたパジャマ姿のままですが、別に良いですよね。


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