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16.風紀委員を仮体験しましょう


 風紀委員。


 その名の通り、学内の風紀を正すために集められた学生たちのことだ。

 学園物、とくに恋愛ラブコメなんかだと生徒会の次に名前の挙がる組織ではなかろうか。それで、風紀に厳しいながらもラブコメに発展したり、なんちゃって破廉恥な事態が起きて盛り上がったり。


 ちまみに真人も最初は、そんな破廉恥ハプニングのある風紀委員とサッカー部で迷ったらしい。大葉に敬語で接せられるほどの対立をして辞めたらしいけど。二人の確執はこの時から始まったのだ。

 うん、心底どうでもいいね。


 しかし悲しいかな、現実の風紀委員は影が薄い。何なら存在すらしない学校もあったりする。


 我が校の風紀委員も例に漏れず、活動は地味なものだ。

 まあ、活動自体は登校時から下校時まであるんだけど。


「おはよーござまーす」

「あ、そこで止まってないで早く入って下さいねー。進行妨害になっちゃいますから」


 登校時は他生徒よりも早く入校し、校門で生徒らを迎え入れる。身だしなみは校則に則っているか、校門前でたむろしていないか、自転車登校ならば規定通りに駐輪しているかなどを確かめる。

 

 これだけ聞けば、普通の人なら誰にでも出来そうな内容だ。

 ……普通の人なら、ね。


「ちょっと紫瞳さん、今の人は校章付けてなかったじゃないですか。さらっと通さないで下さい!」


 また清並に怒られちゃいました。

 残念ながら、視力が最低値なのに眼鏡もつけずに生活している人は、普通の人に当てはまらないのよね。

 ……普通じゃないってちょっとカッコいい。今回は普通より下って意味なんだけども。


「……やっぱりこうなる。だから無理だと言ったのに、ジャージ先生ぇ……」

「紫瞳、大丈夫か?」

「大葉。校章なんだが、胸元にデカいワッペンを貼る形式にしないか?その方が、誇り高きこの高校の生徒ですって証明になると思うんだが」

「却下ね。ダサすぎて生徒数が激減するわ」


 だったら代案を出してくれ。あんな小指第一関節ほどの校章が見える訳ないだろう。もっと大胆に主張していこうよ若者よ!

 

「でも何とかやれてるじゃない。初日にしては十分な働きよ」

「そりゃ髪の色とか、夏服か冬服かとか、分かりやすい校則違反ならな。それでも他の四人には劣るって」

「……そうでもないのが悲しいわね」

「は?」


 大葉がため息を吐きながら指さした方を見る。普段の俺ならば、そんなことをされても見えやしないのだが……ここから数歩離れた場所にいる高身長な女子生徒。

 あれは……委員長か?身長が高いから、これまた分かりやすいな。


「どうした見知らぬ少年!顔色が優れないな、せっかくの晴天だ!そんな辛気臭い顔をしていてはもったいないぞ!」

「いや、ちょっと……今色々と悩んでて……」

「悩みか!?どれ、私に話してみろ!吐き出すことで気持ちも軽くなる!とことん付き合おうじゃないか!」


 いや職務放棄ぃ!!


 あの人ナチュラルに校舎に入っていったけど、完全に風紀委員としての仕事を放りだしたよね?しかもその男子生徒、知り合いでもないんでしょ?それで勝手に人生相談始めるとかびっくりなんだけど。


 いや、と言うか止め……!


「ちょっと何ですか、その制服の汚れは。制服の汚れは心の汚れなんですよ?」

「いやぁ、さっきこいつらとふざけてたら汚しちゃって。家に帰ったら洗うんで……」

「そうですか……脱いで下さい」

「……へ?」

「今ここで洗浄して返しますので。ほら脱いで早く!!」

「え、いやちょ、いやぁん!!ズボン引っ張らないでぇっ!?」


 いや公然わいせつぅ!!


 少し首を回してみれば、清並が略奪者のごとく男子学生の制服を剥きにかかっていた。見た目は完全に性的暴行を行う被疑者と被害者のそれ。

 しかも俺の視点だとぼやけて見えるため、自然とモザイクがかかっているから本当にそれっぽい。いやでも、女子高生に男子生徒の服が剥かれる光景か……


 視力低くてよかった。


「またあの子は……仕事熱心なのはいいけど、やり過ぎだって言ってるのに……!」

「止めないとまずいな……と言うか、夢有はどこだ?」

「え……あ!しまった……!」


 何だ?いきなり大葉の声のトーンが一段低くなったんだけど……。

 彼女が向いているであろう方向を見ると、そこは正門から少し敷地内に入った場所。そして、俺から見ても分かるような、異様な人だかりが出来上がっていた。


 ……何だあれ、どう考えても進路妨害だ。


「あれがどうかした?」

「見えないの!?いや、見えないのか……あの中心に亜紀がいるのよ!あの子やたら人気だから、朝の挨拶にかこつけて近づいてくる輩が多くて……いつもは私が隣にいるからああはならないのに、私としたことが……!」


 マジかよ、夢有人気過ぎでしょ。朝の登校時だけであの人だかり……ファンクラブとかもあるんじゃないか?真人が幹部とかやってそう。


 そんな馬鹿なことを考えている間に、静観出来ない規模になりそうだ。

 何事かと興味を持ったのか、足を止めてしまっている生徒もちらほら増え始めている。


「ああもう、キヨちゃんも止めないとだし……!」

「……俺が夢有の方に行く。だから清並は頼むよ」

「へ?でも……」


 何故だか俺を敵視している清並が言うことを素直に聞いてくれるとは思えない。むしろより荒れそう。

 だったら彼女は大葉に任せて、俺が夢有のヘルプに向かった方が穏便に済みそうだ。

 

「いや、あんたが行ったらそれはそれで荒れるんじゃ……!?」


 ……?

 なぜ俺が行ったら荒れるんだ?風紀委員の新参者だからか?何にしろ、大葉の方に行くよりかはいいだろう。


 速足で正門前の集団に近づいていく……けど、やっぱ近づきたくないね、これは。

 と言うか生徒指導の先生とか、顧問のジャージ先生とかが風紀委員に連れ添っててもいいんじゃないのかね?何かトラブルが生じた時とかは大人の力が必要でしょうに。


 委員長はどっか行くし、一年生には初対面から嫌われるし、副委員長は集団に捕まってるし……風紀委員ってハードワーク過ぎないか?


「そこの人たち、何かあったんですか?」



 ……仕事だから、ちゃんとやるけどさ。


 





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