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12.運動しましょう(少女視点)


「亜紀さん、あとちょっとで保健室だからね」

「うん、ありがとう……」


 夢有亜紀こと私は今、保健委員の子に付き添ってもらいながら保健室に向かっている最中です。その理由は……お察しの通り、体育の長距離走で無茶をしたから。

 身体が付いていく訳ないのに、無理以上のことをして紫瞳くんと一緒に走ろうとした。走り終わったときの私の顔色は随分悪かったようで、みんなにすごく心配をかけちゃった……。


 今は走り終わってしばらく経った反動か、身体中がすごく暑い……。汗も自分で分かるくらいだし、顔も熱を持っているのが分かる。


 それなのに、今になって頭は冷静だ。

 なんであんな事しちゃったかなぁ……私……。


 身体を酷使した結果がこれだもの。皆に心配かけて、紫瞳くんに介抱までさせて……。

 

 それに……その……やっぱり一番、いや、なのは……。


『あれ、夢有じゃね……?』

『うわ、やっぱでかいよな……あれで風紀委員とか……』

『と言うか汗で透けて……顔も赤いのがまた……』 

『うわエロ……介抱してぇ~』


 廊下の男子から注がれる、そんな呟きと眼差しが……私の背筋を舐める。

 私は自分の身体を抱きしめるように、両腕を交差させた。


「……大丈夫?気分悪い?」

「っ、ううん。大丈夫……あ、もうここまででいいよ。あなたも次の授業があるし、着替えないと。後は保健の先生にお願いするから」

「分かった、無理しないでね?」


 こんな状況になったのは、自分の勝手な行動のせいだ。これ以上彼女の迷惑になりたくない。

 保健委員の子に感謝しながら、保健室の前で別れる。

 

 うん。保健室なら、変な視線も向けられないから……。


「失礼します、先生はいらっしゃいますか……?」


 私が保健室を利用したことは五回もないと思う。でも、風紀委員としては何度も立ち入っている。

 ここは保健室の性質上、生徒にとっても快適な環境を常に維持するために、早い時期から暖房やクーラーが使われている。だから一部の生徒が行きたがるのが問題になったりして……風紀委員としてお邪魔することも多い。

 ここはベッドはもちろん、ソファーもあるし、涼しいからね。ちょっとだけ気持ちは分かっちゃいます。


 だけど、いつもの先生の声も聞こえないし……席を空けてる?

 どうしよう……空いているベッドって使ってもいいのかな……。


 そんなことを考えていたときだった。


「あれ、もしかして……夢有さん?」

「え?」


 その聞き慣れない声が聞こえると同時に、保健室奥のベッドの一つのカーテンが開けられた。

 ……知らない男子生徒だった。私と違って、制服姿。あ、でも、見覚えはあるような……確か同じ二年生だったと思うけど……。


「うわ、マジで夢有さんじゃん!ど、どうしたの?怪我?」

「え、えっと、そうじゃなくて……ちょっと休ませてもらおうと思ったんですけど……先生は……?」

「せ、先生なら今はいないけど、戻ってくると思うぜ!だからほら、そこで座って待ってるといい!」

「は、はい……ありがとう……ございます……」


 私は相変わらずしどろもどろで、知らない彼の言うとおりにソファーに腰を下ろしてしまった。

 うぅ……この流されやすい性格も、一年生の頃から全然変わってない……。珂月ちゃんにも良くないって言われてるし、私も良くないって自覚してるのに……。


「いやー、まさかあの夢有さんとこんなところで話せるなんてホントラッキーだわ!あ、水とか飲む?場所なら分かるし!それに同学年だからさ、ため口で全然いいから!」

「あ、あはは……ううん、大丈夫……」


 そんな消沈気味の私とは対照的に、その男子生徒がハキハキと話しかけてくる。


 私は彼を知らないけど、彼は私を知っている……こんな状況も、いつものことだった。

 この高校に入学したときから、そうだった。私は、私の意識していないところでどんどん有名になっていた。

 自惚れじゃなく客観的に見て、私の身体と性格は多くの高校生には魅力的に映ったらしい。特にその……む、胸とかは……すごく視線を感じる。さっきの廊下のように。


 そして去年、文化祭のミスコンで優勝してからはさらにそれが顕著になって……この男児生徒もまた、そうして私を知ったんだと思うけど……。



 でも、紫瞳くんは……



 俯きながら、そんなことを考えていた時。

 またゾクリと、背筋が震える感覚がした。


「それにしても……す、すごい汗だな……体操着も透けちゃってるし、顔も紅いし……」


 あの男子生徒がいつの間にか……私の隣に座っていた。

 え、あ……全然気付かなかった……それに、この視線……!?


「わ、私は大丈夫だから……!あなたは休んでた方が……」

「お、俺は大丈夫さ。今の夢有、ほっとけないし……」


 ……違う、違う……!

 この人は、私のことを心配なんてしてない……!だって、本当にそうなら……そんな目で私を見ない!

 顔を伏せていても分かる、まるで舐めるようなこの視線……廊下のときと、全く同じ視線……!


 私の嫌いな……嫌な視線だもん……っ!!


「や、やっぱさ。汗だくだし、身体は拭いた方がいいと思うから……その感じじゃ、体育終わりだろ……俺が拭いてやるよ!」

「……え……?」

「あ、もちろん保健室の清潔なタオル使うからさ!体も怠いだろうし……!」


 ……う、うそ……だよね……?この人、今……なんて言って……。拭く?私の身体を?

 最近の高校生の男女って、こういうことするのは普通なの……!?でも私、この人のこと全然知らないし……!


 声が出ない。

 身体が固まっちゃって、でも震えてて……何も出来ない……っ!

 や、やだ……っ……!なんで……怖い……!


 男子生徒は、さらに距離を詰めてくる。そして……


「すいませーん、失礼しま……す……?」


 保健室の扉が開かれた。


 私たちはそちらに顔を向けるなり、固まってしまう。

 でもそれは、入ってきたその人も同じで……それに、その人は……


「し、紫瞳くん……っ!」


 紫瞳くんだった。

 私と同じ、体操服姿の彼。

 

 さっきまで私を縛っていたものが消えたように、私は顔を上げ、その名前を読んだ。だって、こんな……まるで少女漫画みたいな展開で……!

 

「……すいません、お邪魔しましたー……」

「ふえぇ!!?待って紫瞳くーん!?」




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