19.歓迎会をしましょう
「聞いたぞ楠~?なんか夢有ととんでもないことになってるみたいだな?」
「みたいだな~?」
「別に何もないって……」
大波乱の登校時間が終わり、色々と授業を受けて憩いの昼休憩となった訳だが……やはり真人が突っ込んできた。
もう見えなくても分かる、絶対にニヤニヤ笑ってるよこの子……だってもう声が笑ってるし。あと桂音の悪ノリがウザいです。
因みに夢有は今クラスにはいないらしい。
「何もないはずないだろ~。何せあの夢有が、『好きな人がいます』って言って告白を断ったそうじゃないか……こうやってお前の腕を抱きながらよ!」
「だあ、止めろ!再現するんじゃない、あとその油だらけの手で触るな!」
ああもうベタベタする!
というかそのどでかい骨付き肉は何処から出したの?君の学生バックほどの大きさがあるけど、まさかそれだけ持ってきて、教材が全く入ってないとかないよね?
何しに学校に来てるのかな?
……それは置いておいて、今朝のあれのせいで俺への注目がさらに増してしまったらしい。相も変わらず、視力の低い俺にはよく分からないのだが。
結局あの後は委員長を引っ張ってきたジャージ先生が場を収めて、どうにかその場は事なきを得た……その場は、だ。
当然、夢有が俺の腕を抱いて告白を断るという事実は消えるはずもなく、思春期真っ盛りのこの高校に瞬く間に話題として広まってしまったらしい。真人も友人から聞いたというし、これはもう止められない。
結果、一躍俺は有名人だ。あはは、うれしーなー。
まあ、その事実が広まるのは別にいい。小学・中学時代のトラウマダメージが尋常ではないが、それは視力のない今の俺ならば関係ないことだ。
何よりも否定したいのは……
「だから言ったろ?夢有は楠が好きなんじゃないかってさ」
「ありえない」
これだ。
夢有の好きな人とやらが、俺なのではないかという話である。
「そうは言っても、その断り文句を言うときにしどっちの腕を抱いたんでしょ?これで違うって方が無理あるんじゃ……」
「あの場に知り合いが俺しかいなかった。相手の男も興奮気味だったし、怖くてとっさに掴んだ可能性もある」
夢有はあの時、言ってしまえば味方が俺しかいない状況だった。俺しか頼れないなら、そうする他なかったと考えることもできる。
なのにこいつらときたら、すぐ恋愛方向に話を持っていく。
そして何より。何よりも、その可能性を否定できる要素がある。
「俺が好かれる要素が何処にある?こんな視力が低くて日常生活すら危ういのに、矯正器具を身に着けない変人を好む理由がさっぱりだろうが」
「楠……」
「しどっち……」
二人の呟きが聞こえる。しかし俺は嫌みで言ってるつもりはないし、悲観的で卑屈であるとも思っていない。これは客観的に見た事実のはずだ。
しかもそれが、学年一の美少女の夢有ときた。ますます俺を恋愛対象とする理由がない。話したこともほとんどない、尚更だ。
「ねぇしどっち……それなら、しどっちとご飯食べたり、話したり、勉強したりして、楽しいと思ってる私たちはどうなっちゃうの……?」
「……友達の好きと、恋愛の好きは、全くの別物だ」
二人の存在を否定するつもりは毛頭ない。
だからこそ、夢有が俺を好いているなんて根も葉もない噂を到底受け入れられない。
こんな俺が、恋愛関係など持てるはずがないのだ。
「……全く、楠も面倒くさい子だね~。分かった、俺が一肌脱いでやろう!」
「脱がなくていいから」
「遠慮すんなって!第一、この話は悩むまでもない話だぜ。とりあえず今日の風紀委員会には俺も付いていく。何をするかって?それはだな……」
「いや聞いて?人の話」
真人が骨付き肉にかぶりつき、ワイルドにその肉を噛みちぎった。
その反動でめっちゃ油が飛んできた。汚い。
「夢有から直接聞き出すのさ……それとなく、な」
△△△△△△△△△△△△△△△△△△
「あ、お疲れ様!紫瞳くん……と、大辺くん?」
「よっ、お邪魔するぜ」
「邪魔するな、帰れ」
「おいおい大葉。遊びに来たとは限らないだろ?そんな邪険にするなって」
「じゃあ何しに来た」
「遊びに来た」
「帰れ」
何なんだこのやり取りは……君たちもう結婚したら?
「紫瞳くん、どうして大辺くんがここに……?」
「ああ、いや……何と言うか……何と言うんだろ……」
「ふふっ、なーにそれ?変な紫瞳くん♪」
……なんか夢有が上機嫌な感じがする。
何がそんなにハッピーなのか分からないが、この様子から察するに、やはり彼女が俺を好いているなんてことはあり得ないのではなかろうか。
いや、だって仮にもし真人たちが言うように夢有が俺を好いているのだとしたら、今朝のあれは公開告白もいいところのはず。
それなのに、こんなにも普通に接することが出来るのか……?
これは真人が言っていた、それとなく引き出すとやらも必要ない気がしてきたぞ。というか俺も何故真人が付いてきたのか聞かされてないし……余計拗れるのでは……。
よし、帰そう。
大葉と協力すれば何とかなるだろう。
「なぁ真人……」
「おお!大辺くんか!今日はどうした、また骨付き肉が欲しくなったのか?」
「どもっす、委員長!いえ、今日は親友の楠が風紀委員会に入ったということでご挨拶に……」
うわ、仲良さそう。がっしり握手しちゃってるし。
なんか大葉が大人しいと思ったら……というかあの骨付き肉を真人に与えたのはあなたですか。だったらもう少し油の量を減らして下さい。俺の机が油でギトギトなんです。
あの二人相手にして、話が通る気がしねぇ……
「ちょっと紫瞳、何であいつがここに来たのよ。いい加減理由を説明して」
「いや俺も詳しく知らないというか……あいつが付いてくるって聞かなくて」
「ちゃんとしてよ、保護者でしょ」
「誰が保護者だ」
あいつの保護者とかごめん被る。百万円もらっても、ちょっと悩んでから断るわ。
「……二人とも、仲いいんだね。朝の登校の時もそうだったもんね……」
「へ?あ、いやちが……これは違うわよ亜紀!」
「はいはーい、みんな注目!キヨちゃんまだ来てないけど……今日やることを話すぞ!」
いよいよ収拾がつかなくなるかと思ったが、委員長の一声で場が収まる。というかうるさい。風紀委員会室で出す声量ではない。
「今日やることは特になかったからね。いい機会だから、紫瞳くんの歓迎会をやろうと思う!」
「……歓迎会?」
真人と委員長を除いた三人は揃って首を傾げた。
歓迎会も何も、俺はまだ仮入部の段階だったはずだが……
「あ、それはさっき正式な風紀委員として承認したから安心してくれ」
「そんな適当な……」
「それで、歓迎会の内容なんだが、ちょっとした遊びをやろうと思う。その案は今しがた大辺くんに提供してもらった」
やだぁ、この人も話を聞いてくれないわ。
……それよりも、遊び?
真人が提案する遊びとか、嫌な予感しかしない。しかも男女混合だ。大葉に『歩く性欲野郎』と呼ばれている真人が何を言い出すか分かったものではないぞ。
こいつなら王様ゲームとか、ポッ〇ーゲームとか言い出してもおかしくない。
「そう……ツイ〇ターゲームで、親睦を深めよー!」
掲げられたのは、四色の丸記号が規則的に並べられたシートだった。
……夢有から聞き出す云々はどこにいったのかな?




