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4月7日-3

これからはともかく、最初の一日ってのは学校でも気分がいい。日常が戻ってきたような感覚だ。


それは流石に嘘か。気分良くないとやってられないの方が正しいか。


「さて、今年のクラスはどうなってるかね~」


俺と楓は、幼馴染のお約束というべきか何か、今まで9年間同じクラスという驚異的な縁の強さを持っている。


だがしかしそれは中学校までの話。


中学校までは1学年2~3クラスだったのに対して、高校ではなんと1学年6クラスになったのだ。


高1の時はたまたまその6分の1を引いただけだし、2年連続でクラスが被る確率なんて36分の1なのだ。


流石に今回はないだろう―――そう思いながら掲示板を見やる。


一番上か二番目に俺の名前がなければ次のクラスに移ればいいので、俺の名前はあっさり見つかった。


「6組か」


さてさて、クラスメイトの面子はどうなってるかな―――



教室には既に先客がいた。


「よーっす、早いなトシ。今日も自主練か?」


俺のことをトシ、と呼ぶコイツの名前は 鎌田(かまた) 敏則(としのり)


中学からの悪友で、2年生にして野球部のエースにまで上り詰めた根っからの野球バカだ。


野球しか頭にないはずなのにどうしてこの進学校に来れたのか不思議でならない。


「よっす!そうそう。あれ、今日はご夫婦揃って?」


「そうそう、今日が結婚記念日なんでな」


「ごめんなさい、あなた。もう終わりにしましょう」


「おいおい、朝から昼ドラか?」


「拓真がぁ、どうしてもぉ私と一緒に登校したいっていうからぁ、しょうがなくてぇ~~ね?」


突如始まったぶりっ子の演技。演技だと分かっていながら騙される男が何人も出そうな程にあざとさを理解した上目遣いが俺を射貫く。


「ウザさが足りん、70点」


「いや~~厳しいね。何が足りなかった?」


「呼び方が彼ぴっぴじゃないし、あとは俺の腕をつかんでスリスリするくらいの勢いが欲しかった」


「え?私にそれやって欲しかったの?喜んで断るけど」


「なわけ。演技でいいし逆に本気でされたらこっちもリアクションに困るわ」


実際もしされたらどういう感触なんだろうか。


仮にも女の子だ。


柔らかくて、しかしその中にも弾力があり、更には女の子の甘い香りも漂ってくる可能性が高いってことは、それはつまり芳香剤をまぶしたプリンに抱きつかれるのとほぼイコールだ。すげーベトベトしそう。


「お~い、俺を置き去りにしないでくれ」


「ああ、悪い。どっかでトシにも話振るつもりだったんだけど振れなかったわ。精進します」


「そうだぞ、もっと精進しろ~~」


3人で対等に喋る技術を俺には持ち合わせていないので、楓のボケはありがたく無視させてもらうことにした。


もっと正確に言うなら、芳香剤を塗したプリンという謎の存在が強烈過ぎて楓のボケを全く聞いていなかった。いっか、楓だし。


「今年も一緒のクラスか。よろしくな、トシ!」


へーい、とその場のノリでハイタッチを交わす。


「おう。よろしくな、二人とも」


「え?」


「おーう!」


そう言って、トシと楓がハイタッチを交わす。


はは、何を言ってるんだ。と心の中で苦笑する。


俺を含めた3人が2年間ともに同じクラスになる確率は、なんと1,296分の1なのだ。


つまり、トシが言った言葉は99.9%以上嘘。


「ははは、何を言っているんだトシ。俺ら二人がまた同じクラスになれただけでもラッキーなのに、楓も一緒なわけがないだろう。」


「落ち着いて聞いてください。お気の毒ですが、貴方と佐藤さんは……今年も同じクラスです」


「何でだよ!もういいよ同じクラスは!!」


嫌だとは言わないが、流石にもう飽きた。


せめてもの見どころがあるとするなら、楓の自己紹介でのネタを期待することぐらいか。今年は面白いといいんだけどな。


「え~いいじゃねえかよ。実質カップルみたいなもんだろうし」


「「うわぁ……」」


トシの『分かってない』一言に思わず俺と楓の声が被る。まるで仲良しみたいだ。


楓と目線がぶつかり合う。


【どっちが説明するよ?】とアイコンタクトで勝負した結果、負けたので俺が喋ることにした。


「トシってさ、確か妹ちゃんいなかったっけ?」


「ああ、3つ下だけど。それがどうかした?」


「お前、妹に欲情したことはあるか?」


「はぁ?有るわけないだろ。なんだ急に」


「奇遇だな、俺もだ」


「え?」


「あいだっ!?」


トシの方を向きながら、ノールックで楓の頭をグーで小突く。


ちょっとだけやり過ぎたかと思ったが、楓なのでまあいいかと思い直した。


「ってわけ。家族に恋しろとか、無理ゲー。逆に楓に俺がベタ惚れしたら自分で自分に精神病院行きをお勧めするね」


「言いすぎだろ?もし本当にお前がベタ惚れしたら、特大のブーメランが返ってくるぞ」


「無いから言ってるんだけどな……」


とはいえ、俺も男だ。


もし楓に惚れるようなことがあれば、潔くそのブーメランを顔面に受けて散るとしよう。


「そうやって困ったら暴力に頼るの、良くないと思うな~~」


トシと喋っていたら、いつの間にか楓がリスポーンしていた。


「安心しろ。俺は女の子には手を上げない主義だ」


楓は家族に似た何かなので、傷跡に残らない程度の暴力なら許されると勝手に思っている。


「いや、流石に妹も女の子に含まれると思うよ?どうなの、トシ君」


「う~ん、俺もあんまり妹の部屋には立ち入らないようにしてるから、女の子ではあると思うぞ」


「ほら~~!やっぱり私も女の子じゃ~ん!」


「じゃあもっと距離感の近い何かだろ。奥さんにしとくか奥さんに」


「ごめんなさい、あなた。もう終わりにしましょう」


「天丼が許されるのは小学生までだぞ、覚えとけ」


何故俺が怒られなければいけないのか?


一応傷付けないように徐々に力を入れていった俺の配慮にむしろ楓の方が感謝すべきではないのか?


理不尽すぎる言い訳を考えながら、朝の健やかな時間はあっという間に過ぎていった。

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