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4月11日-2

授業を終えて、先生に見つからないように隠れてスマホのRPGをやっていると、時刻はもう5時を回っていた。


レベルアップのスキル振りに悩んでいたところで楓が戻ってきたので、携帯を閉じて首だけ回す。


「おう、おつかれ」


「ねえ、拓真にとって私って何?」


「おお、どうした突然。スゲ~難しい質問きたな」


苦笑いの楓から突然謎の質問が飛んできた。


何、とは勿論『どういう関係ですか』という意味だろうけど。


「最初に思い浮かぶのは、準 家族、かな」


友達と呼ぶには近すぎて、恋人と呼ぶにはあまりにも遠い存在。


本当はもっと良い呼び方があるのかもしれないが、考えたところでどうしようもないので今は放っておくことにした。


「準、って何よ?家族にはギリ届いてないの?」


「血が繋がってないんだから家族じゃない、でも友達と呼ぶには流石に他人礼儀が不足しすぎているから準、だと俺は思ってる」


「なるほどねぇ。確かに他人行儀がなってないのはお互いよく分かるんだけど。


ちなみに拓真基準だと、私が拓真の部屋にいる時はどこまでならセーフなの?」


「俺か?人間としてアウトじゃなければセーフだぞ。裸足だろうが、オナラしようが股をポリポリ掻いてようがまあ俺は許す」


楓の方は知らんけど、俺の方はこれくらいならまだ妥協できる。


「えぇ……拓真の妥協点かな~り緩くない?」


自分で言って初めて気づいたのだが、確かに俺の許容範囲量は自分で思っていたよりも割と広かった。


器が広いとみるべきか、楓に甘いとみるべきかは微妙なところだけど。


「おう、そう思ってもらえるとは光栄だな。ところで、それは誰のせいだろうな?」


ジト目で楓を見やる。やった後で気づいたが、俺がジト目をする意味は全くなかった。


「あの、すみません、ブーメラン刺さってますよ?」


「大丈夫だ、楓と違って人は選んでるんでな」


コイツもある程度は人前での態度を弁えているとは思うが、もし女子同士で買い物になんか行った日にはきっとその本性がバレて『あはは、楓ちゃんってやっぱ面白いね!』と言われるに違いない。


それ自体は決して悪いことじゃない。その被害を毎日受けるのが問題なだけで。


「ちょ、私もちゃんと人選んでるから!拓真はいないも同然と考えて行動してるだけだから!」


「その言い方はちょっとヤバくないか?もし俺が楓のこと好きだったらどうするんだ?」


「そうやって予防線を張りながら告白してくる人の事は好きになれそうにないんですごめんなさい、って思う」


「何もしてないのに妙に心を抉られるからやめろ」


「はっ!?身体が勝手に告白の文字に反応して断っちゃった!?」


「お前の脳はどんなプログラム組んでるんだよ……」


ま、その展開になる予定はない。


暇さえあれば俺の部屋に転がり込んで俺が買ってきた漫画を勝手に漁り、ギャグシーンで「うほほほww」と笑うような女のどこに惚れる要素があるんだ。


あとその笑い方はチンパンジーじゃなくてゴリラだ。お前は美顔チンパンジーだろ。ちゃんとチンパンジーらしくしろ。チンパンジーらしくってなんだ???


「じゃあ一つだけ直して欲しいところ言って良いか?」


「はい、どうぞ」


「俺の家でくつろぐ時に、気を抜きすぎてパンツ平気で見えるのやめてもらっていいですか?」


「どうして?もしかして、興奮しちゃうとか?」


煽るように小馬鹿にした口調で楓は返したのだが、それをテストで書いたら問答無用で0点だ。


「はぁ……10年も一緒に居て、こんな問題も正解できないのか」


代表的な『分かってない』の回答例。


止まらないため息を心に沈め、男心のレクチャーを始める。


「いいか?JKのパンチラってのはな、もっと神聖であるべきなんだよ。無自覚な色気とか、ふわりとめくれるスカートとか、女の子の恥じらい、あるいは笑ってるかもしれないが、その表情にも趣があるんだ」


「は、はぁ」


いかん、喋っていたら更にイライラしてきた。


周りに居残りしてる人が居ないことを確認して、語気を荒げる。


「それをお前はさぁ……恥を知れよ、ホントに!!」


そうだな。言って気づいたが、コイツはもっと恥を知るべきだ。2つの意味で。


「え、えーっと、つまり、今度からはパンツが見えてたらもっと恥じらえってこと?」


「違う!そもそもパンツを見せるな!」


「え?」


作り物の恥じらいなぞ、2次元媒体や3次元媒体で腐る程見ている。


男が求めているのは、決して飾り気のない素の表情なのだ。


「例えば、例えばの話をしようか。


俺が友達と喋ってる時に、風が吹いてパンチラが見えたとするだろ?


友達はそれを見て『うひょ~エッロいもん見れたなぁ~』と悦びに浸れるわけだ。


対して俺はどうだ?


