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4月7日-2

今日は文字通りの快晴で、空には雲一つない青空が広がっていた。


物語では春の暖かな日差しが降り注ぎそうないい天気だが、朝の寒さは冬と何一つ変わっていない。


「うわ寒っ!ストッキング履いときゃよかった~」


楓が振ってくるネタの難易度も変わっていない。


「自業自得だろ。頑張れ、オシャレのために」


「拓真、実は今日奇跡が起きてストッキングを手に入れたり――」


「するか。何でわざわざ母親に『今日楓がストッキングを忘れるかもしれないから、ストッキング借して―』って言わきゃならんのや」


そこまでいったら用意周到を通り越して軽いストーカーである。


「えぇ……やったことあるの?冗談のつもりだったのに」


「あるか。楓から振っといて自分で引くなや」


「んで、本当は何で呼んだのよ?楓お姉ちゃんに話してみなさいな」


「あの、今のくだりいりますか?」


楓の言う通り、俺から楓を呼んで一緒に登校するのは最近では珍しくなっていた。


というのも、楓が朝早くから登校して誰もいない教室で勉強するからなんだけど。


偉すぎるなコイツ。美顔パンジーなのに。


「ところでお姉ちゃんis何???どうみても妹の方が近いだろ。体型的に」


チラッと隣を見やるが、ある日突然ボンキュッボンになりました~~なんてことはなく、普段と変わらずスリムな体型をしていらっしゃる。


「出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでるはずだったの!身体が臆病さんだからなかなか出てこないだけなの!」


「キュッキュッキュはダメだろ。水道の蛇口か?」


「うるせえ黙ってろ」


「すいませんでした」


「全く、女の子に向かってデリカシーがないとは思わないのかね君は!」


「女の子だと思ってたらこんな風に一緒に歩けてないぞ。見つめ合うと素直にお喋りできない人間だからな」


「拓真の場合は見つめ合ってなくても喋れてないでしょ。私と違って」


「ぐっ……負けました」


痛いところを突かれた。同性と異性ではどうしてこうも難易度が違うのか。


女の子に自分から喋りかけるとか、割と上位の難易度を誇る気がする。


「それで、結局どうして私を誘ったの?本当に告白?」


「ああそうだった、話の本題を忘れてた」


「ごめんなさい、気持ちは嬉しいけど付き合えません」


「告白じゃないけどな?今日の占いで、自分の長所を伸ばそう!って言われたから、俺の長所って何?って聞きたかったんだよ」


「え?……人に無理難題を押し付けるのは良くないよ?」


「そういう時は笑顔が素敵だね~レベルの抽象発言して誤魔化すんだよ!真に受けんなよ!」


「……真に受けないとダメなんじゃないの?」


「確かに。……」


「……」


話が止まり、ただ黙々と学校に向かって歩みを進める。


楓的にはこの話は飽きたらしい。


「あれ?これ俺が悪いの?」


別に気まずい訳じゃないが、このままでは俺が本物のダメ人間みたいじゃねーか。


「んじゃあ逆に、楓が思う自分の長所って何だ?」


「家族に恵まれている。以上」


「早っ!そして少ないな~おい」


「だってそれしかないんだも~ん」


「いや……流石にもうちょいあるだろ。ポジティブとか、他人に流されないとか、頭がいいとか、顔が良いとか」


思い付きでポツポツ言ってたら思ったよりいっぱいあった。なんと羨ましいことか。


「お、どうした急に。本当にデレ期じゃん」


「うっせえ。俺とは違って良いところいっぱいあるな~って話」


「まあまあ、そんなに自分を卑下しなさんな」


「すまん、誰の声真似か素で分かんない」


また最近読んだ漫画に毒されてるなコイツ。


「今拓真が言った言葉はね、半分本当で半分嘘だと思ってるの」


「ん、どういうことだ?」


「拓真が言ってくれたように、ポジティブとか、他人に流されないとかは本当のことだと思う」


「じゃあ、嘘って……」


「それが長所かどうかってのは、また別問題だよ。拓真が言ってくれたそれは、綺麗な言い方をしてるだけ」


「……」


「ポジティブって言うのは楽観的、何とかなるだろうっていう無責任な考え方と隣り合わせだし、他人に流されないってことは自分勝手と表裏一体なわけ。」


突然真面目に自己分析の哲学者になり始めた。


俺と喋ってる時に限って、時々この面倒モードに入るんだよな。マジで疲れる。楽しいけど。


「新学期早々に重い話題を出さないでくれ」


「重くもなんともないよ~~私はただ、【自称サバサバ系女子】と称して好き勝手に批判しかしない女の子が嫌いって話をしただけだよ~~」


口調こそ軽かったが、その目が笑っていないであろうことは隣を見ずとも察した。


「どうした?その子に両親でも殺されたのか?」


「自分だけ安全なところから攻撃しようだなんて甘すぎるって話。大乱闘やってるのに一人だけ逃げまくってストック溜める奴が嫌われるのと一緒」


俺のことを言われてるわけじゃないが、自分の行動にも心当たりが多すぎて心に刺さる刺さる。


「いい気分じゃないのは確かだが、それはそれで立派な戦術じゃないのか?」


「うん。そうだよ。あくまで【私は】嫌いってだけ。拓真はそれでいいと思うなら、それはそれで」


「分かり合えなくてもいい」って考え方か。ちょっとドライな気もするけどな。


「う~ん……朝からこんなに頭を使うなんてな。学校前なのにもう疲れたわ」


「なんでよー、拓真から話題振ってきたから答えてあげたのによ~~」


「こんな重い話題になるとは思ってなかったんだよ。ほれ、もう学校やし気分あげてこーぜ」


「私はいつでもハイテンションだよ!イェイ!」


「切り替え早すぎだろ」


「こんぐらい出来ないと女子は名乗れないんじゃない?分かんないけど」


「この世の女の子が全員楓みたいな人間だったら、俺は誰とも付き合える気がしないぞ」


こうしてまた一つ、楓は架空の女の子に対するハードルを上げていくのであった。

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