6.お話しましょう(少女視点)
翌日。
天気は晴天。気温は過ごしやすい。生徒数の少ない朝の廊下。
そして、私の心臓は相変わらずうるさい……っ!
先日の話通り、大辺くんが連絡の肩代わりをしてくれているから、私は自身が在籍する教室の前で待っているという紫瞳くんに会いに行くだけ……。
違う、だけじゃないよ!全然『だけ』じゃないよぅ!!
それこそが、私にとってはとんでもないことなんだもん!紫瞳くんとは二年で同じクラスになって以来、ほとんど話してないし……先生のノートの返却を手伝った時に一言話せたことを珂月ちゃんに報告したらすごく冷めた眼差しを向けられたし……!
じ、時間は……まだ大丈夫だよね。
各部活動の朝練習が始まる前よりも早い時間の待ち合わせ……大辺くんは他の人に聞かれることがないためって言ってたけど……その情報が怖いよぉ!!何言われちゃうの私……!?
うぅ、落ち着くのよ夢有亜紀……!心を落ち着かせるために、あと絶対遅れないためにこうして風紀委員の教室にいるんだから……!時間は限られてる、有効活用しないと!
ね、寝ぐせとか大丈夫かな!?朝ごはんはちゃんと食べたっけ……!?
「……亜紀、ちょっと落ち着いて」
「珂月ちゃん!今日の服装ってこれで良かったかな!?もっと大胆な方が良かったかな!?」
「だから落ち着け。学校には制服で来るのよ」
今、風紀委員の教室には私の他に、珂月ちゃんがいる。
というのも、先日の私の慌てっぷりを心配してくれたのか、彼女から付き添ってくれると言ってくれたのだ。
今は女の子がしちゃいけないような顔でブラックコーヒーを飲んでいる。眠気覚ましと砂糖を吐かないためって言ってたけど……どういう意味なんだろう?
う~……話ってなんだろう……大辺くんも教えてくれなかったし、悪いことではないって言ってたけど……はっ!もしかして……!
「私が知らない間に、すごい迷惑をかけちゃったんじゃ……私、土下座してくる!」
「待て待て待て!ホント落ち着きなさいって!あの歩く性欲野郎も言ってたけど、悪いようにはならないわよ……迷惑かけたのは間違ってないと思うけど」
最後にボソリと呟いたみたいだったけど、聞こえなかった。
珂月ちゃんはそう言ってくれるけど、やっぱり不安だよ……。
「はぁ……とりあえず落ち着いて。そんなに慌ててたら、余計なトラブルの基だし、話を拗らせるだけ。それで後悔するのは亜紀なのよ?」
「あう……」
「不安なのは分かる。それでも大切なのは、ちゃんと話してくること!大丈夫よ、紫瞳は変わり者だけど、誠実な奴だし……なにより、亜紀が好きになった人なんだから」
「珂月ちゃん……」
珂月ちゃんは出会ったときから何処か大人びていたけど、今はすごく達観したような、頼れるお姉さんのような印象を受けた。
私の親友。いつも仲良くしてくれて、話を聞いてくれて……今日も朝早くから一緒にいてくれて、今はこうして優しく語りかけてくれている。
珂月ちゃんがこんなにも支えてくれているんだ……!
その応援に答えなくて、どうするの私!!
「……ありがとう珂月ちゃん。私、行ってくるね!」
「ん、頑張れ」
珂月ちゃんの応援を背に、風紀委員の教室を出る。
そして、深呼吸……よし!!
「……行こう!」