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10.運動しましょう2


「えーと、今日は連絡通り体力測定の長距離走をやるんで、まあ無理のない範囲で頑張ること。それから~……」


 女性体育教師の気の抜けた声が校庭に響く。今日は日差しも強すぎず、花粉も少ないそうだ。長距離走の測定にはベストな天候だろう。


 ちなみに前で色々と話している女性体育教師は、うちのクラスの担任だったりする。

 愛称は”ジャージ先生”

 いつもジャージを着ているからというのもそうだが、本当の由来は彼女のジャージのデザインにある。


 もうね、真っ赤なのだ。上から下まで赤一色。今日は赤一色でも、ある日は青一色、またある日はピンク一色というハイセンスっぷり。

 容姿も良く、そのふわふわした授業スタイルも生徒を配慮したものであり、男女双方から人気があるが……そのセンスだけが欠点とされる、いわゆる残念美人と言うやつだ。


 あ、でも俺はあのジャージのセンス大好きだよ?

 視力が低くても一発であの先生と分かるからね。ただ目に悪そうなので長時間は視界に入らないようお願いします。


「じゃ、説明はこのくらいで……準備運動は体育委員よろしくね~」


 さて……この準備運動の間に話を整理しよう。


 議題はもちろん、夢有の目的についてだ。

 

 彼女は二年に進級して同じクラスになってからというもの、俺にチラチラ視線を送ったり、帰るタイミングを合わせるなどの行動に出ていたらしい。

 そしてその真意を確かめるために一対一の話し合いに臨むも、失敗。なぜか友達関係が成立する。

 それから昨日今日と、彼女の行動が変容。チラチラ視線などは消えたらしいが、直接的な接触が増えた……。


 ……怖い怖い怖い!え、ホントに何が目的なの?

 

 最初の想像通り、ストーカーなのか……?しかし学年一の美少女と言われる彼女がそれをする意味も分からない。気の迷いからの過ちだったりするなら許すんで勘弁してください。何なら俺が謝りますので。


 あとは……真人の言っていた恋愛関連か……。

 それこそないだろう。俺に好意を抱く理由がない。ほとんど話したこともないはずだし、何より俺は学校からすれば浮いた生徒だ。

 日常生活に支障があるレベルで視力が低いのに、矯正器具を使わない。授業中は黒板をスマホで撮影し、ノートに顔面を擦りつけるようにして書く。テキストを読む時も同様だ。


 そんな生徒が目立たないはずもなく、一年の頃は気味悪がれたものだ(この話も半年くらい経って真人たちに知らされ初めて知った)。

 二年になってからは周囲も慣れたようだが、俺に対する認識は変わらないはず。


 そしてその事実を夢有が知らないというのは……いや、知っていようとそうでなかろうと、好意を持たれる理由には繋がらない。


「ダメだぁ、分からない……!」

「なあなあ、楠!ちょっと!」

「何だよ真人。俺今考え事してて……」

「そんな考え事なんか、あれ見たら吹っ飛ぶって!」


 いや、考え事が吹っ飛んだらダメでしょ。何を言ってるんだこの子は。

 と言うか、あれってどれ?指で指しても分からないって。


「あれって言われても……準備運動してる奴らがどうかしたの?」

「バカ!女子たちが体を揺らすたびに揺れる、あの胸元の桃源郷が見えないのかお前は!」


 いや見えないよ。見えたとしても指で指し示したり、じっと見つめることはないよ。


「もったいない……お前はこの、世界遺産にも登録されるであろう絶景が見えないなんて……!」

「全世界の世界遺産に謝れ」

「ああ、特に夢有のはヤバすぎる!高校生が持っていいものじゃ……お、こっち見たぞ!ほら楠!」

「……」

「……楠?汗凄いけど大丈夫か?」


 真人の声が遠くに聞こえる。


 ……俺じゃないよね。俺じゃないよね!?

 真人の視線を感じてこっち見たんだよね!?ほら、女子ってそういう視線に敏感だって言うもんね!真人ならいくらでも差し出すので俺じゃないと言って下さい、お願いします。


 いやー俺も自意識過剰だわー。俺な訳ないのにねー。


「はーい、準備運動終わり~。さっそく走るから、みんなスタートラインに立ってね~」

「よし、俺はもうどこにだって走れるぜ。頑張ろうな、楠!」


 ……くう、結局何も分からず仕舞いだ……!

 しょうがない、今は長距離走に集中しよう。走り込みの最中に考え事なんてしたくない。ただ無心に走って、一度頭をリセットする!


「が、頑張ろうね、紫瞳くん」

「ん、そうだ……ね……」


 ……あれ、真人ってこんな可愛らしい声してたっけ。声変わりかな?

 なんか……髪もめっちゃ伸びてない?成長期ですか?


「私、走るのは得意じゃないけど……今はどうしてか、頑張れる気がするよ!」



 ……夢有亜紀、俺の隣に降臨す。




 そして、スタートの合図である笛の音が鳴り響いたのだった。




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