『う~ん、楓のせいでJKのパンツなんて見慣れてるしなぁ……どこがエロいんだ?』


はああああああああああ!!!???そんな訳ねえだろ!!!???」


情緒不安定の人みたいになってる。どれもこれも楓が悪い。


「男子高校生が!JKのパンチラを見て!興奮できない!つまり、この世の終わり!分かったか!?」


勢い任せに無茶苦茶喋ってしまったわけだが、これで罪の重さを楓は実感してくれただろうか。


いや本当に重罪だろこれ。俺の青春が始まらない原因の何割を楓が占めているのだろうか。


「お、おう……」


一応言っておくが、楓が美人じゃないと言っているわけではない。


カワイイか?と聞かれたらカワイイと答えるし、


彼女にしたいか?と聞かれれば素性をもうちょい知らずに済んだら考えたと答えるし、


シコれるか?と聞かれたらシコれなきゃ殺すぞと脅迫されたらやむを得ずと答える。


だがその美貌が時として俺に致命的なダメージを与えていたことを、コイツには深く反省してもらわなければならなかった。


何が良くないって、たま~に楓の部屋に遊びに行くと本気で良い匂いがするのがダメ。


ステーキ的な猛々しい匂いじゃなくて、洋菓子屋さんみたいに上品な香りがするのが余計に腹立つ。中身は下品なのに!!!!


「それで何故この世の終わりになるのかは置いといて、さ。口調的に、私が謝らなきゃいけないことは分かった。それは分かったんだけどさ、


そこまで言うなら、私からも一つ言わせてもらっていい?」


「おう、何だ?」


楓に罪の重さを実感してもらうなら、ある程度のことなら喜んでする所存だが。


「例えば、例えばの話をするね?


暇だな~と思って遊びに行った男の人の部屋を色々漁ってエロ本見つけたら……どう思うよ?」


「んー、まあ普通じゃないのか?」


「しかもさ……内容が何故か幼馴染モノの本が多かったらどうするよ?」


「ん?」


やべ、これ流れ変わっちゃうやつ。


「あれ……これ、バレてる?」


「いやいやいや、バレてるも何も机の本棚に堂々と置かれてるよね?アレが見えないの?」


「うわあー本当だ―」


「ちゃんと時系列順に並んでるのが余計に腹立つよね」


エロ本がバレているのはこの際仕方がない(=どうでもいい)として、どうして中身を見てしまったのか……


それだけが、ただ悔やまれる。


「いや、違うじゃん。アレは、俺は楓相手に隠し事はしないぞ!という覚悟の表れじゃん」


「なるほど、マジで気まずいからやめてね。拓真の中で私ってどういうポジションなの?」


うわー、これ軽く引かれてるやつ。必死に弁明しなきゃ……


「しゃーないだろ!オリジナルの純愛系作品を漁るにはこれが一番手っ取り早いんだよ!!」


ファンタジーの幼なじみ物は大好物である。何故なら、目の前にいるのは耳を瞑れば最高の女の子。


このフリー素材の美貌と、ファンタジー特有のロマンチックな展開が合わさればそれはもう無敵である。


目の前の本人には言えないけど。


「普通の買えや。あの、そこそこ迷惑してるし一応言っとくとあんまり嬉しくないからね?」


「まあ……その、はい」


割とガチトーンで言われた分何も言い返せなかった。


まあしゃーない、こういう機会に新規開拓でもするか。


「あ、そうそう。それで思い出したんだけどさ」


「エロ漫画見て思い出す話題ってことは、ロクな話題じゃないな」


「時間あったからその本読んでたんだけど、どうしても分かんない箇所があって」


「あ、少年誌だけじゃなく成年誌も読むのね」


「読まず嫌いは良くないかなーって思って」


この女、中々に雑食派である。


「『ぐっ……理性が……溶ける……』みたいなことってあるの?男目線のセリフだからよく分かんないんだけど」


「別にそこで迫真の演技しなくていいんですけれども」


「理性溶けたらヤバくない?性欲爆発猿人になるってこと?」


「えらい語感いいなそのあだ名」


今度使ってみるか。どこで使うんだよ。


「うーん、友達の話なんだけど、ここまでならしてもOKみたいなラインがどんどん下がっていくって言ってた。キスしてOKなら身体触ってもええやろ……身体触っても嫌がられないなら、もっとその先まで……みたいな」


「うひょー。エッチですなぁ」


「まあ大体は男側の性欲に依存するらしいけどな。性欲ない時にキスしても虚無になるだけなんだとか」


「へー。それって、やっぱり好きな人限定なの?」


「うーん、残念ながら多分可愛い子だったら大抵はそうなると思うよ。人間そんなに上手く作られてないし」


好きな人相手なら男側も濡れるらしい……という情報は言わないでおくことにした。需要ねえし多分面倒なことになるので。


「え!?じゃあ私ヤバイじゃん!何かの拍子に拓真にキスされたら絶対襲われちゃうじゃん!」


「その時は黙って素数数えてやるから安心しろ。てか、女の子の方はそうならないのか?」


「え?そりゃあ、男の人と比べたらなりにくい気はするけどね。彼氏の家に遊びに行く時でも、ここまではOKだけどこっからはダメって自分ルールを守る子結構いるし」


「へー。ところで、周りから見たら貴方は彼氏の家にいるらしいけど、貴方はどこまでOKなんですか楓さん?」


「んー、バレなきゃ大体は何されてもOKだけどね。こっちも気づいちゃうと色々面倒だし」


「うわあ、理由が超楓っぽい」


「それ絶対褒めてないよね?」


「あれ、バレた?」


「まったく。寝てる間にスカートめくってやろうとか今まで思わなかったわけ?」


「あ……。その、なんだ、悪かった」


「え?ガチであったの?初耳なんだけど」


「楓が実は自分の下着を見られたがってたなんて知らなくて……今度からちゃんとめくるから!」


「やらんでいい!てかちゃんとやるって何を!?」


「おー、自分でも難しいボケだと思ってたけどきちんと乗ってくれるのな」


「中々に失礼極まりないボケだったけどね」


「これくらい出来ないと全国行けないもんな」


「壁高いな全国!むしろ世界大会のレベルが気になるわ!」


その日を境に、俺は電子書籍派に乗り換えることにした。

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