一目惚れ
今訪れた3名は、間違いなく私と同郷です。名前を聞いて、確信を持てました。
「ありがたきお言葉を、ありがとうございます。国王様のお役にたて、光栄です」
そう言葉を返したのは、ツカサと呼ばれた男です。国王に向け、頭を軽く下げながら言葉を返し、自信たっぷりに笑っています。
「ツカサ、やったな。凄い事を成し遂げて、お前はやっぱり、凄い奴だよ」
勇者、ツカサと呼ばれた、青い鎧の男に、ヴァンフットさんが親し気に話しかけました。
「凄いのは、オレだけじゃない。オレには、二人の心強い味方がいるからな。一人じゃ成し遂げる事ができないかもしれないが、この二人が傍にいてくれれば、無敵だよ」
「……まったく、こんな美少女を二人も侍らせて、羨ましいよ」
そういうと、ヴァンフットさんはツカサさんに対し、腕を突き出しました。それに、ツカサさんも同じように腕を突き出して返すと、互いの腕同士がぶつかり合う形となります。
お互いに、ニヤリと笑いながら返す2人を見て、残りの2人の女性も、微笑ましそうに笑っています。ガラティアさんも、ですね。
私はそんな光景を、横で眺めているんですが、一体何を見せられているんでしょうか。青春の1ページですか?正直言って、吐き気を催します。
「挨拶はここまでにして、本題に入ろう。エイミさん」
私は、突然ヴァンフットさんに名を呼ばれ、不機嫌オーラを直します。一斉に、勇者と呼ばれた3名の視線が、私へと注がれました。紹介を受けた私は、一歩前に出て、出来るだけニコやかに笑いながら、愛想をよくします。
「そ、その服、もしかして……!」
私の服に、早速食いついたのは、ポニーテールの少女です。名前は、ミコトさんか、イズミさん。どちらかは分かりませんが、私の服装を見て反応するという事は、やはりそう言う事です。
「新たに召喚された、勇者エイミさんです」
「桐山 エイミ、と言います。よろしくお願いします」
「やっぱり!」
「おお……!オレ達の、新たな仲間か!」
「それは素晴らしいですね!」
軽く自己紹介をすると、口々に、私を歓迎してくれる、勇者の先輩3名です。男はどうでもいいですけど、女性2人に歓迎されると、とても嬉しくなってしまいます。
「その通り。だけど、この方を君たちの仲間に加えるのは、ちょっと待ってほしい。父上から武器を授かった後で申し訳ないが、やはり私は、この気持ちを抑える事ができそうもない」
「どうしたんだ、ヴァン。改まって……」
「勝手かもしれないが、私はエイミさんに、一目惚れをした。彼女を、勇者ではなく、私の妻として迎え入れたいと思っている!」
突然の、ヴァンフットさんの宣言に、皆が固まりました。一瞬、本当に時が止まったのではないかと言うくらい、静まり返ります。
「ヴァンフット様……!」
ヴァンフットさんの婚約者であるガラティアさんが、慄いていますよ。そりゃそうですよね。婚約者が目の前で、別の女に告白しだしたんですから。
「だ、ダメです、ヴァンフット様!貴方様は、この国の王子であらせられるお方!」
「そうですぞ!どこの世界の、何の種を持つかも分からぬ娘と結婚など、許される事ではありません!」
「由緒正しき家柄の者と結婚し、優秀な子孫を残すのが、貴方の役目です!お考え直しください!」
一人が叫んだのを機に、周囲は阿鼻叫喚の、怒声の嵐となりました。中には、これら以上に過激な、私たち異世界から召喚されし者へ対する、差別と取れるような物もあります。
さすがに、聞いていて居心地が悪くなったのか、ニコやかだったツカサさんの表情が曇りだします。
「黙れ!」
それを聞いて怒りを露にしたのは、ヴァンフットさんでした。
「異世界が、何だと言うのだ!この世界を救うために戦ってくれている方たちへの侮辱は、彼らへの権力を認めた国王への侮辱と同義!今、この方たちに対する差別的な発言をした者は、名乗り出ろ!今この場で、全員処刑してやる!また、その家族も同罪として、奴隷身分に落とす!」
本気で怒った様子のヴァンフットさんの肩を、ツカサさんが叩きました。
「ありがとう、ヴァン。でも、そこまでする必要はない。オレ達の活躍が、まだまだ足りないから、こんな事を言われるんだ。もっと活躍をすれば、差別はこの先きっと、なくなるだろう」
私たちを庇って怒ってくれたヴァンフットさんに、ツカサさんはニコやかに笑いかけながら、お礼を言います。
私も、怒っていただいたのはありがたいと思いますが、でもいくら活躍をしたって、この人たちの根底にある差別意識は、絶対に消える事はないと思います。差別とは、そういう物です。
「……ヴァンよ。今の話は、本気か」
国王が、静かにヴァンフットさんに尋ねました。
「エイミさんの事ですか?勿論、本気ですよ」
「婚約者である、ガラティアはどうする」
「婚約を、破棄します。その上で、エイミさんを妻として迎え入れます」
呆気なく言い放ったヴァンフットさんの言葉に、ガラティアさんが膝から崩れ落ちました。心配になって肩を貸そうとしましたが、近寄ろうとした私を、凄い形相で私を睨みつけて来たので、やめておきました。
私は別に、何もしていないんですけどね。むしろ、ヴァンフットさんが勝手に言っているだけの事であって、私は受けるつもりはありません。だから、怒るのなら私ではなく、ヴァンフットさんに怒ってほしいです。
「しかし、勇者エイミは、勇者たちの新たな仲間として、迎え入れるために呼ばれた者だ。この先の戦いを考えれば、休養時間を確保するためにも、増員は必要だ。そう考え、私たちは勇者の召喚を続けている」
「国王様。オレたちは、大丈夫です。これまでも、この三人で上手くやってきましたし、現状では全く問題ありません。なので、ヴァンがそう言うのなら、どうか願いを聞いてやってください」
「……すまん、ツカサ」
「気にするな」
小声で言う2人の会話ですが、その前に、ちょっと考えてみてください。私の意思が、どこにもないんですけど。どうして、私抜きでこの人たちは話を続けようとするんですか?